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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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ひとりぼっちのラッキーガール 後編

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第34章


「なあ、こいつら全員ゆる族になりゃいいんじゃね?」


 と、アキラ・セイルーンは提案した。が。

「――無理ピョン。強引に魂を集めた今の状態は長く保持できないピョン。入れ物を用意するまでに散ってしまうでピョン」

 と、スプリング・スプリングに一蹴された。

「でも、何とか未来の歌声に集まってくれて助かったでピョン。近くにいてくれないと、こう上手くはいかなかったでピョン」

 ちらりと視線を移すスプリング。瓦礫が積み重なる元パーティ会場では、響 未来が『恋歌』の亡霊のために歌っていた。
 その歌声は亡霊達にも届き、憑依されたコントラクター達を引き寄せることに成功したのだ。

 『恋歌』の亡霊はひとつの魂となり、今はスプリングの手の中にある。アキラの言う『こいつら』とはひとつに集められた『恋歌』の亡霊である。
 いや、正確には『亡霊であったもの』と表現すべきだろうか。

「まったく……無茶苦茶もいいところでピョン……」


 未来とノーン・クリスタリア、そして遠野 歌菜や五十嵐 理沙たちが『恋歌』の亡霊たちのために歌い、そして小鳥遊 美羽が呼びかけることにより、元々不安定な存在である『恋歌』の亡霊達は吸い寄せられるように集まってきた。

「――何とか間に合ってよかったぜ」

 そこに紫月 唯斗が封斬糸で集めてきた亡霊達を追加した。他のコントラクターで撃退、憑依を解かれた『彼女』達もまた、自分達のためのステージに、自然に集まってきた。

 彼女らはすでに、憑依したコントラクター達との魂の交流により理性を取り戻し、恋歌の殺害を諦めている。


「……ダメ……」
 スプリングがよろめいた。
「スプリングちゃん!」
 倒れそうになるスプリングを、霧島 春美が支える。
「大丈夫?」
「……うん……でも、支えてて……」
 スプリングも余裕がない。
「大丈夫……私が傍にいるよ……」
「うん、ありがとう……まだ、いける……」
 そもそも『恋歌たちの魂がスプリングの手の中にある』とはどういうことか。

 発端はアキラだ。
 集められた『恋歌』の亡霊をこのまま浄化し、成仏させることは可能だろう。しかしそれは、再び彼女たちを『殺す』ことになると、アキラは思っていた。
 無論、他のコントラクター達もこのまま『恋歌』の亡霊達と別れることは忍びないと思っている。だからこそ魂の邂逅は起こったのだし、また多くの者が彼女達のために涙したのだ。
 だがこの世の摂理として、死者はすでに過去のものだ。ならば過去と生への妄執を断ち切り、次なる輪廻の輪へと返すべきではないか。

 しかし、アキラにはそのようなこの世の理や良識などは関係なかった。


 彼は、いつだってやりたいことをやるのである。


「違う。生きたいと思う気持ちは誰はばかるモンじゃねえ。それは罪じゃねぇ。
 けど、今の恋歌を羨ましいとか妬ましいとか、幸輝を憎いとか思っているうちは、どっちにしろ成仏なんてできねぇだろう。
 ならば、断ち切るべきはその憎しみと悪意だ――そうだろう、アリス?」

 アキラは、先ほどぐるぐる巻きにして床に転がしたパートナーを振り返る。

「そうヨ。もし可能ならワタシのように人形でも、それこそゴーレムでもいいジャナイ、身体を作って魂を入れてもらえばいいのよ」
 と、憑依から解かれたアリス・ドロワーズは答えた。
「このままあの娘の人生がなかったことにされるなんて――私は許せない」
 まだ少し、過去の思い出を振り返るような瞳で。
「あと、そろそろこのロープ、ほどいて」

 その為にアキラが考えたのがスプリングだ。

「そこでスプリングの『破邪の花びら』だ……強力な光の力で魂を浄化しつつ、それを依り代にすることで魂をひとつにまとめる……できるか?」


 そして、現在に至る。
「できるかって……嫌とは言えない雰囲気で言い出すのは……ずるいでピョン……ゆる族は無理でも……なんとかひとつに……」
 スプリングの全力の光が両手の平に集中されている。その中には、スプリングの力が全て込められた『破邪の花びら』があった。
 とはいえ、それはスプリング一人で10人以上の魂をひとつにまとめる必要がある、ということだ。

 どうにか春美の助けを借りながら、自我を保つスプリング。うっかり気を抜くと、亡霊の意識に持っていかれそうだ。
「まったく……実際問題としてこれは……キツいでピョン……」

「ス、スプリング! 頑張るでスノー!!」
 ウィンター・ウィンターが声を掛ける。ノーンと共に亡霊のために歌を捧げた彼女とて、このまま亡霊達に成仏して欲しくはないのだ。
 その傍らではノーンもスプリングを激励する。
「……そうよ、頑張ってスプリングちゃん!!」

 そこに、アキラもまた声を掛ける。
「そうだ、頑張れってくれよ。オメーだってこの間さんざん皆に迷惑かけたんだから、ワビの意味で力貸せよな」
 この期に及んでのアキラの物言いに、スプリングは軽く笑う。
「ぷっ……確かにそうね……でも、ここまで力を使わされたら、もうしばらくは抜け殻でピョン……」
 軽口の反面、調子を取り戻すスプリング。口調とは裏腹に、アキラは真剣な眼差しで呟いた。
「頼むぜ……まだ恋歌から報酬も受け取ってねえ……俺ら全員アニーを救出したら、恋歌から何でもしてもらえることになってんだ」
 ふ、とスプリングは微笑む。
「……ふ……そんなこと言って……」
「ん、何か言ったか?」
 いや、とスプリングは首を振る。
「何でもないでピョン……でもこれじゃ、アキラからも個人的に何かお礼してもらわないと、割に合わないでピョン」
 軽く口を尖らせるスプリング。アキラは応えた。

「おう、なら今度ラーメンおごってやるよ」

 今度こそスプリングは噴き出した。
「……高いラーメンね……いいわ、これが終わったらみんなでアキラにご馳走になるわね」
 いよいよ集中するスプリング、両手の中の光がいっそう輝きを増し、温かみを帯びていく。

 そんな中、アキラはひとり呟いた。


「え、俺全員におごんの?」