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リアクション
第9章 百合園の精鋭達
ピザ屋のフロアには、百合園女学院の生徒を中心とした生徒達が集まり、ピザや簡単な料理を作っていた。
「オーブン周りは任せてもらおう」
若葉分校関係者としてレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、調理を手伝っていた。
「注意一秒怪我一生。女の火傷なんて見たくはないからな」
料理の仕方をよく知らないお嬢様が多いと聞いたため、火傷などさせないために、オーブンの管理を買って出たのだ。
「パッフェルは総監督?」
作業をしながら皆を見守っているパッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)に、恋人の桐生 円(きりゅう・まどか)が近づいてきた。
「そう……。皆が怪我しない、ように」
「うん、バレンタインだけど、安全面の監督って重要な仕事だよね!」
「あと、クレーム対応が、私の、仕事……」
「ははは……そっか」
二人で過ごしたくもあるけれど、仕事が終わるまで我慢しようと円は思って、パッフェルを手伝うことにした。
「料理もだけど、お皿洗ったりする人も必要だよね。よし! DSペンギン達! 皿洗いだ!」
円は連れてきたDSペンギン達に皿洗いを頼むと、自分はピザ生地作りをしようかと思ったけれど、そちらはもう十分できているようだった。
「他に何作ればいいかな? ボクもそんなに料理得意じゃないけど頑張るよ」
材料を見回しながら、考えて。
「そうだ、クレープ作ろう!」
「うん。頑張って、円」
円はパッフェルが見守る中、クレープ作りに挑戦することにした。
「瀬蓮も美緒も特別料理が下手だとは聞いてないから大丈夫だとは思う、けれ、ど……」
百合園生の白雪 魔姫(しらゆき・まき)は、学園から送り込まれたわけではないが、高原 瀬蓮(たかはら・せれん)と泉 美緒(いずみ・みお)がここでパラ実生用へ料理を作っていると聞いて、手伝いに来ていた。
「そういえば、2人とも典型的な世間知らずのお嬢様なのよね……」
2人が料理をしている姿をみて魔姫はため息をついた。
「チーズの代わりにチョコレートを使おうと思いますの」
「瀬蓮も同じこと考えてたよ。甘くて美味しいピザできるかなー」
彼女達は定規やカッター、文房具を使って料理をしているのだ。
そして、チーズの代わりにチョコとかありえないことを言っている。
(これは……本当にこの組み合わせでいけると思ってるのかしら……結構ヒドイ気がするんだけど)
「チョコは、チーズと違って、溶けやすい、から。焼きあがった後に、した方がいい」
最低限の助言は、パッフェルがしてくれている。
「いや、入れるタイミングだけの問題じゃないと思うんだけど」
「味や、見かけについては、口を出したら駄目って、いわれてる。怪我しそうなこととだけ、止めるようにって」
パッフェルの言葉を聞き、魔姫は首を傾げる。
そういえば、パラ実生への料理は、自由な発想で作るようにと、百合園から指示が出ていた。
「私も料理は全然わかんないんだけどね。頑張っちゃうよ」
レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)も、腕まくりしながら訪れて、皆に習って文房具を手にしだす。
「料理見ても、調理器具はわからないだろうし。ある意味、ご飯にチョコを乗せたモノでもチョコはチョコだって言って喜びそうだから、まぁいいか……。食べられないモノは入ってないし」
魔姫はとりあえず気にしないことにした。
パッフェルが最低限の助言はしてくれるみたいだから、大丈夫だろうということで。
「さて、ワタシも適当に数を作りますかね。男はきっと質より量よね!」
「そうだね。量が必要だよね。一緒に頑張ろー」
頬にチョコレートをつけた瀬蓮が魔姫ににっこり微笑みかけてきた。
「ん、んんんっ」
その微笑みはレオーナのハートに衝撃を与えた。
女の子大好きなレオーナは、別に料理をしにここにきたわけじゃない。百合園の可愛い子猫ちゃん達や、麗しいお姉様と戯れる為にきたのだ!
