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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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着ぐるみ大戦争〜扉を開く者(第2回/全6回)

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第1章 飛んで、回って、墜ちて

 教導団第3師団、航空科を中心とした面々は訓練にいそしんでいた。教導団第3師団ではモン族の一部で狩猟に使っているワイヴァーン(飛龍)を転用して航空部隊編成のため、訓練が行われている。何しろ、生物である。その運用は一般的な機械と違って困難を伴う。もっとも、悪いことばかりではない。ある意味自動操縦装置がついているようなもので、無理な機動にはワイヴァーンの方が勝手に動いたりする。墜落しそうになったら自動的に立て直してくれたりするので便利な部分もある。
 「いっくわよぉぉぉぉーっ!」
 大声で叫んで朝野 未沙(あさの・みさ)は機体?を降下させた。ものすごい風が前から吹き付けてくる。ゴーグルをしていてもびりびりと風圧が伝わってくる。ぐんぐん地面が近づいてくる。そして大きな『×』印がはっきりと見えてきた。周りでは小銃を構えた兵達が一斉に火線を撃ち挙げる。はっきりと火が見えるのは発光弾が混ざっているからだ。
 朝野はにらみつけるようにして大きくなる×印から視線を外さずに機体?を捻る。ねじり込む様にして近づくと素早く脚で首脇を軽く蹴る。ワイヴァーンは足に掴んでいた樽を離すと樽はわずかに放物線を描いて目標にぶつかる。軽くはねるとそのままごろごろと転がっていった。
 地上で旗が揚がる。一人は赤旗、一人は黒旗を揚げている。
 「あうううっ〜〜」
 思わず朝野は顔をしかめた。赤旗は命中を示している、但し、黒旗は撃墜されたことを示している。樽は目標に命中したが機体は撃墜されたと言うことだ。なかなかうまくいかない。もっとも、大分ましな方である。朝野は早く訓練を開始したため、かなり技量を上達させているが、今月やってきた補充要員は満足に命中させることができない。高度を下げて羽ばたくと着地する。
 「お姉ちゃん、すごおーい」
 朝野 未羅(あさの・みら)が駈け寄って来る。こちらも訓練を開始したもののまだ基礎訓練中でふらふら操縦だ。ようやく急降下訓練を開始したところでまだ爆撃訓練には至っていない。
 「まだまだだわ。結局撃墜されちゃったし」
 「でもでも命中させてるもん」
 現状で急降下爆撃の訓練を行っているが何とか命中させることができるようになっているパイロットの数は両手に足りない。しかもその半数以上はモン族のモモンガパイロットだ。
 「それより、すぐ未羅の番でしょ?」
 「うん」
 「じゃ、急いで準備しないと」
 実は現状で使用しているワイヴァーンの数はそれほど多くはない。全体で十数機だ。数少ないワイヴァーンを皆で使用している状況である。

 「訓練項目としては精密爆撃を目的とした急降下爆撃より、命中させるのが困難な水平爆撃を重点的に訓練する方がいいのではないでしょうか?」
 早瀬 咲希(はやせ・さき)は責任者の角田 明弘に話をしているところだ。
 「水平爆撃を訓練することは別にかまわないが、重点は急降下爆撃というのが現状の方針だ」
 「急降下爆撃は撃墜される可能性が高いですし、水平爆撃の方がいいように思いますが?」
 「数がないんでなあ」
 「数?」
 「今の所、使用できるワイヴァーンの数は十数機(軍事的理由からワイヴァーンは『機』で数える事になっている)しかない。そしてこれはすぐに増える見込みがない。今後、モン族には大量育成をお願いすることになるだろうが育てるまでに時間がかかる」
 実際、ワイヴァーンよりパイロットの方が多くなる可能性は否定できない。これはワイヴァーンが貴重な戦力であることを意味する。撃墜された場合の補充が効かないのだ。ある意味、パイロットより重要である。
 「ならば、なおのこと水平爆撃では?」
 「機数が少ないと水平爆撃は効果がない。高空からあちこちに爆弾をばらまいても多少、混乱させるくらいしか意味はない。それよりもピンポイントで敵の砲兵部隊や通信系統を破壊できれば敵に与えるダメージが大きい」
 いわゆる電撃戦の基本である。まず航空機が敵の対空火器、砲兵、司令部、通信設備などを攻撃し、指揮系統を混乱させて地上の本隊が突っ込む。
 「ワイヴァーンの能力は戦術爆撃機に近い。爆弾も大量に積めない以上、戦略爆撃機の絨毯爆撃なんかはできない」
 角田の言葉に早瀬は不満そうだ。が、そこは軍隊である。
 「所定の訓練項目はきっちりやってもらう。但し、それ以外に自分で努力する分には水平爆撃だろうがかまわない。訓練に制限はないからな」
 とりあえず、今の所、操縦の腕前が一番なのは早瀬である。できるだけ自分で訓練するしかない。

