波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

ひとりぼっちのラッキーガール 後編

リアクション公開中!

ひとりぼっちのラッキーガール 後編

リアクション




第31章


 四葉 恋歌がひとり、歩いている。あてもなくひとり。辛うじて倒壊を免れたビルの廊下。


 ずる、ぺた。

「どうしよう……わた……あたし……サイテーだ……」

 ずる、ぺた。


「陣さんに……ヒドいこと、言っちゃった……」

 うん、ヒドいね。

「でも……逃げるなって言われてもさぁ……それは、強いヒトの言い分だよ……」

 だからって、やつあたりしていいことにはならないよね。

「うん……そうだよね」

 わがままなのは、自分なのにね。

「は、はは……駄目だなぁ、あたし。ちっとも……変わってない。変われてない」

 変わってない自分、見られちゃったね。

「ルーツさん……呆れたよね……嫌いになったよね……」

 みっともないね。

「みっともないね……もう、会わせる顔、ないよ」

 彼のこと、好き?

「わかんない……アニーが助かれば……ホントに奴隷でも召使でもいい……けど」

 もう、そんな資格ないよね。

「……ないよね……もらってもらう……資格すら……ない」

 うまくいかないね。

「みんなを騙してトモダチやって……たったひとつのチャンスを狙って……結果、これだもんね」

 つぎはどうする?

「……次?」

 どうする?

「つぎなんかないよ……アニーだけはどうにか見つけてもらえたし……亡霊はたぶん、みんながなんとかしてくれる……」

 あたしはどうするの?

「……幸輝……彼はもう終わりだ。今さら体面を取り繕うことも……できないだろうし……」

 あたしはどうするの?

「……」

 あたしは、どうするの?

「……あ……あたし、は……?」

 どうするの?


「あ……どう、しよう……なにも……ない、や……はは……なにも……はは、は……ははは……」


 ずる、ぺた。

「あし……いたいな……」

 ずる、ぺた。

「いつのまに……ヒール、ぬげたんだろう」

 ずる、ぺた。


「いっか……どうでも」

 どうでもいいね。

「どうでも……いいね」

 つかれたね。

「つかれたね」

 どうしたい?

「……きえちゃいたい」

 なかったことに?

「きえちゃいたい」

 アニーは?

「大丈夫」

 過去の亡霊は?

「大丈夫」

 幸輝のことは?

「大丈夫」

 だれかいるよ。

「だれ?」

 だいじょうぶ、みかただ。

「そう――そうか。またあたしをおこるんだ。にげちゃダメだって。にげちゃダメだって。もうあたしは……しんじゃいたいのに」

 しんじゃいたいのに?

「しんじゃいたい。しんじゃいたい。しんじゃいたい」


『我が、この世から消してやるよ。四葉 恋歌……』


「……え」

 ぴり、と。

「……あ」

 小さな胸に軽く痛みが走った。

 ただ、それだけ。


「ああ、よかった……」

 よかったね。

「これで、これでやっと……」

 これでやっと。

「やっと……」

 やっと。

「……死ねるんだ……」

 四葉 恋歌を殺せる。


 ふわりと、恋歌の身体が倒れて。

 衝撃に耐えかねた心臓が止まる。

 こうして――


 17人目の四葉恋歌が、死んだ。