葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

リアクション公開中!

世界を滅ぼす方法(第1回/全6回)

リアクション

 
 
 素泊まり2500円。

「安っ」
「ていうか空京の通貨は円じゃないから」
 空京には普通のホテルもあるが、『安いだけが取り柄』みたいな宿もある。
 一般に、どこぞの学校の部活で合宿をするとか、赤貧のゆる族が一部屋に何人かでシェアをしながらそれぞれ頃合を見計らって地球に飛び降りて行くとか、要するに貧乏人御用達の宿であるが、人数が多い為、この日、彼等はそんな宿のひとつを殆ど貸し切り状態にした。
 共用だが風呂も台所も食堂もあるが、一部屋に二段ベッドが2つで殆どいっぱいの、寝る為だけの宿だ。
 性別的な問題でハルカと同室になれなかった陽太は、下心なしにがっかりしたが、代わりに一緒にご飯食べるです、と誘われて浮上していた。
 一方でハルカは、優菜に蹴飛ばされているカナンを目撃したが、それが何故かは解らなかった。


「おふとんで寝るの久々なのです」
 はしゃぐハルカに、
「え、今迄どうしてたんです?」
と野々が訊くと、
「最初はホテルに泊まってたですけど、おじいちゃんがなかなか帰ってこないので、ハルカおさいふ持ってなかったし、お金払ってくださいって言われたら困っちゃうので、抜け出しちゃったのです。それから、野宿してたです」
 夏だから、市民プール(←?)のシャワーが使えたですよ、と、あっけらかんと言う。意外にサバイバルに強そうな子だ……と、周囲を唖然とさせた。
「でも、そういうことは危険ですから、できるだけしないようにして下さいね。変な人に誘拐されたりしてしまうんですよ」
そう注意した野々に、
「わかったのです」
と頷いたハルカだったが、
「むしろ、今迄誘拐されなかったことの方が驚きかも……。変な人に声をかけられたりしなかったんですか?」
と訊ねると、ハルカは首を傾げた。
「変な人かは解らないですけど、おじいちゃんの居場所を知ってる人になら何回か声かけられたです。でも皆、やっぱり知らなかったり、またどこかに行っちゃったりしてたです」
「いや、それは知ってないですから。騙されてますから。ていうか、知らない人について行っちゃ駄目でしょう!?」
 こめかみに痛みを覚えつつ、優菜が言うと、ハルカは小さくなりながら、
「でも、ホントに知ってるかも知れないですし……」
と言って、
「でもでも、今迄無事だったんですもの、よかったということで、これから注意すればいいです〜」
と、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が場をとりなした。
「もんのすごい幸運で今迄無事だった気がするけどね。声かけてきた人についてった後はどうしたの?」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が訊ねると、
「おじいちゃんが居ないって解ったら、帰ろうとしても、居ていいって言われるですけど、こっそり抜け出してたですよ」
「……本当に、物凄い幸運でここまで乗り越えて来たのですね」
 はあ、と溜め息をつき、これはしっかり面倒を見てあげなくては、と思う野々である。
「ねえねえ、地球は今、どんなです?」
 話題を変えようとしてか、メイベルはそんな話をハルカに振った。
 ホームシックというわけではないし、いい思い出もあまり無いが、それでも懐かしい、と思う。
「うーん、皆元気ですよ? ハルカがこっちに来るの反対でしたけど、おじいちゃんだけが賛成してくれて、連れてきてくれたのです」
 メイベルの問いは範囲が大き過ぎて、ハルカは何を答えたらいいのか迷ったのか、そんな風に答える。
 それは、半分自分が来たかったからかもしれませんね、という言葉は飲み込んで、野々は苦笑するに留めたのだった。



 明けて翌日。
 ハルカの祖父はもう空京には居ないだろう、という結論に達し、それぞれ手分けして旅の準備をすることにした。
「ハルカおさいふ持ってないのです……」
 困ったように言うハルカに
「困った時はお互い様なのですう」
と、メイベルが無邪気に笑う。
「出世払いでいいってことだよ!」
とセシリアが明るく付け足して、
「わかったのです。出世したら払うのです」
と素直に頷くハルカに、くすくす笑いながら
「ハルカの手伝いをするって皆で決めたんだから、これくらいのことはいいんだよ」
とショウが言った。

 最終的に馬車数台の大所帯となり、空京を発つことができたのは、更に翌日のこととなった。
 空京内で小規模な自爆テロと戦闘騒ぎがあり、スムーズに買い物などができなかった、というのもある。
 空京からザンスカールへ続くメイン街道を、一行は数台の馬車と、馬車をベースにして、その周囲を飛び交う小型飛空艇や箒などで北上する。
「ハルカさん、クッキーどうですか?」
 宿泊中はその料理の腕前を披露した優菜が、売り物と見紛うクッキーを出して、わーいと大喜びでありつく様子に、料理が苦手なメイベルが内心で羨ましく思ったり、暇があると歌を口ずさむ癖のあるメイベルの歌声に皆で聴き惚れながら、歌が下手なベイキがガゼルに「ふっ」と意味ありげに笑われたりして、旅は順調に進むかと思われた。


