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第22章 恋と革命の味

 空京の繁華街には、地球各国の料理店が立ち並んでいる。
 その一つ、地球のインド料理の店も、ランチタイムは大賑わいだ。
「なにがたまにはゆっくり話そう、だよ……しかも本格インドカレーとか……日本のでも甘口しか食えねーんだぞ、オレは!」
 席について尚、ぶつぶつ文句を言っているのは、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)だ。
 丁度空京に来ていたゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん)を誘って、ランチに出たのは良いが、パートナーのサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が予約を取っていた店は、美味しい本格インドカレーが自慢のインドカレー店。
「ゼスタ、お前も甘党筆頭として何か言ってやれよ!?」
 メニューを見ているゼスタに、シリウスが言うが。
「俺、キーマカレーセットで」
 ゼスタは普通に注文をした。
「な、てめぇなに普通に注文してんだ!?」
「はっ、甘い物が好きだからって、辛いものが食えねぇわけじゃねぇんだよ」
 そして、にやにや笑みを浮かべながらシリウスに言う。
「お前って、やっぱ お こ さ ま♪」
「!!!!!」
 途端。まだカレー食べてもいないのに、シリウスはカッと赤くなる。
「まあまあ」
 言い返したいのに言葉が出せずにいるシリウスの肩をサビクがぽんぽんと叩く。
「今のキミ達向けの店だと思うよ。まずは試してみなさいって」
 サビクがシリウスにメニューを向ける。
「う、うううううう……」
 シリウスは悩んだ末に、甘口と書いてあったバターチキンカレーを選んだ。……ゼスタはその間、にやにや笑いっぱなしだった。

「どう、結構食べれてるんじゃない?」
 届いたカレーを食べながら、サビクが2人に問う。
「普通に美味いぞ。さすがに辛口食いてぇとは思わねーけど」
 ゼスタは時々水を飲みながら、カレーを味わって食べていた。
「本格インド……ってあるけど、日本式カレーの影響受けて作ったんだそうだよ」
 サビクがそう説明をする。
「……ぅーん、辛いけど……くそ、たしかに美味いわ……腹立つけど!」
 シリウスはチャイを飲みながら、悔しげに言う。
 そんな彼女の様子に、ゼスタとサビクは顔を合せて軽く笑った。
「……いてて……」
 続けて食べるとやはり口の中がひりひりする。
 シリウスはちびちび食べ、チャイを飲みながら、ちらりとゼスタに目を向ける。
 ゼスタはシリウスの視線に気づくと、甘い笑みを浮かべた。
「ふっ、公共の場じゃなけりゃ、口移して甘くして食べさせてやれるんだけどな。
 食後のデザートはホテルの部屋でどう?」
「ぶっ」
 ゼスタの言葉に、シリウスは吹き出しそうになる。
 彼女の反応を見て、ゼスタは面白そうに笑う。
「おま……そういうこと誰にでも言いやがって……。どうなってるんだよ、優子さんとアレナとは?」
「は?」
「……オレはまだ認めねーぞ。なんか胡散くせーんだよ……サビクはなんかわかったような顔しやがるけど……」
 ちらりとサビクを見ると、彼女はすまし顔でカレーを食べていた。
「お前に認めてもらわなくても、俺らは仲良くやってるよ」
 ゼスタはそう答えたが、表情はあまり明るくなかった。
 サビクは敏感に気付くが、シリウスには気づくはずもなく。
「なぁ……なんで彼女たちなんだよ?
 力でも自由にしたいとかでも、もっと……こ、こう……あ、あ、扱いやすい…のは星の数ほどいるじゃねーか!」
 カレーのせいではなく、羞恥でシリウスの顔は真っ赤に染まっていた。
 ゼスタはふっと軽く笑みを浮かべ。
「俺が知る限り、アレナ程の……女は他にはいない」
 視線を落としてカレーを食べながら、言った。
「そ、そうか? 星……十二星華にしてもさぁ……ある意味ねーさんやパッフェルたちより頑固で面倒くさいと思うんだけどな……アレナって」
「いや、彼女は素直で可愛いよ。ただ、彼女には癒えていない、もしくは癒えることのない心の傷があるだけで。
 それが無くなれば、俺にとって最高の――伴侶になる」
「んー……」
 ゼスタは普段とは違い、真面目な表情で真面目な口調だった。
 シリウスは、少なくても自分よりはアレナのことを彼は解っているのだと感じる。
「……やっぱ……愛なのかな? ……パートナーじゃなきゃ、わかんないものなのかなぁ、そいうのって……」
 考えながら、シリウスはサビクをちらりと見た。
「ま、オレは契約しても未だにわかんねーけど……」
 小さな声で言い、何処か遠くを見ながら。
「……優子は解ってんのかな……」
 シリウスは、少し羨ましげに言った。
「で、お前はなんで、俺らのことそんなに気にするわけ? 本気で俺に惚れたっていうんなら、付き合ってやってもいいぞ」
はあ? お、お前今、アレナを伴侶にとか言ってなかったかっ?」
「長い人生の中、恋人が伴侶一人だけとかありえねーだろ。伴侶は終生の連れ。配偶者は妻、恋人達は愛人として囲ってやるぜ」
「て、てめぇ……な、なんだそのふざけた、倫理観は!!」
 バンとテーブルを叩いて、シリウスが立ち上がる。
「はい、ストップ! 店員に追い出されるよ」
 サビクがシリウスを嗜めて座らせる。
「それにしても。面白いよね、物事の繋がりってさ。互いが互いに影響しあってさ……変えようとしている方が変わっちゃったり、変わってないようで……とか」
 意味ありげに、サビクはシリウス、それからゼスタへと視線を回す。
 ゼスタは軽く眉を揺らしたが、何も言わない。
「ま、これ以上話し込んでも料理が不味くなるかな。食べようか」
 全員食事をする手が止まってしまっていた。
「この後、最後はインド風の甘いデザートもでるそうだよ?」
 サビクがそう言うと。
「それは楽しみだ」
 と、ゼスタは笑みを浮かべ、再びカレーを食べ始める。
「……くそ……」
 シリウスも顔を赤く染めたまま、黙ってカレーを食べていく。
(……何で甘党の2人にカレーなのかというと)
 サビクは黙々とカレーを食べる2人を眺めながら思う。
(ここのカレー、日本じゃ『恋と革命の味』ってウリだったんだんだよね)
 2人にお似合いでしょ? とからかいたいところだけれど。
 それは、店を出てからにしようと、サビクは心の中で微笑していた。