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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(前編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(前編)

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〜名牙見砦の攻防 城外その二〜


 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の三人は、森にいた。
 行方不明になった草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が、他の失踪者同様、ここにやってくるかもしれないと思った彼らは、率先して哨戒していた。
 そして黒装束たちが襲ってきたとき、その先頭に立つ人物が羽純であると、甚五郎は直感で悟った。
「羽純! おぬし、何をしている!」
「あれ、羽純ちゃんですか!?」
 ホリイは「流体金属槍」を構えたが、どうすべきか迷っていた。羽純だけではない、他の剣の花嫁や機晶姫が相手でも戦いづらい。
 羽純はそんな声など耳に届かぬ様子で歩み寄ってきたが、突如立ち止まり、左手を振った。光の刃が二人を襲う。
「くそっ!」
 甚五郎はホリイを抱き締め、飛びのいた。背後の木が真っ二つに裂ける。
 その隙に、後ろにいた黒装束たちが甚五郎に襲い掛かった。が、ビン! と音がしたかと思うと、一人は足首にロープが締まり、二人は網に救い上げられ、甚五郎たちの頭上へと跳ね上がった。
「うまくいきました」
 木に隠れていたブリジットが呟いた。「竹なら、もっと遠くに跳ね飛ばせたのですが」
「不用意に近づけば、怪我ではすまないぞ!」
 しかし、甚五郎の忠告も空しく、羽純は地面を蹴った。甚五郎は【アンボーン・テクニック】と【金剛力】で、羽純に殴り掛かる。
「少々、手荒になるがな!」
 羽純の頬に、甚五郎の拳がめり込む。その瞬間、閃光が弾けた。
 羽純は木に叩きつけられ、甚五郎も後ろへ吹っ飛んだ。
「くそっ……!」
 甚五郎は右腕を抱えながら、起き上がった。「鬼の手甲」がなければ、文字通り、吹き飛んでいたかもしれない。幸い、肉が焼け焦げただけで済んだ。
 羽純の面にヒビが入り、頬の部分から崩れ落ちた。確かにそれは、羽純だった。だが、目に光がない。気絶しているからか、別の理由があるのかは分からなかった。
 黒装束の一団は、ここからの潜入は無理と判断し、撤退した。しばらく行ったところで爆発音がしたのは、トラップに引っ掛かったのだろう。
「まるで意識がないみたいだった……」
 甚五郎をパートナーではなく、敵として識別していた。撤退したのは、勝ち目がないと判断したからだろう。
「そう言えば羽純がいなくなった頃、何かの声を聞きました」
 まるで誘われるような――否、行かなければならないと思うような。感じ取ったのは一瞬のことで、すぐに緊急自爆をするため広場を探したところ、その「声」は聞こえなくなった。
「あの人たち、何か知ってますかね?」
 ホリイはぶら下がったままの黒装束たちを見上げた。一人がロープを切ろうとしているところだった。
「おう。まだ終わっていないようだぞ」
 甚五郎の言葉に、ホリイとブリジットはそれぞれ武器を構えた。


 砦の東を守っていた猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)の前に現れたのは、ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)セイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)だった。二人は、仮面を外して近づいてくる。
「上手いやり方だ。敵は、自身の尖兵を手に入れるのと同時に人質をも手に入れたのだ」
「何でそんなに落ち着いてるんだよっ!?」
「あの二人が相手だ。落ち着かねば、こちらがやられる……」
 セイファーが地面を蹴った。「黒刀『八咫』」で【疾風突き】を繰り出す。ウルスラグナは「レッドラインシールド」でそれを受け流した。
「セイファー!!」
 勇平は「白竜鱗剣『無銘』」を振り回した。ブウンッ、と空を切り、剣は大木を斬り倒す。
 ウイシアが「稲妻の札」を使った。勇平の全身に電撃が走る。
「勇平!」
 ウルスラグナが駆け寄ろうとするが、再びセイファーが【疾風突き】で襲い掛かる。肩にそれを受け、ウルスラグナはよろめいた。追い打ちをかけるセイファーに、勇平の剣が襲い掛かる。しかし、当たらない。いや、当てられないのだ。
「くそっ、なんでこうなっちまったんだよっ!」
 どうにか元に戻す手はないものか――ギリ、と勇平は歯噛みする。
「無理に捕えても、原因が分からん限り同じことの繰り返しになるだけだ。今はただ守りきることのみを考えよっ!」
「分かってる!」
 だが、こちらは致命傷を与えられないのに対し、相手は容赦がない。圧倒的に不利だ。
 光のない瞳で、ウイシアとセイファーは勇平たちを見る。
 その時、二人の背後で大きな音がした。
 城壁が破られたのだ。
「しまった……!」
 そちらを振り返る勇平の腕を、ウルスグラナは掴んだ。
「中にいる者たちも猛者だ。そう易々と、突破されまい。今は、この二人の足止めだけを考えろ」
「……ああ」
 勇平は頷いた。
 ――絶対に、赦せない。
 セイファーが刀を、ウイシアが「稲妻の札」を構えた。