 一行から少し離れた位置を哨戒しながら小型飛空艇で進んでいたショウがスピードを上げて戻って来た。
「パラ実生を見つけたぜ! バイク5台、ここから10分!」
 真っ先にピンと来たのは、同じパラ実生徒であるレベッカだ。
「それは、シャンバラ大荒野をマタにかけてる、パラ実アツアゲ部隊(の、ひとつ)ネ!!」
「バイク5台って少なくねえか?」
 すぐさま戦闘準備に入り、正義がマスクを装着しながら言うと、聞いていた翔一朗が
「阿呆! 奴等ぁ、1人見かけたら最低10人居ると思えや!」
と叫ぶ。
「ううっ……恐くない恐くない、逃げちゃダメだ……!」
 武者震いに震えながら、自分に言い聞かせるベイキの背中をガゼルが気合いを入れて叩いた。
「パラ実カツアゲ部隊ごとき、雑魚と思えなくてどうする」
「残る奴は女子供を護れ! 何か近づいてきたら逃げろよ!」
 言い残して、正義は「悪は許さぁぁぁん!」と叫びながら、何故かレベッカのスパイクバイクと並ぶ速度で疾走して行く。
「正義さん……どうしてわざわざ軍用バイクを乗り捨てて走って……」
 パートナーの愛が、うっかり呆然とそれを見送るが、剣の花嫁である自分は彼の武器を持っているのだった、と思い出し、慌てて後を追ったのだった。

 ベイキ達がパラ実カツアゲ部隊を視認した時、バイクの数はざっと50台だった。
「ビンゴぉ!」
 ドッドッドッ、とエンジン音を膨らませながら、中央前面に、リーダー格らしき男がバイクに跨って腕を組んでいる。
「よくココまで来たなあ、てめえら! だがここを通るなら、通行料を置いてって貰おうかぁ!?」
 いかにもすぎる、と思ったが、
「貴様等に恵んでやる通行料などねえ!」
と律儀に言い返す正義も付き合いがいい、と思う。
「ハッハァ! それじゃあ腕ずくでイかせて貰うぜ! 四天王に続く、十二神将が六! ダイオプテード様のハンマーを食らいやがれ!」
「……微妙!」
 思わず呟いたショウの突っ込みは、「かかれえ!」という叫びと共に特攻してきたバイク音にかき消され、彼等の耳には届かなかった。

 ――結果的に、ベイキ達はパラ実カツアゲ部隊に圧勝した。
「ダメ元で訊くが、おまえ等、この辺を縄張りにしているのであろう。こんな老人を見かけなかったか」
 ガゼルが、累々と横たわるパラ実生の1人を軽く踏んで意識を向けると、携帯電話の画像を見せながら、念の為に訊ねる。
 そのパラ実生は唸るばかりで何も言おうとはしなかったが、ダイオプテードが、
「バッカヤロウ!! パラ実生徒がちょっとやられたぐらいで簡単に口割ってんじゃねえ!」
などと言うものだから、全員が近くにいたパラ実生徒を蹴飛ばし始めた。
「うわーっ、やめてくれ、言う! 言うから! その爺さんなら、ジルコンってえ村の近くで見かけたんだっ! アトラス火山の近くの村だ!」
 ついに1人が根を上げて白状し、「ジルコン?」とベイキ達が顔を見合わせた隙に、恐ろしい手際で引き上げて行く。バイクは乗り捨てたままだったが、恐らくほとぼりが冷めた頃に取りに来るつもりだろう。こちらとしてもどうするつもりも無かった。


 ジルコン、というのは、街道にほど近い場所にある村の中では、アトラス火山に最も近い村だった。
 ザンスカールに向かうついでで寄ることができたので、一行は、考えるまでもなく立ち寄ってみることにする。
「ああ、確かに見かけたね」
 すると、似顔絵を見せられた村人は頷いたが、
「でも、生きてるのかね、このご老人」
という言葉が続いて驚いた。
「どういうことです?」
「いや、火山に向かおうとしてるのを見かけた人がいるんだよ。でもその後帰って来たって話を聞かないからさ、あのご老人、火山に落ちて亡くなったんじゃないかねえ、なんて噂をしてたんだよ」
 ハルカが真っ青になって言葉を失う。
 いや、でもね、と村人は、なだめるように続けた。誰も帰ってきたところを見かけなかっただけで、見かけないところで帰って行ったのかもしれない。
「……どうします、ハルカさん」
 アトラス火山へ祖父を捜しに行くか、予定通り、ザンスカールへ向かうか。
「……火山には行きたくないのです」
 ハルカはぎゅっと唇を噛んだ。
「おじいちゃんは死んでないのです」
「……ハルカちゃん……」
 セシリアが、ハルカの手を握り緊める。

