リアクション
〜名牙見砦の攻防 一階その二〜 桜葉 香奈(さくらば・かな)は、買い物に出掛けたまま戻らなかった。その辺りは、ベルナデットや他の失踪者とよく似ている。 彼女は今、黒装束たちと共に「風靡」のある建物へと向かっていた。 「香奈!!」 佐保や織田 信長(おだ・のぶなが)と共に、侵入した黒装束たちを捕まえていた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、その中に香奈の姿を見つけ、愕然とした。 香奈は面を被ったまま、ゆっくりと振り返った。 「香奈!」 近づこうとする忍を、黒装束たちが遮る。 「私に任せておけ!」 黒装束たちは信長に斬りつけた。信長は【神速】を使い、避ける。剣が地面を抉り、土の塊が飛び散った。それを隠れ蓑に、ブラスターナックルで黒装束たちの武器――それも、融合していると思われる部分を狙った。 一発では揺らぐだけだ。二発、三発と打つと、融合していた部分が吹き飛び、黒装束は叫び声を上げて倒れた。 「よし!」 だが、仲間がやられたというのに、残りの黒装束たちは一向に臆する気配がない。 「ならば、これはどうだ!」 信長は修羅の闘気を纏い、【英霊のカリスマ】を発した。さすがに黒装束たちが立ち竦む。信長は、その隙に武器を吹き飛ばすことにした。 黒装束は信長に任せ、忍は香奈と対峙していた。 「香奈! 一体どうしたんだ!? 俺のことが判らないのか!?」 【剣の結界】で守られた香奈には、近づけない。ままよとばかりに、忍は足を踏み出した。魔法で出来た剣が、忍の手や足を切り裂く。 「香奈!!」 体中から血を流す忍だったが、歩みを止めない。香奈は、大きく両手を上げた。 「!!」 【無量光】だ。咄嗟に、ほとんど条件反射のように地面を蹴り、忍は香奈に抱きついた。 降り注ぐ光が忍の背に突き刺さる。 「忍!!」 信長は黒装束たちの間を駆け抜け、忍の服を掴むや、香奈から引き剥がした。忍の手が、香奈の面を引っ掛けて落とす。己の【無量光】で、香奈もいくらか傷ついていた。にも関わらず、まるで痛みなど感じていないように無表情な香奈が、二人を見つめている。 「……か、な……」 信長は【龍の波動】を香奈に向けて放った。 同時に、残っていた黒装束たちが建物へと雪崩れ込んだ。 建物一階、南の入り口付近を守っていたのは、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の二人だ。 「申し訳ありません。ジャマーを作成できていれば……」 エルデネストは、深々と頭を下げた。彼は機晶兵器を無効にするジャマ−を開発しようとしたのだが、どうしてもうまくいかなかった。 「出来なかったものは仕方がない。あまり自分を責めるな」 グラキエスは微笑んだ。 外のウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)から、敵の襲来を告げられたのはその時だ。 扉を破って、黒装束たちが次々にやってくる。 「来たか」 二人も並べば塞がってしまう通路のため、黒装束は一人ずつ入ってきた。 グラキエスはまず【ブリザード】で先頭を凍らせた。脇の部屋に潜むエルデネストが、それを引っ張り込む。 次にマシンガンを構えている黒装束を見、グラキエスは【サンダーブラスト】を叩きつけた。エルデネストは再びその男を引っ張り込み、半ば無理矢理、マシンガンをもぎ取った。黒装束は叫び声を上げ、やがて動かなくなった。 そんなことを二〜三度繰り返したが、黒装束の数は一向に減る気配がない。 グラキエスは【禁じられた言葉】を使った。その隙に、七人目の黒装束が殴り掛かる。が、その拳は何かに包まれたように、グラキエスには届かない。エルデネストの粘体のフラワシが守っているのだが、無論、そんなことは分かろうはずもない。 