そして、今日、レオーナの心を奪ったのは、瀬蓮の可憐な微笑だった。
「瀬蓮ちゃん、刻んだチョコ、お皿に乗せるね」
鍋の蓋を持って、レオーナはセレンに近づくと蓋の中にチョコレートを入れていく。
「ありがとー。出来上がった後に、乗せるんだって。ちゃんと溶けるかな?」
「溶けやすいかどうか、ちょっと試してみようか」
言ってレオーナは瀬蓮が刻んだチョコレートを口の中に入れてみる。
「うん、すぐ溶けた! 瀬蓮ちゃんも試してみて。あ〜ん」
レオーナがチョコレートを掴んだ手を瀬蓮の口に持っていき、瀬蓮にチョコレートを食べさせた。
「うん、口の中ですぐ溶けたから、焼きたてのピザの上に乗せたら簡単に溶けるね」
「ううっ、瀬蓮ちゃんなんて、なんてキュートなの……っ!」
ふわっと微笑んだ瀬蓮のあまりの可愛らしさに、レオーナの鼻からつつーっと血が流れ落ちた。
「あっ、大丈夫?」
「ごめん、ちょっとチョコレート食べ過ぎちゃったみたい」
ティッシュを詰めて応急手当して。
レオーナは刻んだチョコレートを冷蔵庫にしまった後で。
「お皿お皿ーっと、あ、食器洗い機の中にあった」
レオーナはレンジをぱこっと開けた。
「瀬蓮ちゃん、次はこのお皿に〜」
そしてターンテーブルを持って、瀬蓮の元に急ぎ。
「あっ」
「危ない」
(わざと)転びそうになり、瀬蓮に支えてもらったり。
「ありがとう。はい、お皿」
瀬蓮の手を(不必要に)握って、ターンテーブルを渡して。
(故意の)ボディタッチに心を躍らせていた。
「美緒は、何を作っているんですか?」
美緒の手伝いに訪れた恋人の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)が訪ねた。
「グラタンですわ。チーズの代わりにチョコを乗せるんですの。なんだかクリスマスに合いそうな料理になりそうです」
楽しそうに美緒は微笑みを浮かべた。
「そ……そうですか……」
小夜子はどうしたものかと頭を悩ませる。
(瀬蓮さんのチョコ乗せピザはまだ食べられると思います。でも、グラタンは……。味の想像が出来ません)
美緒の料理の腕がこういう形で利用されることに、複雑な気分になりながらも。
「小夜子、わたくしはオニオングラタンスープも作ろうと思いますの」
楽しそうに言う美緒の姿を見て、とことん付き合おうと小夜子は決意していく。
「それでは美緒」
普段なら、フォローを入れるところだが。今回美緒や瀬蓮は精鋭として百合園から送り込まれている。
つまり、この料理でパラ実生をがっかりさせなければいけないのだ。
「折角ですからチョコを湯煎して砂糖を加えましょう。甘くしたらお客様も喜ぶかもしれませんわ」
「一度溶かすのですね。確かに砂糖を加えたら喜んでいただけそうです。乗せるだけですので、甘さが少し足りなさそうですものね」
「ええ」
小夜子は鍋とボウルを用意すると美緒に渡した。
美緒は案の定、鍋の中に直接チョコレートを入れていく。
美緒は止めはしなかった。パッフェルも見ていたが、何も言ってこない。
(次に一緒に作る時には、正しい作り方教えてあげませんと)
小夜子はそう思いながら、美緒を見守る。
焦げ付いたら食べられなくなるので、火加減だけは気を付けておく。
「溶けてきましたわ。お砂糖を入れましょう。入れすぎたら、ホワイトチョコレートになってしまいそうですわね」
どばどば、美緒は砂糖を入れた。
グラタン……は、市販の物だった。
パックに入っていたものを、グラタン皿に乗せて。
その上に、溶かして砂糖を入れたチョコレートを美緒がかけていく。
「レンジで温めたら出来上がりですわね」
「そうね」
笑顔の美緒に、小夜子は微笑み返す。
そして、レンジに入れてグラタンを温めること数分。
チン
「出来ましたわ、甘い香りがしますね」
美緒がグラタンをレンジから取り出す。……レンジなのでそう皿は熱くない。
「……その……個性的だね!」
取出したグラタンチョコを見て、円が言った。
「小夜子ちゃん……味見してあげなよ!」
「え……っ」
円の言葉に、小夜子は思わず足を一歩後ろに引いてしまった。
「美緒?」
「あ、うん。戴く、わ……」
食べないと美緒が不審に思うかもしれないなと、小夜子は考えて。
恐る恐る。スープンで一口、口に入れて。
「……うん」
小夜子は、歴戦の生存術を発揮した!
「これならパラ実生の方も喜んでくれますよ。チョコももらえるわけですしね」
現実は非情である……そんな言葉が小夜子の脳裏をかすめるが、口には出さない。
「あ、せっかくですから。円さんもどうぞ」
「え゛!?」
クレープを作っていた円が驚きの声を上げる。
「ぼ、ボクはいいよ。クレープの方の味見をしなきゃならないし!」
「一口だけでいいので、お願いします」
美緒が純粋な目で円に頼んでくる。
「……円にパラ実の餌、食べさせないで」
「え?」
パッフェルの突然の言葉に、美緒が不思議そうな顔をする。
「あ、いや食べるよ、食べたいな〜」
円はパッフェルに大丈夫だよと言った後、チョコグラタンを味見する。
「甘い! とっても甘い! ひたすら甘い!」
「それは良かったですわ」
円の正直な感想を、美緒は褒め言葉と勘違いした。
「パッフェル、これでいいのかな……グラタンってオーブンで焼くものじゃ? それにみんな、何故か文房具でチョコ刻んでるし」
円が先ほどから思っていた疑問を口にする。
「包丁、危ないから……」
「そ、そっか。パッフェル安全管理担当だもんね。ボクにも何か手伝えることあるー?」
「円は……普通のお客さん用の、作ったら、どう?」
「うん、そうだね。頑張るよ!」
円は再び、クレープ作りを始める。
薄い生地に、バナナを乗せて、生クリームとチョコレートをかけて完成。
とっても簡単なクレープだけれど。
「パッフェル、出来た。食べて! 食べて!」
その完成品の1つが出来あがるまでに、パラ実生用のぐちゃっとしたクレープがいくつも出来上がっていた。
「ありがと……ちょっと、食べるの、もったいない」
そう言いながらパッフェルはクレープを受け取って、ゆっくり大切に食べていく。
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