リアクション
「セレアナ、ごはんおいしかったね。でも、おてつだいしないで、あそんじゃってちょっとごめんなさいだったね」 ○ ○ ○ 「後で見回りに来るからな、夜更かしするなよ。あと、怖くなったらいつでも呼んでいいからな」 引率者として訪れたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、コテージに子供達を案内していた。 今回は事故も発生せず、きちんと大人の姿のまま教師として、子供達の世話をしている。 「あちら側の子の案内終わったよ。そろそろ仕事も終わりだね」 別のコテージを担当していたサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が、シリウスのもとに戻った。 「はーっ、あっという間だったな。目が離せない子や元気な子ばかりで、疲れたぜ。ま、楽しかったけどな!」 笑顔を見せるシリウスにサビクも笑みを返す。 「充実した1日だったようだね。で、ボクは教職員じゃないし、手伝った分の報酬は別に貰うつもりだよ」 「いや、これボランティアだから金銭的な報酬は出ないぞ」 「いやいや、ボクは確かキミに頼まれてきたんだけど? つまり、頼んだキミからもらうつもり」 意地悪気にサビクは笑い、シリウスは苦笑する。 「まあ、うーん、あ……っと、あのコテージ騒がしいな、見に行くぞ。サビク、お前も来い」 はぐらかしてシリウスは、明かりのついているコテージの方へと走り出した。 「はいはい、今いきますよ」 ゆっくり、サビクはシリウスの後を追う――。 全ての子供達をコテージに案内し、見回りを終えた後。 静かな夜の道を、シリウスとサビクは並んで歩いていた。 雲が晴れて、月と星が綺麗に輝いている。 「今日は晩酌しない?」 「よーし、今日の苦労をねぎらって一杯……」 サビクにそう答えかけたシリウスだが、直ぐに首を横に振った。 「いや、やっぱやめとこう。 なんかそういう気分にならないし……」 「ふぅ、ん……いやいいことじゃないの、ボクも怒られる心配が減って助かる」 そう答えながら、サビクは周囲に警戒を払う。 単なる気まぐれだろうか、それとも何か異変でも感じたのだろうかとサビクは神経をとがらせたが、特に何も感じられなかった。 「……この星空に酔っちまったのかなぁ?」 シリウスは空に目を向けた。 日本の夏の星空が広がっていた。 辺りには街頭がなく、大きな建物もなかった。 とても美しい星の輝きに心を奪われ、シリウスはしばらく見入っていた。 「本当に綺麗に星が見えるんだな、ここ。東京とかから想像もできなかったけど。 オレも星空観察したくなるよ……お、アレがサビクのかな?」 突如、シリウスは空の一方を指差した。 「ん? サビクのって……あぁ、星座か。ほんと話が急に飛ぶな、キミは」 軽く息をついて、サビクも空を見上げる。 「……そうだよ。蛇遣い座だ」 「で、隣がリーブラとティセラねーさん(てんびん座)、アレナ(いて座)とパッフェル(さそり座)も…… って、えらい狙ったように集まってるな、おい!? 百合園に集まるって予言か何かだったのか……いやいやいや」 「固まってるのは当たり前でしょ、黄道十三星座なんだから」 「てゆかオレはどこだよ!? シリウスは、えーと……おおいぬ座だから……」 シリウスはおおいぬ座の一等星のシリウスを探す。 しかし……。 「……ない!?」 見える範囲すべての空を見回したが、シリウスは見つからなかった。 それもそのはず。おおいぬ座は冬の星座なのだから。 「オレだけ仲間はずれかよ……くそー」 「それ言い出したら、しし座(セイニィ)は他とかなり離れてるし、おとめ座(ザクロ)は近くだけど交友は皆無だし」 「確かに。けどな…… パラミタの星空と地球の星空は違うとはいえ、なんだか納得いかねえ……」 シリウスはくるくる回りながら、空を確認するが、やはりおおいぬ座のシリウスは見えなかった。 「ただの偶然さ……全て偶然だよ……」 サビクも空を見上げ、へびつかい座を――サビクを見ながら言った。 