更に外にいたウルディカが、【隠れ身】で姿を消したまま、【疾風迅雷】を使い、背後の敵を【ブラインドナイブス】で攻撃した。挟み撃ちにされ、黒装束たちがさすがに浮足立った。 カッ、とグラキエスは目を見開き、【クライオクラズム】を放った。同時にウルディカが【則天去私】で攻撃。――後に残されたのは、ピクリとも動かない黒装束たちだった。 ドクター・ハデス、高天原 咲耶、デメテール・テスモポリスの三人は、アルテミス・カリストの尊い犠牲の下、建物内への侵入を果たしていた。 「何なんですか、ここ! 何でこんなにトラップがあったり敵がいたりするんですか!?」 咲耶は泣き声に近い叫びを上げた。 「ふははは。これだけ守りが堅固ということは、『風靡』にそれだけの価値があるということだな!」 ちなみにハデスは「風靡」がどんな剣であるか、全く知らない。 「さあ行け、行くのだ!」 ハデスの調子に乗った命令に従い、咲耶はやれやれと足を踏み出した。すると彼女の前にいた特戦隊が三人、立て続けにレーザーで撃たれて倒れた。 「いきなり!?」 咲耶と特戦隊の二人、そして下忍は天井に注意を払いながら進んだ。 バキリ。 踏み出した足が、物の見事に板を踏み抜き、四人は真っ逆さまに落ちた。それほど深くはないが、底には水が張ってあり、落ちた瞬間、流れた電流によって四人は気絶した。 「……あれ? 黒装束じゃない?」 穴を覗き込んだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は首を傾げた。「機晶姫でもないわよね?」 「剣の花嫁でもないようね」 セレアナ・ミアキスも頷いた。「彼女たちも、面と黒装束をつけているらしいから」 「じゃ、これ誰? もしかして、味方?」 「そんなはずないけど……」 メンバーは全員、顔合わせをしている。 「一応、助ける?」 セレンは穴に下りようとしたが、セレアナは慌てて止めた。 「その恰好で!? 感電死するわよ!」 「あ、そっか」 てへ、とセレンは舌を出した。彼女はいつも通り、ビキニ姿だったのだ。 アルテミスと咲耶の尊い犠牲の下、ハデスとデメテールは先に進んでいた。目の前には、二階へ上がる階段が見える。 「ふふふふ。遂にここに来たか。後は向かうのみ!」 「よーし、デメテールちゃんに任せるのだー」 「ん?」 すっくと立ち上がったデメテールは、階段ではなく、部屋の壁へ向かって突進した。【壁抜けの術】ですんなり抜け、――そして戻ってこなかった。デメテールについていた特戦隊と下忍は、おろおろしている。 「……仕方がない。お前たちも俺についてくるのだ。いや、まずはお前たちが先陣を切れ!」 ハデスの命令で、特戦隊十名が、わっと階段へ向かった。 だが、戦闘の二人が一瞬にして吹き飛ばされる。 「今掃除中だ、近づかないでもらおう」 どう見てもメイドの朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、箒で叩いたものらしい。 「そ、掃除って……ここ、砦だろう?」 「どんなところでも綺麗にするのがメイドだ。暴れるなよ、そっちは掃除したばっかなんだ。埃が立つ」 ハデスはそうっと足を上げ、裏を見た。泥がついている。 「あーあー! 汚したな!?」 垂の両目が釣り上がった。 「【お引取りくださいませ】だ!」 剣の代わりに箒を振り回し、なぜかメイド服が鋭い錐のようになり、特戦隊と戦闘員と下忍に襲い掛かる。 「こ、これはいかん……戦略的撤退だ!!」 ハデスの命令で、特戦隊と戦闘員は逃げ出した。下忍は垂に捕まった。 そしてデメテールは、 「お宝はっけーん!!」 ――誰かが持ち込んだおやつを全て平らげ、戦闘が全て終了した後、悠々と引き揚げた、とのことである。 |
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