リアクション
○ ○ ○ ○ 「大事になっていたらしいですよ。お伝えして良かったです」 「何ー!? それはどんな食べ物の話? 大きなお菓子屋さんがオープンしたの!?」 携帯のメールを確認している笠岡 凛(かさおか・りん)に肩車してもらいながら、メアリ・ストックトン(さら・すとっくとん)は周囲をきょろきょろと見回す。 「いえ、違います。先日白百合団に送った、情報の件です。百合園の生徒を無事救出されたようですが、精神的に参ってしまっていているようで、復学には時間がかかりそうとのことです。白百合団の方々もお怪我をされた方が多いようで……心配ですね」 凛は白百合団に情報を提供した際に、早河綾に関しての状況を連絡してくれるよう白百合団団長にお願いしてあり、こうして状況を送ってもらっている。 「病院じゃ、お菓子好きなだけ食べること出来ないからね。凛、めーるするなら、そんなことじゃなくて、もっと美味しいお店の情報とか仕入れないとダメじゃない! 忘れないで、わらわが主人なのよ? そういう難しいことは解らないけれどわらわが偉いのよ! それは忘れちゃだめなんだからー!」 メアリは足をバタバタとばたつかせる。 「分かってます。お嬢様」 凛は笑みを浮かべて、携帯を鞄の中にしまった。 そして、メアリの足を優しく撫でてあげる。 この1ヵ月間。凛は怪盗の被害に合った家々を何度も訪問し、情報提供を求めた。 口を閉ざすばかりで、あまり説明をしてはくれない被害者達であったが、どうにか全てのターゲットの名前と、盗まれた物についての情報を集めることが出来ていた。 ただ、盗まれた物に関しては、嘘をついている人物がいないとはいえない。 「お嬢様、飲み物でも飲みませんか?」 喫茶店に入って情報を纏めたら、ライバルでもある桐生 円(きりゅう・まどか)と情報交換をしようと思うのだった。 「うん、オレンジジュースが飲みたい〜っ」 メアリは今度は嬉しそうにまた足をばたつかせた。 ○ ○ ○ ○ 「あらあら、百合園女学院に行くのでしたら女装は欠かせなくてですのよ♪」 楽しげに言ってイルミンスールのブネ・ビメ(ぶね・びめ)は、シャキーンとメイクセットを取り出す。 「慣れるまでは仕方ありませんね。今回もしましょう。えぇしますとも」 オレグ・スオイル(おれぐ・すおいる)は、苦笑しながらもブネに任せてメイクをしてもらい、服も着せてもらう。 中性的な美貌の持ち主のオレグには、メイクは薄めで大丈夫だ。 服装は百合園の制服。こちらはまだ自分では着ることが出来ないようで、毎回ブネが着せてあげていた。 「はい、姿勢を正して〜」 ぴしっとブネはオレグの足を叩き、指導をしながら……百合園に向かうのだった。 百合園女学院には、時折他校生も訪れて来客という扱いで、校長の桜井静香(さくらい・しずか)の護衛を努めてくれていた。 生徒会やラズィーヤは難しい相談を行なっていたが、静香の周りはあまり変化はなかった。 校長室のソファーには、今日は静香とイルミンスールの学生が集まり、菓子と紅茶を楽しみながら相談を行なっている。 「あっという間にハロウィンが来ちゃいそうだけど、これといって対策思い浮かばないなー。何が狙われてるのかさっぱり分からないしね」 紅茶を飲み、ふうと静香は溜息をついた。 「今まで人間がさらわれた事は?」 少し離れた位置に座る、白百合団団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)に、そう問いかけたのは、イルミンスールのメニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。 「怪盗舞士でしたら、そのようなことは行なわないようです」 「その人自身が攫われるとは限りませんわ」 メニエスのパートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)がにっこり微笑む。 「例えば、その人の一部が奪われるとか」 言って、静香の方に目を向ける。 「い、一部って?」 「物理的に校長をさらうわけじゃなく、校長とラズィーヤさんの記憶だけを盗っていくとか」 メニエスがそう言うと、静香はビクリと震えて鈴子の方に目を向ける。 「……そんなことは、ないと思いますけれど。盗まれた方々が一様に盗まれた後に態度を変えていることから、何か精神的に影響を及ぼす物が盗まれているとは考えられますわ」 「もし、大切な物が本当に奪われてしまったら、ラズィーヤ様はどうなるのでしょうね?」 意味あり気な抑揚で、メニエスは静香に問う。 「ど、どうだろう」 「パートナーが死亡したら、相手も酷いダメージを受けますけれど、パートナーの精神が死亡した場合はどうなのでしょう?」 ミストラルも静香の心を揺さぶるような言葉を口にする。 静香は少し怯えながら、鈴子達と相談をしているラズィーヤに目を向ける。 自分は彼女のパートナーだけれど……。 玩具としての価値しか、ラズィーヤにはないんじゃないかと、そんな風に思うこともある。 だけど……。 「僕とは関係ないものだとは思うけれど、ラズィーヤさんの大切なものなら、僕にとっても大切、だから……」 複雑そうな顔で静香は考え込むも、やはり全く見当がつかない。 「身体は守れても、心までは守れないから。気をつけて、下さいね……」 含みを持たせて目を細めメニエスが微笑みかけると、静香は悪寒を感じたかのように軽く震えた後、首を縦に振って、乾いた喉を潤すため、紅茶をまた一口飲んだ。 「少し、お話を聞かせていただけませんか?」 ソファに同席していたオレグがテーブルで相談をしているラズィーヤと鈴子に声をかける。 「イルミンスールから持って来た、お菓子もありますわよ」 ブネがそう声をかけると「では、少しだけ休憩もかねて」と、鈴子が立ち上がり、ラズィーヤを促してともにソファーに移ってきた。 「お聞きしたいのは、2人の関係。それと、シャンバラ女王とはどのような御方で、ラズィーヤ嬢は女王に関係する何かをお持ちなのでしょうか?」 「確かにヴァイシャリー家は女王に最も近い家系ですが、女王に関するものを求めるのであれば、わたくしではなくお父様を狙うはずですわ。わたくしは女王に関するものは何一つ持っていませんもの。……情報さえも」 「そうですか……」 「わたくしと静香さんの関係でしたら、見ての通り、大親友ですのよ?」 「そ、そうだったの!?」 ラズィーヤの言葉に、冗談交じりに静香は驚いてみせ、笑い合った。 オレグは軽く笑みを浮かべる。一方的に弄ばれているようにも見えるけるけれど、この2人、仲は決して悪くはないな、と。 「真の宝が友情ならば、静香さんが狙われる可能性はありますが――王族に関するものの可能性もやはり捨てきれないですよね」 オレグの言葉に、少し間を置いた後……。 ラズィーヤは「そうですわね」と呟きのような言葉を発した。 |
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