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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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「何となく罠くさいような気もするんだけどねー」
 それでも、聖地が危険な状態にあると言われれば、ノセられないわけにもいかないのだが。
 牧杜 理緒(まきもり・りお)は、誘い込まれている可能性に注意しつつも、虎穴に入らずんば虎児を得ずとばかりに、氷雪地帯をひた進む。
「とはいえ、魔境化なんて馬鹿なことしようとしてる奴等が本当にいるなら、1人くらい捕まえたいところよね」
 単独で行動してくれていたら、捕まえられたりしないかしら、とパートナーのテュティリアナ・トゥリアウォン(てゅてぃりあな・とぅりあうぉん)に言うと、
「戦略次第でしょうね」
と答えが返る。
「んーでも戦略って相手を知ってなきゃが前提よね……。
 聖地とか……その近くに住んでいる人はいないのかしら」
 見渡してみても、視界の中に入るのは一体の氷雪地帯である。

「この天候を避けて、地上に聖地が見当たらないっていうなら、単純に地下にあるんじゃねえの」
 そう予測したのはロイ・エルテクス(ろい・えるてくす)である。
「うあああそれにしても寒い。寒い。寒い。
 寝たら死ぬぞ、っていう状況って、こういうのを言うんだな……」
 防寒対策はしっかりしてきたつもりなのだが、寒いものは寒い。
 負けるのは嫌いな自分が負けを認めてしまうそうなくらい寒い。
 と、ブチブチとテンション高めに愚痴っていたら、
「いい加減にしなさい、喧しい!」
とパートナーのミリア・イオテール(みりあ・いおてーる)に怒鳴られてしまった。
「寒いと言うから余計に寒く感じるんです。
そんなに死ぬほど寒いと言うなら、熱くて死にたくしてあげましょうか」
 本気で火術を使いかねない様子のミリアに
「無駄な魔力を使うなよ!」
と抗議する。
「……確かに、魔力を無駄に消費している場合ではなさそうです」
 すっとミリアは目を細め、ロイも踵を返してその方角を見た。

「あれ何!?」
 理緒が指差した先に、氷で出来た虎がいる。
 氷虎は低い唸り声を上げ、地を蹴って彼等に襲いかかった。
 咄嗟に理緒が飛び出し、ランスを構え持つ。
 氷虎の攻撃を受け止めた横から、テュティが剣を振り下ろした。
 氷の虎は折れるように砕けたが、しかし、割れた氷虎はみるみる内にくっつき、復活した。
「何だこいつ!?」
「火術を使ってください、増幅します!」
 叫んだロイは、ミリアの言葉に
「おう!」
と応えた。
 全くカケラもなくなるまで、燃やして溶かしてしまえというのだ。
「爆炎破行きます!」
 テュティが先んじて攻撃を放った。
 テュティによって放たれた炎を、ロイとミリアが増幅する。
 身悶えて苦しむ氷虎に駆け寄り、少しでも楽に溶けるようにと、理緒がランスを叩きつけて、氷虎を砕いた。
 そして、やがて氷虎は水すら無くなって消滅した。
 ほっと安堵したのも束の間、
「おい、あれ!」
とロイが叫んだ。
 ここからは距離が離れているが、氷雪が集まり、やがて虎の形を成して行くのが見える。
「どういうことだ?」
「……もしかしたら、ポイントなのかもしれないです」
「え?」
「ここは”力場”なのでしょう。
 もしかしたら、それが更にこのポイントで何らかの影響を及ぼして、ああいう形のものが作り出されてしまうんじゃ」
「キリがないってことか」
「逃げた方がよくない?」
 氷の虎が完成しようとしているのを見て、理緒が言い、他の者達も同意してその場を離れた。

「おい、あれ、見ろよ!」
「今度は何です?」
 歩き出して程なく、ロイが声を上げた。
「モンスターじゃねえよ。あれ!」
 指差す方に、岩肌が見えた。
 岩肌には、亀裂というには巨大な裂け目が走っていて、むしろ大きく割れている、と言ってよかった。
 その向こうに、明らかに人工のものと思われる通路が伸びていたのだ。
「随分……派手に破壊されているのですね」
 テュティが眉をひそめた。
 入口は、恐らくひっそりと隠されるようにして存在していたはずだ。
 それが無残に破壊されている。
「まだ、破壊されてそうは経っていませんね」
 周囲に比べ、それ程雪が積もっていないのを見て、そう判断する。
「ドンピシャだったぜ」
 通路が明らかに地下に続いているのを見て、ロイは呟いた。
「皆にも知らせなきゃ。電波通じるのかな……」
 理緒が携帯を取り出した。


