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リアクション
「あーあ、割とあっさり失敗しちゃったわ」
近くの建物の裏階段の踊り場で、メニエス・レイン(めにえす・れいん)と、パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が様子を窺っている。
アリアの意識が醒めたのを見て、残念、と苦笑した。
最も、本来『吸精幻夜』は人を操れるものではない。だから、あの爆弾を持った子供の場合は、術を掛けた後、爆弾をくくりつけて、ただ解放して真っ直ぐ歩かせただけのものだ。
「よっぽど掛かり易い体質だったのか、それか密かに操られ願望でもあったのかしらね」
「どうします? 光珠を奪うのは、もう無理ですよ」
ミストラルの言葉に
「ま、今回は仕方ないわね。でもこのまま立ち去るのも締まらないし、挨拶くらいはしとこうかしら。見たところ、向こうセイバーばっかで、こっちに届きそうもないし?」
「かしこまりました」
と、ミストラルは微笑んだ。
「来るぞ! 上からだ!」
クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)が上を見るのと同じタイミングで、火球が降ってきた。
「首謀者はお前達か!」
「そうよ。まあ半分だけど」
メニエスは答える。
「……話に聞いてた人達じゃない?」
ユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)が眉を潜めた。
「あいつらじゃないのか」
と、村雨 焔(むらさめ・ほむら)も呟く。
「そんなにがっかりしないで欲しいわね。期待してた相手じゃなかったかもしれないけど、いずれ光珠は私がいただくわ!」
と、火球を地表に叩き付けた。無言でミストラルも次々と火球を投げ付けている。
「そんなことは、俺が許さん!」
「はっはっは! 踊り出る真打ち!」
折しも、それは同時。
地表では牙竜が、そして近くの家の屋根の上ではクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が、それぞれ決めポーズを取りながら叫んだ。
「俺は、牙の竜! 武神、ケンリューガー!!」
「お茶の間のヒーローことクロセル、ここに現るッ!」
「うざい!」
メニエスが叩き付けた、その火球が。
ゴオン!!
地面に叩きつけられるより先に、恐ろしい勢いで膨らみ、破裂するようにして広がった。
「うわあああっ!」
通りにいた者は全て炎に呑み込まれる。
「まずい!」
未だ付近に留まっていたコハクをこの場から撤退させるべく、リアンがコハクを抱え上げた。
「ゆくぞ。おまえ、しんがりを任す。アルゲオはそこで呆けている女を引っ張ってこい!」
「ええ!」
とアルゲオが放心状態のアリアの腕を取って引っ張って行く後ろで、イーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)におまえ、と、言われた月実は、
「え!?」
とぽかんとした。
「えっ、ちょ、何それ聞いてない」
慌てている間にも、コハク達は素早く撤収して行く。
「ひどーい、こんなか弱い乙女を残すとか有り得ない、あーもう、別にいいけど――!!」
「なっ、今の何!?」
巨大に膨らんだ火球に、撃った本人もびっくりして、メニエスはぽかんとした。
火球はぼわっと膨らんで広域に広がり、破裂したが、どこかに引火したとかいうことはなかったようで、全員ほんのりと焦げ臭くなっている程度ではある。が、
「きゃああああっ牙竜しっかりして!」
ど真ん中でそれを受けた牙竜は、ピクピクと痙攣していた。しかし駆け寄ったリリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)に、
「ケンリューガーだ……がくっ」
と言う余裕はあった。
ちなみにお茶の間のヒーローの方も、似たようなかえるの開き状態で屋根の向こうに転がっている。
「おまえっ、調子に乗ってんじゃないぞ!」
アリシア・ノース(ありしあ・のーす)が叫んだ。
「地上で手をこまねいて見ていると思ったら大違いです」
橘 恭司(たちばな・きょうじ)を始め、そのパートナーのクレア・アルバート(くれあ・あるばーと)やクルードら、小型飛空艇を持っている者達が宙へ上がる。
「おっと、やばっ」
「メニエス様、SPが尽きました」
「オッケ、じゃあとっとと撤退しましょ」
2人は箒の向きを変える。
「待ちなさい!」
クレアの叫びにメニエスはふふんと笑って
「こっちは空の逃走ルートもあらかじめチェック済よ!」
と余裕の笑顔だった。
じゃなかったらわざわざあなた達の前に現れたりするものですか!
