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チョコレートの日

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第7章 ぽかぽか遊び


「雪がいっぱい振ってますね、マスター」
 マスターである雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)と共に、種もみの塔に訪れた南西風 こち(やまじ・こち)は、ひらひら舞い落ちる雪を見ていた。
「……ちょっとだけ冷たいです」
「手、繋ぐ?」
 パラ実生となにやら戯れていたリナリエッタがこちの元に戻り、尋ねる。
「それもいいですけれど……」
 こちは体を温める為に、やってみたいことがあった。
「……ってあれは鈴子さん!」
 リナリエッタは、塔の入口側に鈴子がいることに気付いた。
 鈴子はパートナーのライナと一緒に、呼び込みをしているようだ。
「ごきげんよう、鈴子さん。あらーこんな寒いなかいたのね!」
 リナリエッタが近づくと、鈴子はジト目でリナリエッタを見る。
「寒いですね、リナさん。でもリナさんはさっきまで温かそうでしたわよね。彼氏さんと抱き合っていましたもの」
「彼氏なんていませんわあ」
「え? そんなはずはありませんわ。モヒカンの方とそこでいちゃいちゃしていましたわよね。互いの服の中にまで手を伸ばしたりして。百合園性の品性が問われますから、お付き合いなさっている方であっても、人目のあるところでそのような行為は慎んでくださいませね。お付き合いしていない方と、そのようなことをする方が、百合園に在籍しているはずはないですが」
 ぷいっと顔をそむける鈴子。
「え、そんなあ、破廉恥な行為なんてしてませんよははは。ええっと、気分が悪かったみたいなので介抱してあげてたんですよ」
 リナリエッタは一生懸命ごまかそうとする。
「全くリナさんは……反省の色がなさすぎです」
 鈴子が軽くリナリエッタを睨む。
「すみません、誤解されるようなことをして、今度からは気をつけまーす(人目……はともかく、鈴子目のないところでやりまーす)」
「こんにちは」
 ライナがぺこりとリナリエッタ、そして後をついてきたこちに頭を下げる。
「ライナちゃん、こんにちはー」
 リナリエッタはライナの頭を撫で、こちはライナと同じようにぺこっと頭を下げた。
「あらま、ライナちゃんこんなに冷えちゃって。鈴子さん、休憩にしてはどうです? 塔の中に入りましょうよぉ」
「そうですね。そうしましょう」
「うん! きゅうけいしつがあるばしょ、しってるよ。のみものとかもくれるんだって!」
 ライナが鈴子の手を掴みながら言った。
「それじゃ、そこで休みましょぉ」
「ええ」
 リナリエッタはこちを連れ、鈴子はライナの手を引いて、エレベーターやリフトを利用し、休憩室のある部屋へと登った。

 休憩室で、鈴子のもう一人のパートナーのミルミと合流して、一緒に休憩をとることにした。
 カラオケルームのようなソファーと、テーブルのある大き目の部屋を選んで、ゆっくりくつろぎながら、温かな飲み物を待つ。
「そういえば、この券。百合の方のチョコが貰えるそうなんで」
 言って、リナリエッタが取り出したのは『チョコレート引換券』だ。
 ちなみに、塔の前でサービスしてあげたモヒカン君が落したものだ。
「ふふ……リナは鈴子さんにこのカードを使います!」
「え?」
「鈴子さんには以前和菓子をご馳走になったんで、今度は洋風お菓子を是非って……駄目ですかぁ?」
「構いませんけど、配布用に持ってきたものなので、大したものではないですよ」
 鈴子はプレゼント用に持っていたチョコレートを取り出してみせる。……市販の宇治抹茶チョコレートだ。
「そっかー。でも欲しいでーす」
「では、次の機会には洋風のお菓子を用意しますね」
 鈴子はチョコレートをリナリエッタに渡して、更にそう約束してくれた。
「くしゅんっ」
 ライナがクシャミをした。
 部屋は寒くはないが、まだ体は温まっていない。
「雪まだ降ってます……寒いです」
 こちが窓の外を見て、それからリナリエッタを見上げる。
「マスター……こちは、皆で、あったかくなる方法をしってます」
「ん?」
「おしくらまんじゅうを、するのです」
「おしくらまんじゅう?」
「おまんじゅう?」
 リナリエッタ、ミルミが聞き返す。
 こちは大きく首を縦に振った。
「おまんじゅうじゃなくて、身体をぎゅっとくっつけて押して、温まる遊びよ」
「んー?」
「あったかくなるの? たのしそう」
 ミルミは不思議そうな顔をしていた。
 ライナは乗り気だった。
「ごめんなさいね」
 苦笑しながらリナリエッタは鈴子に言う。
「でも……なんだか面白そうじゃないですか?」
 リナリエッタの言葉に、鈴子は微笑んで頷く。
「子供の頃のリナさんの姿が思い浮かびます」
「そ、それは思いださなくていいです」
 ちょっとリナリエッタは赤くなりながら。
 テーブルをどかして、5人で体をくっつけて。
「おしくらまんじゅう押されて泣くな」
「おしくらおまんじゅうー」
「押されて泣くなーっ」
 子供達が押し飛ばされても大丈夫。
 周りにあるソファーがクッションになり受け止めてくれるはずだ。
 むぎゅっと、こちはミルミに抱き着いた。
「おしくらおまんじゅうーっ、えいっ」
 ミルミはこちを抱きしめ返し、お尻でリナリエッタにアタック。
「おしくらおかえしー」
 リナリエッタは加減して、こちとミルミを押して、よろよろしていたライナを抱き留めてあげる。
「あったかくなってきた」
 ライナが笑みを浮かべる。
「あたたかい、素敵な遊びです」
 続いてこちは、鈴子にむぎゅっと抱き着いた。
「おしくらまんじゅう、おされてなくな」
 鈴子はぎゅっと、リナリエッタを押す。
「鈴子さん、結構ボリュームあるわねぇー。えいっ」
 リナリエッタはライナを抱きしめたまま、押し返して。
「ミルミあたーっく。ぎゅーっ」
 ミルミもぐりぐり押してきた。

 温かい飲み物が届くころには。
 5人ともぽかぽかになっており。
 冷たい飲み物も注文して、もっともっと楽しんだのだった。