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別れの曲

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【星空】


 『星空研究会』は舞花が蒼空学園で立ち上げた活動である。しかし例によって閑古鳥が鳴いている為、――舞花は『探偵研究会』というミステリィ小説を読んだり推理関係のイベントを企画する活動も行っているのだが、そちらも部室へやってくるのは今のところミリツァくらい、たまに手を貸してくれるハインリヒくらいのものだった――彼女は飛び入り参加も歓迎と友人へ広く声を掛けていたのである。
 舞花が不定期にアルバイトする先の先輩にあたるジゼルとその家族らが顔を出しただけでもかなり賑やかだったが、丁度夏休みという事も有り、キアラが昨日からパラミタへやってきた事で、屋上には思ったよりも人が集まっていた。


 ジゼルとキアラが再会を喜び合っていると、
「よう、久しぶり」と、何時もの調子の声が飛んで来る。
 こんな時間にトレードマークのサングラスをかけて、本当に何も変わらない武尊を見てキアラは目を細めた。
「お久しぶりっスね」
「どうだキアラ嬢。
 せくちーなおぱんつ、似合うようになったか?」
 近付きざまにスカートを覗き込もうとする武尊だが、キアラは軽い身のこなしでそれを躱した。
「どうっスかねぇ?」 
 初めて会った頃だったら真っ赤になって大慌てした状況だったが、今のキアラはにっと笑っている。その余裕がこの一年で身につけてきたものなのだろう。
「キアラちゃんも大人になったのよね。ぱんつは相変わらず可愛いけど」
 トーヴァにからかわれて真っ赤になって慌てているところは、人間本質は変わらないところだろうが。
 キアラの元気そうな様子に安堵して、歌菜と羽純が前へ出た。
「少し大人っぽくなってない?」
「ああ――、髪伸びたか?」
 指摘にキアラは肩口まで伸びた髪を抑えた。
「大体短くする人が多いんスけど、私は半端だったんで縛れるように横も伸ばしたんスよ」
 キアラが昔の自分を知っている皆に似合っているかと問うと、皆揃って肯定する。
「歌菜の言う通り大人っぽくなった。前より『美人』になってるんじゃないか?」
「恋人とか出来てたりして」
 歌菜がむふふと突っつくと、意外な事に舞花が
「今夜は惚気話も解禁です。どんと来いです」と微笑みながら続いた。自らはネタがないので専ら聞き役にはなってしまうだろうが、この星空の下ならロマンチックな話題も有りだろうと思ったのだ。
 皆の話題にかつみが先程のナオとミリツァの事を蒸し返すべきか悩んでいる間、キアラが必死にふるふると首を振っている。
「そんな暇ないっスよもー。
 毎日忙しいしめっちゃしごかれて頭も身体も疲れ切ってて……。
 と、そうだった、話の前に。飲み物とか持ってきたんスよ」
 キアラが言うと、階段を昇って数人の青年が荷物を持ってやってきた。皆がよく知るかつてキアラと同じ一等軍曹を務めていた――今はそれぞれ違った階級であるらしい――ロベルトやヴォロドィームィルらに続いて、銀髪の細身の男が大きなケースを抱えやってきた。
「……あれ誰だ?」
 何人かが声に漏らすと、アレクが「何を言ってるんだ」とばかりに不思議そうな顔になる。
「ドミトリーだろ? 変態微笑みデブ」
「うええええええッ!?」
 皆声をあげて嘘だろと銀髪の男を見るが、確かにあのいやらしい目は見間違えようが無い。
「セクハラ相手のアルジェントが居なくなってからボクの生活に潤いがなくなっちゃってぇ……」
「検査にひっかかってからヤンに毎日扱かれたんだよ」
 ドミトリーの言葉をアレクが即座に否定すると、ハインリヒが
「どうせ来月にはリバウンドしてる」と首を振る。実は前にも似たような事があったらしいのだ。
 キアラはげんなりしながらドミトリーの持ってきたケースから、飲み物を取り出して配り始めた。皆にはメニューを聞いているのだが、歌菜と羽純には何も聞かずにカップを手渡した。
「わーっコーヒーフロート!」
「覚えてたっスよ」
「懐かしいな。チェーン店を見掛ける度に歌菜とキアラの話をしてたんだ」
 二人に言われてキアラは嬉しそうに微笑む。
「はー……にしても久々にシャンバラきたら色んなものが変わってるっスね。
 昨日なんか道迷いそうになって大変だったんスよ」
 キアラがドミトリーを一瞥して言うと、皆が近況や一年の間の変化を報告しだした。
「私、今は葦原から越してマスターの家に住んでいるのです」
 フレンディス達は大きな変化はないものの、結婚を機会にベルクの実家へ越したのだという。
「だから最近はよくプラヴダの食堂や家に遊びにきてくれるのよ」とジゼルが言うように、フレンディスはまだまだジゼル達友人と過ごす日々が楽しいようだ。子供が出来るのはまだまだ先らしい。未だにベルクと名前を呼ぶのが気恥ずかしいのか五回に二回くらいの頻度でマスターと呼んでいるあたり、そうなのだろう。
「私は最近、和菓子作りが上手くなった気がします」
 そう話すのは舞花で、定食屋あおぞらの厨房で覚えた技術を話す。
「舞花が入ってる日は、舞花のパートナーのノーンがきてくれるんだけどね、いつも和菓子を注文してくれるの」
「つい気合いが入ってしまうんです」
 舞花がえへへと笑いながら言って、ミリツァを振り返った。
「蒼空学園にはもう慣れましたか?」
 夏休みに入ってこの質問をしたのは、舞花が大学部から入学したミリツァとは部室以外の学内で、顔を合わせないからだ。何時もは一緒にお茶をし、静かに読書をしているので、そういった話題は出なかった為今のタイミングが丁度良かっただけだ。
「何かあったら私で良ければいつでも相談に乗りますよ」
「ええ、有り難う。
 頼もしい先輩が居て嬉しいわ」
 答えたミリツァはふっと隣の壮太を見上げて微笑む。蒼空学園の事は勿論、家探しの事なども頼れるもう一人の兄がいるから、春から始まった生活は順調だ。
 そんな風に皆の話を聞いて、羽純はこう言った。
「俺達は少しずつ未来へ向けて変わっていくけど、変わらない物はある」
「はい。
 夜空の星の瞬きは、この時代も、未来の世界でも変わらず本当に綺麗です」
 自分がかつて生きていた未来の空を頭に思い描き、舞花は答えた。