 「そ、それではお願いします」
 緊張した表情で急降下に入るのは月見里 渚(やまなし・なぎさ)である。後ろには教官のモモンガパイロットが乗っている。
 「手ぇはなしますよぉ」
 後ろから声がかかる。ここからは月見里が操縦しなければならない。手綱を使ってワイヴァーンを操り×印に近づくがたちまちペイント弾で全身染められてしまった。
 「はううううう」
 ふらふらと降下する月見里。撃墜判定である。もう一度樽(模擬爆弾)を掴んでやり直しだ。
 「まあ、すぐには上手く行かねえですし、こいつはおとなしい奴ですだ」
 「気性で違いがあるんですか?」
 「んだぁ。よく言うことを聞くおとなしい奴は扱いやすいけんど、その分とろいのが多いですだ。気性の激しい奴は荒っぽい動きもしてくれるけんど、操るのが難しいですだ」
 やはり、乗り手とワイヴァーンには相性があるらしい。当面は乗り換えたりして相性のいいのを確かめることも同時に行われる。一番相性のいいのが『愛機』と言うことになるが、そう簡単に決まるわけではない。愛称をつけたがる者は多いが現状では時期尚早であろう。自分の愛機が決まるのは実戦配備になってからだ。
 一方、大分離れた訓練域では別の訓練が行われている。模擬空戦の第1段階、標的撃墜である。
 「くーっくっく。ふひひひひひひ。ワイヴァーンで爆撃……さぞ楽しいことになるでしょう。箒で飛ぶのも飽きたことだし」
 アリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)はとりあえず何とかワイヴァーンに乗ってよたよた飛び始めた。
 「ま、これでも箒よりはましよね〜」
 各学校の生徒が用いる移動手段はいろいろある。意外なようだが、純粋に移動速度が一番速いのは教導団の戦闘バイクである。次がパラ実の改造バイク、以下蒼空の飛空艇、イルミンの箒の順である。飛空艇は運用面で見てもスクーターが空飛んでいると見るのが正しい。但し、飛空艇と箒は空を飛ぶため、バイクに比べて実用面で速い。実用的な速度は地形によっては飛空艇が一番になるかな?というくらいだ。困ったことに箒はとにかく遅い。下手をすると百合園のお嬢様が使う馬車より遅い。そのためイルミン生徒の中には箒に不満を持つ者も多い。
 「さ〜〜〜〜あ。いくわよおおっ」
 ミスティフォッグは小銃を構えると前方下部に見えるバルーンに向かって一直線。射撃を開始した。しかし、標的のバルーンはひょいと下がると射撃をよけた。
 「この、これなら!」
 旋回して射撃を加えると今度はひょいっと上に上がる。
 「このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのぉぉぉぉ!」
 ミスティフォッグは逆上して撃ちまくるがバルーンが動いてなかなかあたらない。
 「そう簡単にはいかないのであります!」
 下で見ていたマリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)はほくそ笑んだ。バルーンは熱気球を使用している。燃料は当初、アルコールを使用することを考えていたが、エタノールを使用した方が手間がかからなかった。教導団の車両、バイクやトラック、電気設備の発電機はすべてエタノール燃料を使用しており、わざわざ抽出する必要がなかったからだ。向こうではカナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)がせっせと駆けずり回っている。バルーンにはワイヤーがついており、それがシーソーの様な板に取り付けられており、スポルコフがせっせと乗り降りしてバルーンを上下させている。ランカスターは見た目こそ弁髪に髭?となかなか怪しさ大爆発だが、やっていることは堅実である。概ね、管制、整備関係の中核として動いている。侮るわけには行かない。空こそ飛ばないが意外と航空慣れしており、訓練では他者を翻弄している。
 「このこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこのこの」
 躍起になって撃ちまくるミスティフォッグを下ではあきれた顔で小鳥遊 律(たかなし・りつ)が見上げていた。
 「マスター……やはり向いていないのでは?……」
 まかり間違えて墜ちたりしないかと内心不安な小鳥遊である。