 ”聖地”に辿り着いたシルバ・フォード(しるば・ふぉーど)は、殆ど呆然と周囲を見渡した。
「地下都市……という感じだな……。
 ダンジョンというか、町だ。遺跡でもない」
 地下にある、というだけで、そこは普通の町に見えた。
 天井も高く、閉塞感は薄い。
「少し暖かいような気がします。
 風雪が防がれるだけでこれ程違うものでしょうか」
 パートナーの雨宮 夏希(あまみや・なつき)も不思議そうに言った。
 1枚くらいなら、上着を脱いでも支障はなさそうだ。
 「これも、”力場”とやらの影響なのか……?」
 地表にこの効果が現れていないのが不思議だが、この町に住む者達が、”力場”の力が放出しないように調整していたのかもしれない。
「随分広いですね。あそこに見えるのは……塔?」
 夏希が遥か前方を指差した。
 町の一番奥に、天井まで到達する高い塔が見える。
 遠目で判断しづらいが、岩の塔のように見えるが、周囲にある普通の家のように、石造りや木造とは何処か違うように見えた。
「とにかく、全体像を掴みたい。
 この町……聖地を詳しく調べよう。地図を作った方が後々の為にはいいだろうな。
 それが終わったら、魔境化についての調査だ」
 ひとつひとつすることを確認し、夏希は頷く。
 しかし、町を詳しく調査して、驚くべき有様が待っていたのだった。


 「……駄目だ。この人も死んでいる……」
 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、抱き起こした人を、再び横たえた。
 今はどこに集めようもなく、このままにして行くしかなかった。
 この地下都市に到着し、中の調査を始めてから、生きている人間に1人も会うことができないでいた。
 全ての死体は、機晶姫だった。
 元々の人数が多くはないのだと推測されたが、人として確認された全ての者が既に息絶えている。
 しかも皆、武器を手にとり、更に、死後数時間しか経っていなかった。
 まるで、相手の道筋を示すかのように、死体は一本の道なりに、ある場所へと続いている。
「クレア様!」
 少し離れたところにいた、パートナーのハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がクレアを呼んだ。
「この方、息があります!」
 はっと顔を上げて、走り寄る。
 ハンスが必死にヒールをかけるも、死に向かうこの少女には、もう間に合わないと2人とも解った。
「だ、だれ……」
「しっかり。我々は味方だ。何があった?」
 目も開けられず、弱々しく呟いた少女に、クレアが話しかける。
 少女はぱくぱくと口を開き、何とか言葉を紡ごうとするが、息がヒューヒューと漏れるだけだった。
「……様、を」
「何?」
「ヘリオ、ドールさま、を、助けて…………」
 ひゅう、と息を漏らし、言葉が途絶える。
 ハンスがヒールの魔法を止め、悔しそうに唇を噛んだ。
「……どなたかが、連れ去られて?」
 息絶えた少女を横たわらせ、ハンスがクレアに言う。
 少女が最後に遺した言葉は、名前のように聞こえた。


「えらい金属反応しまくりやねんけど」
「魔力もここいら一帯、全てから感じとれる、という感じですわね」
 金属探知機の反応を見て、御槻 沙耶(みつき・さや)は溜め息をついた。
 何かを発見するためにと学園からレンタルしてきた金属探知機だが、どこに向けても探知機が反応する。
 どうも聖地全体が何らかの金属を帯びていて、更にそれは何らかの魔力も帯びているようだ。
 ”聖地”というのが”力場”で即ち魔力の溜まり場、という場所なのだから、魔力を強く感じるのは道理か。
「お宝探知機、ってのがあれば……」
 悔しがる沙耶に、
「諦めて、本命に向かったらいかがかと思いますわ」
 と、パートナーの嵩乃宮 美咲(たかのみや・みさき)が助言する。
 本命、というのはつまり、いかにも何かありそうな、奥の塔のことだ。
「……あれがもし、『魔境化力場発生装置』だとしてやで?」
 それを探し出すのが、沙耶の本命だ。
「……あんな大きくちゃ、持って帰れへんわなぁ」
 駄目なら破壊、が次の手だが、出来れば持ち返って調べてもらいたい、と思っていた沙耶には痛手だった。
 勿論本命も痛手だが、その他にも。
「ううっ、お宝……」
 魔境化防止はむしろついでで、お宝の方が大本命なのだ。
 諦め切れずにうろうろと”本命”に向かわずにさ迷っているわけだが、どう見ても、金属探知機は稀少アイテムの発見に役立ちそうもなかった。