 それから皆で軽食を食べながらの『星空研究会』の活動は、和やかに過ぎて行った。
 舞花が天文学についての知識を披露してくれるのに耳を傾け、日常や思い出、そしてこれからやってくる将来について言葉を交わし合う。
 数時間達間もなく帰宅の時間になろうとしている時――
 舞花が皆より高い位置で設置していた観測の道具を片付けていると、ジゼルとハインリヒが傍にやってきて手伝いを申し出てきた。
「皆喋り過ぎて疲れちゃったのかしらね」
 ジゼルが小さな声で耳打ちするように言ってきたので下を見てみれば、皆はしゃぎ疲れた後のように言葉もなく、静かに微笑んで空を見上げている。
 翠とサリアなどは本当に眠ってしまったようで二人を両腕に抱えたアレクが此方を見上げて、遂に睡魔に負けたらしいと困った笑顔で合図してきた。
「今日は有り難う、楽しかったよ」
 ハインリヒが振り返って礼を述べると、舞花は静かに頷いた。特別な何かがあったり、話した訳でもない。いつも通りの一日だったが、心の奥には今も広がっていく温かさがある。
 舞花は満天の星空を見上げて、その温かさを言葉に出した。
「今夜みんなで交わした会話と一緒に見上げた夜空のことは、ずっと私の記憶に残る気がします。
 例え何年、何十年、何百年先でも」

 彼等の未来は、この空のように何処迄も続いて行くのだ――。
 

担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 シナリオにご参加頂き、読んで頂きまして有り難う御座いました。東安曇です。
 今回のシナリオで東の個人通常シナリオは最終回となります。
 プレイヤーの皆様にはゲームマスターとして沢山の経験を積ませて頂き、感謝の言葉も有りません。

 それでは、『始まりの日』にご参加頂いております皆様はまた次回お会いしましょう!

 またどこかでお会い出来れば幸いです!