「はあ……」 シリウスが首を押さえてため息をついた。 「もう見てるだけでなんか疲れてきた……そろそろ就寝時間か。最後の見回りをして寝るか」 「そうだね。明日も子供達が起きる前に、色々やらなきゃならないこともあるしね」 「そうだな……。あと、明日は近くで結婚式かあるんだっけかな……」 シリウスは若干の孤独を感じながら、歩き出す。 「パラミタに帰ってから、皆も呼んで宴会しようか。……それともキミには合コンの方が必要かな?」 サビクの悪戯気に言うと、シリウスがじろりと睨んできた。 「はいはい、見回りね、見回り」 ぽすぽすとサビクはシリウスの頭を叩くと、一緒に歩き出すのだった。 ○ ○ ○ 遊び疲れた子供達の多くは、早い時間に眠りに落ちた。 だけれど疲れよりも、不安の方が大きい子もいた。 皆が眠ってからはより不安になって、ベッドの中でしくしく泣き出してしまう子や、隣の子を起こそうとする子もいた。 「眠れないのですか? わたくしのベッドに来ますか?」 そんな子供達に、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)は小さな声で優しく問いかけた。 エリシアは元々は子供が好きなわけでも、世話好きなわけでもないが、エリシアのパートナーである御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の娘を預かることもあるため、幼子を世話することに熟達しておきたいと考え、ボランティアに参加したのだ。 この子達は元々はシャンバラの契約者――幼子ではなく少年少女、あるいは成人した若者だ。 だから、本当の幼子よりは多少世話は楽なはずだったが。 それでも、最初はかなり手を焼いた。 ちょっと目を離せば、姿が見えなくなるし。 直前まで友達と笑っていたかと思えば、次の瞬間には泣きながら喧嘩をしていたり。 言葉は通じているはずなのに、聞こえていないのかいうことを聞いてくれないので、手を掴んで一人一人に言い聞かせなくてはならず、そうしている間に他の子が問題を起こすといった状態だった。 それでも、周りの大人達の子供への接し方を見ながら学んで、少しずつ子供達の行動パターンが読めてきたところだった。 「せんせい、あたしおうちにかえりたい」 女の子はしくしく涙を流しながら言った。 こんなに小さいのに、その子は声を上げて泣かなかった。 「今日はここでお泊りですけれど、明日はお土産を沢山もってお家に帰るんですよ」 「いまかえりたい」 「ぼくも!」 隣の子を起こそうとしていた子が、起き上がった。 エリシアは指を一本唇にあてて「しー」というと、2人の間の通路に座った。 「今は新幹線さんも眠ってるんです。新幹線さんが起きるまでの間、わたくしが面白い話をしてあげますわ」 言って、エリシアは出かけ前に読んでおいた昔話を幼い2人に聞かせてあげた。 おじいさんとおばあさんの、ほのぼのとした日常の昔話を。 全て語り終わる前に、2人は目を閉じて小さな寝息を立て始めた。 (おやすみなさい) 2人の寝顔に優しい笑みを向けてから、エリシアは立ち上がって入口付近の自分のベッドへと向かう。 ベッドに入ろうとした途端……。 「せんせー、おしっこ」 子供が1人、起き上がった。 「はい、一緒にいきましょうね」 夜中に目を覚ました子供の世話を嫌な顔一つせずにしながら、子供達の傍らでエリシアは夜を過ごした。 そして2日目の朝。 明るい太陽がコテージの中に降り注ぎ、子供達が目を覚ましていく。 「おはよー!」 「おはよ!! きょうはなにしよ〜!」 寝ぼけ顔から、元気いっぱいになっていく子供達の顔を見て、エリシアの顔にも笑顔が浮かぶ。 (きょうも一日大変そうですけれど、頑張りましょう!) 心の中でそう思いながら、エリシアも子供達に負けない笑顔を浮かべて。 「おはようございます、みなさん。さあ、体操の時間ですよ」 子供達を引き連れて体操に向かうのだった。 |
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