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神楽崎春のパン…まつり 2023

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神楽崎春のパン…まつり 2023
神楽崎春のパン…まつり 2023 神楽崎春のパン…まつり 2023

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第1章 あたなと見に来た桜

 空京の外れに、大きな公園がある。
 その公園では、地球から寄贈された沢山の桜が、美しい花を咲かせている。
 丘になっている為、空京の町を見渡すことも出来る。
 桜満開のとある日に。
 ロイヤルガードの隊長である神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)は、公園での花見パーティを企画した。
 そして、訪れる皆に贈るためのパン…作りを始めたのだ。
 何故かこの時期には、パン…を作らなければいけない。優子はそんな使命感に駆られてしまう。
 そう、何故か分からないのだけれど、この時期には毎年のようにパン…を作っている優子だった。

「賑わっていますね。面白そうなイベントもあるみたいですし。……この辺で楽しみましょうか」
 パートナーと共に訪れた非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は、屋台が立ち並ぶ方や、イベントが行われる場所から距離をとって。とはいえ、見物できる範囲の場所に、シートを敷き始める。
「もう少し奥でもいい気もするが……せっかくのイベントだからな、この辺りでいいだろう」
 イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は、花見というと、喧騒――呑まれて暴れる人物が必ず出るような印象を持っていた。
「お花、綺麗ですわ〜。素敵な場所ですわ〜」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は荷物を下ろすのも忘れて、桜の木をうっとりと眺めていて。
「ホントですね……」
 アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)も、花の美しさに目を細めた。
「ああ、美しいな」
 イグナは花を見ながらも、準備をする近遠や、桜に見とれるユーリカ、アルティアのことを注意して見ていた。
 まだ大きなイベントも大騒ぎも行われていないが、始まってからも3人が巻き込まれたりしないようにと、常に軽く警戒を払っている。
「それでは、屋台で何か買って参ります」
「ええ、特に飲み物をお願いしますわ」
 ユーリカはバスケットをシートの上に下ろした。
 中には、食用のパン…類が入っている。
 パン…パーティが行われるという噂を聞いたので、持ってきたのだ。
「はい、先にくつろいでいてください」
 アルティアは荷物を置いて、財布だけを持つと屋台の方へと向かって行った。

 若草色のシートの上に、2人の魅力的な女性が座っていた。
 対照的な美しさを持つ2人。
「鈴子さん、どうぞ」
 長身で、派手な美しさを持つ雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)がイタリア伝統の菓子、ビスコッティを鈴子の前に置いた。
「お茶もいれますねえ」
 それから、コップにボトルに入れてきた紅茶を注ぐ。
 その紅茶には乾燥させた桜の花びらが入っている。
「ありがとうございます」
 花びらを見て、微笑みを浮かべて。
 淑やかな美しさを持つ、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)はカップを受け取った。
「私からも」
 一旦、カップをシートの上に置くと。
「リクエストのお菓子です。リナさんのお口にあいますかしら」
 鈴子は、包みを開いて取り出したお菓子を、リナリエッタへと差し出した。
「うわ……美味しそう」
 包みの中には、有名店のチョコレート。それから手作りと思われるチーズケーキが入っていた。
「かぼちゃのチーズケーキです。沢山食べていただけますよう、甘さは控えめにしていますわ」
「でしたらあ、チョコレートより先に戴いた方が良いですわねえ」
 リナリエッタは鈴子の手作りのチーズケーキに手を伸ばすと、「いただきま〜す」という言葉と共に、ぱくっと口に入れた。
 鈴子は微笑みながら見守った後で、紅茶を一口飲み、それからビスコッティを上品に食べていく。
「美味しいですわ」
「それにしても、鈴子さんこんな時まで正座なんだから。痛くないですかあ? ……崩してくつろぎましょ」
「実はちょっと痛いなって思っていました。それでは、失礼します」
 言って鈴子が足を崩す。
 肌色のパン…ティストッキングの中の鈴子の足は綺麗だった。
 勿論、網タイツの中のリナリエッタの細く長い脚も美しいけれど。
 談笑しながらお菓子を食べて、紅茶を楽しみ――。
 気づけば、リナリエッタはお土産分として鈴子にもらっていたお菓子まで、食べてしまっていた。
「ふー、お腹いっぱいですわあ」
 リナリエッタは、手を後ろについて、ふと空を見上げた。
 目に飛び込んできたのは、桜の花。
 小さな花びらが、ふわりと空に舞っている。
「本当に綺麗ですわねえ」
「ええ、綺麗ですわ」
 鈴子も桜を見上げながら、ゆっくりと答えた。
「日本は綺麗な華をファッションに取り入れて超カワイイ感じにするの得意ですよね。鈴子さんがよく着ている和服も、花柄ですよねー」
「そうですね。花は女性の美しさを引き立てますから」
「花に負けてしまう娘もいますけどねえ」
「人それぞれ、似合う花があるのですよ」
「ふむ」
 リナリエッタは鈴子に視線を移す。
「鈴子さんは……やっぱり大和撫子らしく、撫子の花柄の和服とか似合いそう」
「ありがとうございます」
「……私は、どんな花の柄似合うと思います?」
「リナさんに似合う柄ですか……」
 鈴子もじっとリナリエッタを見つめる。
「ふふ、これからのファッションのアイデアにしようかなーなんて」
「そうですね……ぱっと思う浮かぶのは、ダリアでしょうか。濃い色で、大き目に描かれた柄が合いそうに想います。リナさんの場合、容姿が派手ですので、淡い花では目立ちませんから」
「そうですかー。参考になります」
「私の好みみたいなものですけれどね。逆に、鈴蘭とかの方が合うかもしれません」
「鈴蘭も、可愛い花ですよねえ」
「ええ」
 今度、互いに合う洋服を探しに、空京の街でショッピングでもしてみましょうかと。
 二人は微笑みながら話をしていく。
 桜の花びらがふわりふわりと落ちてきて。花びらの模様を得たお菓子は可愛らしく、2人の女性はより魅力的な女性へと変わっていく。