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死いずる国(後編)

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死いずる国(後編)
死いずる国(後編) 死いずる国(後編)

リアクション


そして死人は
PM23:30(タイムリミットまであと30分)


「ああ、あああああ、ああっ、おにいちゃ、んっ!」
「……そうま、そう、まっ……」
 硯 爽麻(すずり・そうま)鑑 鏨(かがみ・たがね)は、横須賀基地に向かっている最中だった。
 しかし他の人物たちとは、大きく差を開けられていた。
 彼らは横須賀基地に進む時間より、別のことにかける時間の方が長かったからだ。
 鏨は、爽麻に縋る様に彼女を抱く。
 抱いている間だけは、自分を保っていられる気がして。

「あ……兄さん、お兄ちゃん、いつでも、一緒だよ。もう離れないでっ」
「ああ……」
「ああ、でも、でも、行かなきゃ。横須賀に」
「……爽麻が、それを望むなら……」
 緩慢な様子で爽麻を離す鏨。
 もう、何度目かのやりとりになるだろう。
 鏨によって引き裂かれてしまったセーラー服の代わりに、爽麻は神社で見つけた巫女装束を身に纏う。
 そして歩き出そうとした爽麻を鏨は腕を取って引き留め、そのまま覆いかぶさるように唇を奪う。
「あ……」
 その時だった。
 不思議な。
 なんとも言えない感覚が、彼女たちを襲った。

   ◇◇◇

 横須賀基地の外。
 その場にいた半数が、不思議な感覚に包まれていた。
 半数……それは、死人の数。

「フハハハハ……お? おぉおおお?」
 刀真らと戦っていた十面死ハデスは、自分の体を見る。
 全身から、淡い光が迸っていた。
 小夜子に倒され、横たわるロザリンドの体からも。
 隠れていた神楽坂兄弟からも。
「これは……」
「やった、のかな」
 刀真が、歌菜が、勝利の予感を感じ取る。
「始まったようだな」
「そうですね」
 そんな中、むくりと地面から起き上がった人物がいた。
 その様子を見た、輝夜の顔色が変わる。
「あ……さ、皐月……」
 先程、十面死によって殺されたばかりの皐月と七日だった。
「やあ。無事、宝珠は……ぐふっ」
 輝夜に話しかけた皐月は、しかし最後まで言葉を発することができなかった。
 輝夜の手に持つ爪が、皐月の胸を貫いたから。
「さつ……あっ」
 七日の胸もまた、輝夜の爪で血に染まる。
「どうし、て……」
「皐月……皐月」
 輝夜の瞳から、涙が零れる。
「あたしは、この目で見たんだ。皐月が死ぬ所を。殺される所を。皐月の意図に反して死人になって動き出すくらいなら、この、あたしの手で……っ」
 泣きながら輝夜は爪を振るう。
 その度に、皐月の、七日の体から血が噴き出す。
「いや、違、ち、が……う、これ、は」
「あああああああっ」
 涙を流しながら、輝夜は何度も何度も皐月を刺す。
 その動きが止まるまで。

 死人たちは皆、その体から光を漏らしながら崩れていく。
 皐月と七日は光を発することなく、ただどくどくと血を流し続けるだけ。
 その事実に、輝夜はまだ、気づかなかった。