校長室
真紅の花嫁衣裳
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「……なんか……ザワサワする」 真紅のウエディングドレス姿の晴海は綺麗だった。 だけど、彼女の姿を見た呼雪は、良くない空気を感じ取っていた。 「……ぼくもはなよめさんなかんじだし、おいわいにちかづいてもだいじょうぶかな?」 そして、不安そうな目でユニコルノに尋ねた。 「そうですね……私も気を付けておきます」 何かが起きるかもしれない。 ユニコルノもそう感じて、そっと周囲に神経を張り巡らせておく。 「それじゃ、いこっかー」 ヘルが呼雪に付き添って、花婿、花嫁に近づく。 「……おめでとう」 近づいた呼雪がお祝いの言葉を言うと、晴海は微笑んで「ありがとう」と答えた。 「……」 晴海の微笑みは、格好と同じで綺麗だったけれど……やっぱり、呼雪はもやもやとしたものを感じていた。 他のお祝いの言葉を言いに来た人達の邪魔にならない位置まで下がって、呼雪はしばらく晴海達を見守ることにした。 「す、すずこさん、はなよめのおねーさんのところにいきたいの。いっしょにいこう、ね?」 黒髪ツインテールの6歳くらいの少女、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が、同じ年くらいの和服少女、桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)の手をぎゅっと握った。 リナリエッタにとって、この姿は黒歴史だ。 フリフリしたものや、キラキラしたものが大好きで、妖精さんや天使さんと踊ったり歌ったりすることが夢だったころの姿。 大人になったリナリエッタからは想像できないような、愛らしい姿だった。 とくに鈴子にはもう見られたくなかったのだけれど、今回は鈴子も子供になってるし……。 あの花嫁さんの姿を見たら、恥ずかしいとか、そんなこと言っていられなくなった。 「リナは、あのおねーさんのとこ、いかなきゃなんないの。でも、すずこさんといっしょがいい、いっしょにいきたい……」 花嫁――晴海の姿を見るまでは、リナリエッタは幼児モデルの方に興味を示していた。 だけれど今は、彼女の天使のような表情は一転し、真剣で切実そうな顔になっていた。 「……いいですよ、あのかたのところ、いきましょう」 鈴子がリナリエッタを勇気づけるように、手をぎゅっと握り返した。 そして二人で一緒に、花嫁と、花婿のところに歩いて行った。 彼女――晴海のことは、リナリエッタも鈴子も良く知っている。 「おねーさん、とってもキレイ。キレイ」 真紅のドレスを纏った晴海は、リナリエッタのその言葉に笑顔で「ありがとう」と答えた。 「しあわせな、はなよめさんになってね」 「……うん、私今、とっても幸せよ」 言って、晴海はレストの方に目を向けて、微笑み合った。 幸せ――。 幸せな2人のはずなのに。 2人を見ていたリナリエッタの目から、ぽたりと、涙が落ちた。 「わ、わたしのせいで、いたいいたいさせて……ごめんなさい」 真っ赤なドレスが……地下施設の中でみた、晴海の血の色に見えて。 リナリエッタの小さな心が酷く痛んでいく。 「どうしたの?」 晴海はリナリエッタが誰なのか分からなかった。 「私、痛いところないわ。……幸せよ」 晴海はリナリエッタの頭に手を伸ばして、そっと撫でた。 「なにないてんだー? かんどーしてんのか」 男の子の声が響いた。 「おめでとー。しあわせならよかったな!」 男の子――竜司が昨日摘んだ花を、晴海に差し出した。 「ありがとう……ふふっ」 受け取った晴海が、笑みをこぼす。 渡す瞬間に、彼女を笑顔にしようと竜司は変な顔をしてみせたのだ。 「はなむこには、これだー!」 花婿にはパーティで食べて、一番美味しかったもの――フルーツのサンドイッチを渡す。 「たくさんくって、おおきくなってはやよめまもるんだぞー。 はなよめさんはしあわせにならなきゃいけないって、かあちゃんいってたぞ。 おとこはおんなのこをまもらなきゃいけないんだー」 「……ああ」 レストは微笑んで、受け取ったサンドイッチを食べて。 「彼女の事は、僕が守る」 やさしいけれど、しっかりとした言葉で言った。 その直後――突如、空がパッパッパッパッと光った。 (ユリアナ……!) 突如、呼雪の心にその名前が浮かんだ。 レストの瞳が鋭く輝き、晴海の顔は凍り付いていた。 「わ、わたしがまもる、ぜったいにまもる……っ」 リナリエッタは必死の表情で、晴海に抱き着く。 「なんだー! かみなりかー? いけめんのおれがいるからだいじょーぶだ」 竜司は怯えながらも、平気な顔を装って、周りの子達を庇おうとする。 「……びっくりさせてごめんなさい、演出です」 すっと立ち上がってそう言ったのは晴海だった。 彼女の凍りついた顔は、決意に満ちた強い女の顔に変わっていた。 「オレのゆーこのようなかおだ」 竜司はほっと胸をなでおろした。 続いて、レストも立ち上がり、晴海と共に頭を下げた。 「今日は、本当にありがとうございました」 「おめでとうー」 ルカルカが紙ふぶきを撒いてお祝いする。 ダリルも警戒を払いながら、会場の子供達と一緒にルカルカに協力する。 「おめでとー」 「おめでとうございます」 「おしあわせに!」 沢山の祝福の言葉が、2人に贈られていく。 「新郎新婦のお二方、おめでとうございす!」 牡丹が手を叩いて、大きな声で祝福すると、会場内に拍手が沸き起こった。 「ありがとうございます」 最後に晴海はブーケを手に取って。 「この幸せが、引き継がれ続きますように」 後ろを向くと、空へと投げた。 子供達はただ空を眺めていた。 落下地点近くにいたのは、瑠奈、ティリア、月夜、それからロザリンド。 キャッチをする為に、真っ先に空に手を伸ばしたのは、ロザリンドだった。 振り向いて、晴海は友人達と、ブーケを手にたロザリンドに。 「私達は今、とても幸せです。皆の幸せも、願っています」 そう言って、微笑んだ。 突然、強い風が吹いた。 地に落ちた紙吹雪が再び舞い上がって、新婚の二人と、集まった皆のに降り注いだ。 子供達は喜んで、落ちてくる紙ふぶきをとろうとしたり、よけようとしたり、踊るようにはしゃぎだす。 花婿と花嫁は、微笑んで子供達を見守っていた。 互いの手を固く握りしめながら――。
▼担当マスター
川岸満里亜
▼マスターコメント
シナリオへのご参加、ありがとうございました。 今回も幼児化+NPCの近況的な話が入ったシナリオでしたが、如何でしたでしょうか。 皆様のかわいらしい幼児モデルの姿を思い浮かべ、1人でにんまりしてしまいました。 楽しい行動や心温まる行動、ありがとうございました。 引き続きどうぞよろしくお願いいたします!