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死いずる国(後編)

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死いずる国(後編)
死いずる国(後編) 死いずる国(後編)

リアクション


もうひとつの潜入
PM21:00(タイムリミットまであと3時間)


 潜水艦が、音もなく海中を進んでいた。
 目的地は、横須賀基地。
「間もなく、研究者たちの脱出口だ。そこからなら内部に潜入することも可能だろう」
「……」
 矢代 月視(やしろ・つくみ)と名乗る人物の言葉に、同乗している飛都はただ無言だった。
 月視はコームラント・ジェノサイドが解き放たれる前に横須賀基地を出て、つい先程飛都との合流を果たした。
 彼は飛都に告げる。
 基地への潜入方法を。
 しかし飛都は……いや、飛都と名乗る人物には、それよりも驚愕することがあった。
「何故、お前なのか……」
 月視は、飛都だった。
 そして飛都は、飛都ではなかった。

(おかしい……)
 潜水艦の中、月視は終始違和感を感じていた。
 潜水艦のハッチの、ロックが解除されていた。
 一応内部は確認して問題なかったが、どこか見落としている点はないか……
「『飛都』……ん?」
 押し黙ったままの飛都に声をかける。
 しかし返事はない。
 そのまま、飛都はぐらりと倒れた。
「飛都、飛都……っ!?」
 彼の瞳に、生気はなかった。
「一体、どうして……はっ!」
 ほんの小さな隙間だった。
 本来なら、計器類がある筈の。
 それが外され、そのスペースにあったのは……
「死人っ!?」
 身構える間もない月視に、死人が襲い掛かる。
「あああああっ……」
 生気を吸われているのが、自分が死んでいくのが、そして死人になっていくのが感じられた。
「あ……」
 死に際、月視の目に潜水艦の外部の様子が映った。
 脱出口は、岩で塞がれていた。
「あ……はは、は」
 計器のない潜水艦は、そのままずっと下降を続けている。
 中には、死人が3人。
 死ぬこともできないまま、沈み続ける。