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リアクション
「陣くーん!」
困り顔で、ヴァルキリーの可愛らしい少女が駆けてくる。
「遅かったな、どうした?」
蒼空学園の七枷 陣(ななかせ・じん)がジュースを飲みながら訊ねる。
「な、なんかね、変なオジさんがべたべたひっついてくるから、逃げてきたんだよぉ〜!」
そう言う彼女の後ろから、オヤジ……いやもしかしたらまだ若いかもしれない不良な男達がバラバラと近付いてくる。
「お〜ま〜え〜は〜っ。根っからのトラブルメーカーやの〜〜え〜?」
「いだだだだ痛いよぉ〜! ボクのせいじゃないのにぃ〜っ!」
陣はパートナーのリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)の両側のもみ上げを掴んでがくがく引っ張った。
「ちっ、ヤロウ連れか」
陣の姿を目にした男達はそのまま帰っていこうとする。
「ちょい待てや。人のパートナー追いかけ回して、保護者付きだからボクつまんなーい帰ろーっと。とか出来ると思ってるの? つか舐めてるの? バカなの? 死ぬの?」
男達が振り向くより早く、陣は火術を放った。
「ぐぎゃっ」
男が1人、炎につつまれて水を求めて走っていく。
「はわわ、はわわわっ」
陣のもう1人のパートナー機晶姫の小尾田 真奈(おびた・まな)はその様子にただおろおろしていた。
「ってめぇ! 身包み剥いでやるぜ!!」
残りの3人が一斉に武器を抜いた。
「とりあえず、その汚物は以下略な台詞が似合いそうなモヒカンをさぁ、跡形もなく焼いてさぁ、お前ら全員出家させてやんよ?」
陣が手を軽く振り上げて指示を出すと、リーズがカルスノウトを手に前に出る。
「さっきは気持ち悪くて逃げたけど、陣くんがいればもうへっちゃらだもんね! その腐った脳みそを叩っ切ってやるんだから!」
「ご主人様の意向です。申し訳ありませんが、あなた方を排除させて頂きます」
真奈も徒手で構え、臨戦態勢をとった。
「女は持ち帰るぞ、男はぶっ殺せ!」
「おお!」
「それじゃ、ボクも遠慮なくぶっ殺させてもらうから!」
振り下ろされる剣をリーズがカルスノウトで受ける。
「こっちは高く売れるんじゃねぇのっ!」
男2人が真奈に斬りかかる。
真奈は身を屈めて素早く避けて、下方から男の胸を打つ。
「それに……私も、リーズ様に怖い思いをさせたあなた方が大変不快です」
即座にもう1人の男に、回し蹴りを打ち込んだ。
男の剣で軽く服が避けるが気にはしない――。
「酌量の余地は皆無と思って下さい」
「よーし、パパウェルダンに焼いちゃうぞー♪」
静かに言う真奈の後で、陣がそう言ったかと思うと、火術を連発して男達を火達磨にしていく。
不良の丸焼きが出来上がるまで、数分とかからなかった。
「やけに変なヤツらが多いよな……」
焼けた肌をさらけ出して逃げる不良に手を振りながら、陣は呟いた。
この集落に来る前にも、リーズは絡まれている。
「この近くになにかとんでもない組織があったり……なーんてことはないよな〜」
欠伸をして伸びをし、彼はパートナー達と共に宿に向かう。
彼はまだ知らない。この集落の側で巨大な陰謀が渦巻いている(かもしれない)ということを!