 その時、優菜の携帯が呼び出し音を鳴らした。
「……優希さんから?」
 それは、ハルカと出会った後、何をするよりも先に、単独先行してイルミンスールに向かうことを即断した、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)からの電話だった。取り急ぎで携帯電話の番号を交換した生徒の内、同じ学校の生徒で同性でもあり、最も電話がしやすいと判断した優菜に掛けて来たのだろう。
『ああよかった、やっと繋がりました。電波が悪いみたいです』
「何かありました?」
『ハルカさんのおじいさんの目撃情報があったんです。それで、取りあえずお報せしようと思いまして』
「えっ、本当ですか! じゃあハルカさんのおじいさんはザンスカールに居るんですね!」
 全員の注目が集まる。
『見付けてはいないのです。ですが、数日前に見たという人がいました。ザンスカールに居ると思います』
 優希の言葉はブツブツと途切れがちで、本当に電波が悪いらしい。街道付近は大丈夫のはずだが、少しそれているからか、特異的な問題なのか。

 面接の予定があったということは、ある程度ハルカやジェイダイトのことは、イルミンスール魔法学校でも知っているはずと判断した優希は、魔法学校の職員窓口で、ハルカの親族が来ていないかと問い合わせたのだが、来客名簿には記録が載っておらず、恐らく来ていない、ということだった。
 そこで、学生やザンスカールの町の住人に話を聞いて回ることにする。優希とパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)との2人だけでは限りがあったが、それでも、ようやく最近、学校付近で見たという情報を得ることができたのだった。
「……まあじーさんのことはユーキに任せて、俺様は、最近この辺で妙なことはなかったか、とかそういうことを聞き回ってたんだけどな」
 電話をする優希の横で、聞こえないようにアレクセイはぼそりと呟く。
 ”変なこと”なら、イルミンスールの世界樹に大型の虫が取りついたり夏休みが中止されそうになったりと色々あったが、アレクセイの感覚に引っかかるような話を得ることはできなかったのだ。

「よかった! やっぱりおじいちゃんは生きてるのです!」
 ハルカがほっとして、両手を胸の前で握りしめる。
「本当に、よかったですう」
 一時は最悪の想像をしただけに、メイベルも、そして他の仲間達も、心底安心したのだ

担当マスターより

▼担当マスター

九道雷

▼マスターコメント

ハルカ「初めまして! 当シナリオへようこそなのです!」
コハク「こんにちは。参加してくれてありがとう」
ハルカ「満員電車なのです!」
コハク「……それを言うなら、満員御礼では……?」
ハルカ「細かいことはいいのです。ハルカを助けてくれる人も沢山いてくれて、すごく嬉しいのです」
コハク「シナリオガイドに、オマケ要素って注釈ついてたのにね」
ハルカ「失礼なのです。ハルカの方がこのシナリオのメインなのに、皆わかってないのです」
コハク「えーと……そっか。それはともかく、長丁場のシナリオの1回目というのは、特にアクションがかけづらい点があるかと思いますが、皆さんすごく頑張って色々考えていて、マスターが感激していました。ありがとう」
ハルカ「……話をそらしたのです……」
コハク「ぎ、業務連絡だよ……。あと、字数制限その他の壁により、シナリオガイドで提供できる情報に限りがあった為、初回はリアクションの展開が色々とハズしてしまっていたりして、アクション内容を有効に使えなかった人も多かったのです。予測が外れてしまった人はごめんね」
ハルカ「空峡を小型飛空艇で渡ろうとしてたです?」
コハク「あー、それ……。えっと、小型飛空艇は、基本スクーターのようなものだと考えてください。
空京からツァンダやヴァイシャリーなどへ小型飛空艇で旅をすることも、多分普通の人には無理かと思います。
小型飛空艇は狭い範囲でしか使えません。スクーターで町の中を乗り回すことはできても、アフリカ大陸横断は出来ないが如しです。
ツァンダ最寄の港からタシガンへも、小型飛空艇では渡れないはずだよ」
ハルカ「セレスタインまでの距離がわからなかったですぅ〜」
コハク「うっ……」
ハルカ「それにハルカ達、普通の人じゃないですよ?」
コハク「……うん、でも、無理だと思うよ……」
ハルカ「ま、コハクをいじめても仕方ないのです。次回から、きっとマスターもしっかりするのです」
コハク「だといいけど……」
ハルカ「次もまた、皆に会えたら嬉しいのです!」
コハク「そうだね」
ハルカ「今回でこのシナリオにがっくりしなかった人は、次もよろしくご参加くださいなのです」
コハク「……直球だね。えーと、そんなわけで、また次回、会いましょう」
ハルカ「またね!」