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別れの曲

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【日常】


「ロイヤルガードを辞任しようと思うんだ」

 パートナーの騎沙良 詩穂(きさら・しほ)からそう告げられ時、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)は言葉を失った。
 普段から寡黙でたまに口を開けば難解な単語ばかりのクトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)は、何時も通りの反応と言えばいつも通りだったかもしれないが――。

「それは……」
 セルフィーナは言いかけた言葉ごと口を噤み、隣の青白磁とちらりと顔を見合わせ、揃って詩穂へ向き直る。長い付き合いだ、彼女の考えは自分の事のように分かっていた。
 東西が統一され、帝国との関係も良好な状態を維持している今のシャンバラに、大きな危機が訪れる事は少ないだろう。
 それに詩穂をロイヤルガードに任命した女王、その人が今この宮殿には存在しない。

「いいよキミたちは、シャンバラの人たちなんだし
 そのままロイヤルガード残ってても、そっちの人生があるんだから。
 特にヴァルキリーなんかは古王国時代から王家や6首長に仕えることがあるし、魔鎧には故郷のザナドゥがあるんだし。
 だってこれは私個人の一大決心だもの」
 パートナー達が何かを言う前に、詩穂は眼鏡の下からその意思を強い瞳に覗かせる。
 こうして彼女は宮殿の人々に惜しまれつつも、ロイヤルガードの任を去ったのであった。


 それから詩穂は一大学生としての日常生活へ帰って行った。
 『アンモナイトの貝殻をモデルにした茶菓子によく合うメイプルバームクーヘンの年輪の黄金比率がおりなす美術性』という彼女らしい卒業論文を発表したのは、それから少し先の未来の話、である。