第1章 作戦会議
ルリマーレン家の別荘が鏖殺寺院に占拠されていると知ってすぐ、メンバーはその場から撤収し、一旦近くの集落へ戻ってきていた。
あれから連日のように、宿屋では作戦会議が開かれており、会議と物資や解体に必要な材料を手に入れるための交渉に皆勤しんでいた。 別荘で飼われている柄の悪い少年の姿も時折見られるが、確証もなく、一般の冒険者とも区別がつかないため、とりあえず絡んでこない相手は放置している。
「どうするの、どうするの、どうするのー!」
別荘解体の依頼主であるミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)は大好きなクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら、うろうろしているだけで、何の提案も出せずに皆の邪魔ばかりしていた。
数日もすれば皆もそれに慣れ、ミルミを無視――もしくは、適当にお菓子を口に中の放って黙らせて、会議を進めていく。
――不良達がいつここを発見し、乗り込んでくるか分からない。
そんな危険性もあることと、血気盛んな解体業者とお手伝いさん(主にミルミに雇われた他校生達のことね!)が恐怖のあまり暴走しかねない為、SOS班として別荘に調査に向かい、重大な事実を掴んできたメンバーは、新たな仲間も迎え入れ、お揃いのヘルメット着用し、腕を組み、時折唸り声を上げながら真剣な作戦会議を行なっていた。
「全員、手に方法を書いて見せ合うというのはどうですかな」
別荘を破壊するという意見については、全員一致するも、方法についてはなかなか具体的な案が出なかった。
シャンバラ教導団のミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)のその提案に、一同神妙な顔で頷き、ペンで手に方法を書き記していく。
「できた、いっちばーん」
蒼空学園の初島 伽耶(ういしま・かや)がばっと手を広げる。
そこに書かれていた文字は『特攻玉砕』だった。
「そうそう、やっぱこれだよね」
「それは作戦じゃないですぅ」
パートナーのアルラミナ・オーガスティア(あるらみな・おーがすてぃあ)はうんうんと頷くも、教導団の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)は苦笑いをする。
そういう伽羅の手には『掛矢』と書いてある。
「いや、効率的にはこうでなければならん」
教導団の青 野武(せい・やぶ)の手には『爆破』の文字が。
「併せてこちらはどうでしょう」
パートナーの黒 金烏(こく・きんう)の手には、『放水』の文字が書かれている。弱毒化も考えての案だ。
しかし。
「爆薬は殆どありません」
「大量の水を汲み上げる装置も、専用のホースもありませんがな」
仲間のつっこみを受けて、断念する。
「これでどうだ?」
教導団の一色 仁(いっしき・じん)の手には『周囲に堤防を建築して高松城の水攻め』と小さく書かれていた。
「非常にいい案だが、そんな大規模な工事が出来るわけがない」
こちらも敢え無く却下される。
隣に座るミヒャエルのパートナーであるアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)の手には『火』と書かれている。
ありきたりの案に皆が唸り声を上げる。
「火は万物の霊長たる人類の知恵の象徴であり、全てを浄化するものですわ」
「バイオテロ素材の拡散防止のためにも、火術の併用は欠かせないでしょう」
アマーリエが美しく微笑み、黒は深く頷く。
「それじゃ、火術打ち込みながら、これだな!」
教導団のアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の手には『排障機付きの戦車で踏みつぶす』と書いてある。
場に失笑が漏れた。
「それが出来たら苦労は無いでしょ、この戦車オタク!」
ぱこーん☆と、パートナーのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)が、アクィラの頭を叩いた。
「叩くことないです、真剣なのにぃ、とても真面目なんですぅ、精一杯の意見だしてるんですからぁ!」
もう1人のパートナーのクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)がフォロー?を入れてくれるも、アクィラはなんだか悲しい気分になった。
「纏まらんな。解体といったらこれだと思うのだが」
意見が纏まらないことに頭を悩ませつつ、ミヒャエルが見せた手には『モンケーン』と書かれている。
「モンケーン? 鉄球も重機もないだろ。戦車と同レベルの案だ(深い溜息)」
仲間の言葉に、ガンと頭を叩かれたようなショックを受け、しょぼんとするミヒャエル。
「これはどうだろうか」
ミヒャエルのパートナーロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)の手には『破城槌』と書かれている。
「息子が時折使っていたそうだが……余は用いたことはない」
「私も貴殿と同意見だ」
青のパートナーのシラノ・ド・ベルジュラック(しらの・どべるじゅらっく)の手にも同じ単語が書かれている。
「鉄球に破城槌……それは『撞車』のようなものでござりますかな」
伽羅のパートナー皇甫 嵩(こうほ・すう)が言葉を発する。
「撞車でしたらこの場で用意できるのではないですかな」
撞車とは、過去に中国で使われていた攻城兵器である。丸太を台車に乗せ、その丸太を繰り返し城壁に叩き付けることで破壊する兵器だ。
「うーん……まあ、急造ならそんなものしかないか?」
仁が顎に手を当てつつ言い、
「そうですわね…」
と、パートナーのミラ・アシュフォーヂ(みら・あしゅふぉーぢ)も不安気ながら頷いた。
「よーし、それでいこう。でも、今の兵器はビジュアルが大事なんだから! 戦闘機だって戦車だって美しいわよね! つまり美しいものが強いの!」
伽耶は賛成するも、見かけを重視するよう強く提案する。
……そんな伽耶の提案は兎も角として、特に反対意見は出ず、撞車を作るという方向でようやく話が纏まるのだった。
「ふむ……やはり、これは欠かせぬでござる」
深く考え込んでいた伽羅のパートナーうんちょう タン(うんちょう・たん)がのっそりと手を広げる。その手には『火』と書かれている。が、誰も見てはいない。
「もう始めちゃってる人たちがいますよぉ。その案出てましたしぃ」
言って、伽羅もぱたぱたと宿から出て行く。
「……年かのぅ」
そんな言葉を呟きながら、うんちょうも腰を上げた。
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