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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

リアクション


○    ○    ○    ○


「こ、1人でどないせーっちゅーねん」
 ルカルカのパートナードラゴニュートのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は頭を抱えたい思いだった。
 どうにか屋上まで出たものの、巨体を振り回し、暴れているメカダゴーン(めか・だごーん)は説得で止められやしない。
 拳を振り下ろし天井を破壊し、足を振り回し、部屋に穴を開けていく。正に破壊神だ。
 シーツを被り、お化けの格好をした魔法使いも火術を打ち込んでくるし。
 中に飛び込んだ者達も、屋敷に炎を放ちまくっている。
「中にヒトがいるから止めろ!」
 叫んでみても誰も聞く耳もたず。
 というか、いいんだろうか。
 このままでは地下も無事ですむとは思えないのだが。
『帰ってくるまで壊されないように、お願いねん』
 とか明るく言って、人質救出の為に別荘に入っていったルカルカだが、あのルカなら、なら。
『地下の秘宝もいただこ〜☆』
 とか言いつつ、地下に進んでいる可能性がある!
「のわっ」
 ベランダの柵が空から落ちてきた。
 カルキノスは火術……いやドラゴンアーツを使い、塀の外、人のいない場所に落ちるよう、柵を吹っ飛ばす。
 1階では、真彦が次々と柱を壊しており、そのたびに別荘は激しく揺れた。
「つ……潰れる……」
 カルキノスは焦るも、攻撃は増すばかりだ。
「いいか、余計なこと考えず、とにかく脱出しろ!」
 ……叫びはルカルカに届いただろうか?

「行っちゃうのね」
 は、勝手口の前で両手を組んで尊敬の眼差しで目の前の大人びた女性――ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)を見ていた。
「仲間と話し合いの上、原因である百合園の暴言の件について、白百合団が謝罪したら許すことにいたしました」
 ガートルードは『寛大なパラ実女子が大きな心で許してやる』そのように、パラ実女子が上の立場としての交渉を行なうから、自分に交渉に行かせて欲しいと、怒り狂う女性陣を説き伏せたのだった。
「気をつけて」
 軽く頷いて、ガートルードはパートナー達と玄関から駆け出ていく。
 蒼は尊敬の眼差しで後ろ姿を見送る。
「やっぱり、素敵よねぇ。仲間の為に、敵地へ赴くあの姿と顔も!」
 ガートルードの大人の魅力に蒼は魅せられ、溜息をつくのだった。

 その数分後。勝手口の前に少女が現れた――。
「壊しても、ゴキブリは絶滅しません。ゴキブリの殲滅は別荘の解体よりも、優先しなければなりません。あの生物はわたくしにとって、いや、人類にとって天敵なのです。そうです、そうなのです」
 蒼空学園の荒巻 さけ(あらまき・さけ)は、青い顔でぶつぶつ呟きながら、外への射撃の余裕がなくなった別荘に武器を持って突入した。
「私もゴキブリは苦手ですけど、さけのゴキブリ嫌いはちょっと異常なところもありますからねぇ」
 くすりと笑みを浮かべつつ、パートナーの日野 晶(ひの・あきら)も後を追う。
 キッチンに足を踏み入れた途端、見てしまったのは大皿。の上の、黒い塊。佃煮。……ゴキブリの。
「ゥ……ィ……ゥ!!!???!!!」
 声にならない声をあげつつ、さけはよろめきながら悪の巣窟を進もうとしたが。
「くくっ、ゴキブリの怒りは大地の怒りだ」
 キッチンへ現れた男が、マントをバッと広げた。
「ガートルード様が正義だ! ガートルード様の名の下に、ゴキブリが罰を下すだろう」
「あははあはあはぁ、可愛い私の子供達をいじめるのは誰?」
 血走らせた目を見開いている2人――エルホワイトが、ゴキブリを纏わせて現れた。
 発狂した2人はどうでもいい。どうでもいいが、その蠢く黒き物体の姿に、さけの身体が痙攣を起こしていく。
 危険を察知した黒き悪魔、人類の敵はエルとホワイトに開放されると我先にと外へ逃げ出そうとする。
 さけの足元をカサカサと這い、目にも止まらぬ速さで身体にぺったりとくっつい――た途端。
 ブチッと頭の中で何かが切れて、さけの理性は吹っ飛んだ。
「ゴキ、ゴキブ……カサカサ……ヒギャアアアアあああああ!!!」
 ライトブレードをホワイトに放り投げつける!
「うっ……たとえ私が倒れようとも、私の可愛いゴキブリ達は不滅です……ばたり」
 剣を胸に受けて、ホワイトは倒れた。
 さけは床を蹴ると、エルに飛びつき、手を振り上げて爪で顔をバリッと引き裂く。
「ぎゃっ」
 抵抗するエルの喉に噛み付いた後、両足で蹴り飛ばす。
「ガートルード様、ばあんざぁ〜〜〜〜〜い!」
 首から血を流しながら、焦点の定まらない目でエルは叫んだ。
 最後の最後まで女神ガートルードを崇めて彼は遠くの世界へ旅立ったのだった。
 血を滴らせながら、「フゥーッ! フゥーッ!」と唸り、さけは廊下を獣のように駆けて行く。
「これは……ちょっと私にも手が負えません……! というかそんなに嫌いだったんですね……。家は常に清潔にするよう心がけましょう!」
 爽やかに言いつつ、晶は後退する。
「ゴキ……不良さん、パラ実の方々もお逃げになったほうがいいですよー!」
 一応忠告をしながら、勝手口から飛び出した。