「ちっ、めんどい」
高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は、敵が撤退するタイミングで後を追い、敵の情報を探ろうと思っていたのだが、飛び去って行く箒と小型飛空艇を見て、それを断念した。
あの箒はどう見ても、コハクを追っている連中とは結び付かないと思ったからだ。
早い話が、かの謎の敵ではないと判断したら、追うのが面倒くさくなったのだ。
「まあいいか、だるいし……。また次の時にってことで」
がりがりと頭をかいて、あとは他の連中に任せることにした。
「結局、最初のひとつしか成功しなかったねえ」
「仕方あるまい。不意打ちが成功するのは結局最初の1回だけだ」
騒ぎに程近いビルの屋上からのんびりと高みの見物をしていた、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がのんびりと言って、桐生 円(きりゅう・まどか)がそれに返した。
2人が用意した爆弾人間は1人だけではなかったのだが、
「ものすごい手際で、全員見付けられちゃったよねえ。爆弾用意するの、結構大変だったのになあ」
「――おまえらか、下の騒ぎを引き起こしたのは」
不意に声がして、振り返ると、屋上に八神 夕(やがみ・ゆう)が立っていた。
「あらら、見つかった」
「随分と外道な真似をするじゃねえか。俺でもあそこまでできねえぜ」
ぎろり、と夕は2人を睨みつける。おやおや、と円は夕を鼻で笑った。
「ボクにはできる」
ぴく、と夕の眉がはね上がる。
「……何にしろ、こんな逃げ道の無い場所で高みの見物とはな。殺っても俺は構わねえが、とりあえず捕縛させてもらう。大人しくしてもらおうか」
「あー怖い怖い」
大げさに肩を竦めながら、全く状況に合っていない口調と表情で円は言い、
「確かに逃げ場はないんだけどね〜」
と、オリヴィアも苦笑した。
「タクシーがあったりするんだよね〜」
「……何っ?」
訊き返してから、はっとして周囲を見渡す。そして見付けた。空飛ぶ箒で逃げるメニエス達が、逃げしな、このビルの方へ旋回して来る。
「あらっ、何その男」
屋上に降りるなり、メニエスが言った。
「お迎えありがとう。ちょっと見つかっちゃいまして。他にも来るかもしれないから、急いだ方がいいかもしれませんねえ」
「わかりました。では、こちらへ」
ミストラルが、相乗りを促す。
2人はそれぞれメニエス達の箒に便乗し、夕が止めようとするより早く飛び去った。
「――ちっ!」
「……とりあえず、皆無事なのか」
メニエスを見失ってしまい、合流して、クルードが訊ねた。月実だけはいつの間にか1人とぼとぼと帰ってしまっている。
「ちょっと焦げ臭いけどね」
アリシアが、苦笑いで答える。軽く火傷をした者はいて、真奈などが治してまわったが、こびりついた炭の部分は、治癒魔法ではいかんともしがたい。
「建物被害も無いな……ちょっと焦げっぽくなってる所はあるが」
見渡しながら、閃崎 静麻(せんざき・しずま)がそう言って安堵する。
「コハク達も無事だそうです。ちょっとコハク君がショックを受けて熱出したみたいで、病院に戻ると」
携帯電話から顔を離して、レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が彼等に伝えた。
「そうか」
「戦闘には慣れていないし、体調も本調子じゃなかったものね」
ユニが同情するように言う。
「……まあ、とにかく、ひとまず引き上げよう」
「コハク君にドーナツ買って帰ろうかしら」
レイナが、ミスドのある方角を見つめながら呟いたので、「喜ぶだろう」と静麻は答えた。
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