「ちくしょー…、もう俺怒った、許さない! 全部燃やせばキレーサッパリするよな!? なぁ!? 焼くよ、丸焼けにしてやるーッ!!!」
 イルミンスールのウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)は目に薄っすらと涙を浮かべていた。
 この別荘に近付くだけで、思い出してしまう。あの晩の恐怖を!
 冷静さを失わないことを自分に誓いながら、別荘の傍に待機する。
 不良達と真彦の戦闘と柱の破壊が続いているが、ウィルネストとしてはそれでは足りない。
「燃やすなら土台からだ……! つまり! 地下から火をつける! 全部黒焦げにしちゃるわぁー!」
 半泣き状態で、なんかタオルで顔をごしごし擦りながら、ウィルネストは荷物を抱えて真彦の開けた穴から別荘に突入をする。
 中では既に炎が燻っている。
「汚名返上だー! 俺様の実力、知らしめてやるーッ!」
 発動した禁猟区に絶え間なく反応があるが、気付きもせず、ウィルネストは敵の本拠地に足を踏み入れたことに震え……いや、武者震いしながら、瓶に入れた油を投げ込んで、火術を放つ。炎が勢いよく湧き上がる。
「燃えろー! 燃えてしまえー!! 虫もパラ実もみんな燃えてしまえー!!!」
 地下を探すべく、戦う人々の合い間を縫って進んだウィルネストは出会ってしまった。
 まず、袋を被って悶絶している刀真という裸体に。
「ぎゃっ」
 何故だか判らない。何故だか判らない恐怖を感じて、思い切り後に飛びのいて、反対側にウィルネストは走り出す。
 それは先月ゴキブリンガーと名乗っていた無残な男の姿だった。
「何!?」
「フゥーッ! グルルルルッ」
 突如、人間のような物体が、ウィルネストに飛びかかる。
 爪で頬を引き裂かれるも、口をぱくりと開いたその物体に瞬時に炎を放つ。その獣は後方へと跳んだ。
「フゥーッ! フゥーッ!」
「邪魔をしようと、誰も俺様を止めることはできーん!」
 ウィルネストが再び炎を放とうと……獣と化したさけがウィルネストに再び飛びかかろうとしたその瞬間。
 ガガガガッ
 二人の間の天井が崩れ落ちる。
 瓦礫と共に落ちてきた黒い物体、悪魔。諸悪の根源。人類を魔物と化すその凶悪な生物兵器がッ! ウィルネストとさけの身体に張り付いていく。
「ひぎゃああああああーッ!」
「フ、オオオオオオオオーーーーーーーンン!」
 人のものとは思えぬ、壮絶な絶叫に別荘がビリビリと揺れた。

「さあ、頑張って掃除するわよー!」
 未沙が、別荘から少し離れた場所に掃除用具を並べる。
 別荘に近づくのは危険だけれど、出来ることからやっていこうと、自分自身は箒を手にとって周辺を掃いていく。
「未那ちゃんは、あっちの窓から、未羅ちゃんはこっちの窓からお願いね。別荘を占拠している人達と会っちゃったら逃げるのよ? 私達は掃除に来ただけなんだから!」
「判ったの。あの窓に向けて撃つの!」
 未羅は言われた通り、煙を放つ窓に向けて洗剤を入れてきた大きな水鉄砲を発射する。
「わぁ、中の洗剤が勢い良く飛んでいくの!」
「目標は、あの窓ですかぁ?」
 未那は反対側の窓への噴射を始める。
 未羅の水鉄砲と同じように、シュウーッと勢い良く発射された液体が、別荘の中へと入っていく。
「ぐるりと一周するですぅ」
 液体洗剤を噴射しながら、未羅と未那は別荘の裏側へ向かう。
「頑張って綺麗にしようね!」
 未沙は楽しそうに液体をかけていく妹達のようすに、微笑みを浮かべるのだった。