 再び、急降下爆撃である。メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が急降下を開始する。慣れない者には風圧はきついが、次第にそれも気にならなくなる。
 「第1弾、投下行きます〜ぅ」
 ポーター機が樽を投下する。……外れ。被弾判定。(被弾しているが撃墜に至らなかったとの判定)
 「第2弾、投下しまっす!」
 ライト機が樽を投下する。……外れ。おまけに撃墜判定だ。やはり訓練を始めたばかりの者はまだまだうまくいかないようだ。
 その後ろから、一機だけ急降下の速度が遅い機がある。急降下中もなにやらよたよたした感じだ。
 「ひ〜いぁ〜う〜わ〜りゃあ〜」
 奇声と共にワイヴァーンを必死で操作しているのはあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)である。なにしろ、ダンボール箱は四角い。ダンボールロボ?であるあーる華野は思いっきり空気抵抗が大きい。わざわざブレーキを掛けながら急降下しているようなものだ。投下した樽も明後日の方角へ飛んでいる。
 「あれじゃ、まともな爆撃できないんじゃないの?」
 ライトはあきれ顔だ。
 「やっぱり、ダンボールは脱いだ方がいいのでは……」
 思わず呟くポーター。あーる華野は操縦に四苦八苦である。一応、空戦機動中に落ちないよう体はワイヴァーンに金具で固定されているが、あーる華野はダンボールに当たる風圧で体ごと持って行かれそうになる。体の『夏みかん』の文字が激しく揺れた。
 「ひ〜わ〜るの〜ら〜」
 普通に飛んでいてもダンボールで風圧が厳しい。何とかしないと実践で撃墜される可能性が高くなるだろう。
 その一方、一団が近くの崖の上に集まっていた。万一に備えてのパラシュート訓練である。
 「大丈夫かしらあ?」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はこわごわ下をのぞき込んだ。いつもはワイヴァーンで飛んでいるモモンガパイロット達もさすがにやや不安の表情だ。ただ、彼らとしても今までは墜ちればまず死亡だったのが何とかなると言うことでは必死である。ましてや今までは狩りだったがこれからは戦争である。墜ちる確率は段違いであり、やらねばならぬ事は皆解る。
 「えーい、ぐずぐずしてられないわ!それ!」
 そう言ってミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)はアヴェーヌの尻をどんと蹴飛ばした。
 「ひああああああああああああ!」
 アヴェーヌはそのまま崖下へ落ちていく。一応、強力なゴムのついたロープが括り付けられており、安全だ。開傘に失敗してもバンジージャンプになるだけだが、それでもやはり怖い。
 「さあ、どんどんいくわよおお!」
 そう言ってコーミアは向き直る。どんどん突き落としていく。
 「じぇろにも〜!」
 「じぇろにも〜!」
 「ジェロニモォォォォォ!」
 ちなみにジェロニモというのは米軍で落下傘降下時にタイミングを計る意味で叫ぶ声である。
 「あ〜、これでみんな落ちたわね?」
 コーミアが覗くと、パラシュートが開いたり開かなかったりしているがいずれもバンジーでぶら下がっている。
 「はい、貴女で最後ですだあ」
 「へ?」
 どんっと突き落とされる。
 「ひああああああああああああ!」
 こうしてコーミアもぶら下がった。
 そして、模擬空戦でがんばっていたのが一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)である。何とかワイヴァーンの操縦方法を身につけつつある。ワイヴァーンは言うまでもなく翼はあるがジェットエンジンはついていない。つまるところパワーでぶんまわすジェット機ではなく、空力を生かしたレシプロ機的運用がメインとなる。と、なれば回転しての空中格闘戦などは重要な項目だ。右に左に機体を操りながら相手の機体を追いかける。相手は歴戦?のモモンガパイロットだ。なかなか苦戦していたが回転しての巴戦に持ち込み、相手の後ろにつけた。空中格闘戦の必勝体形だ。
 「よ〜し。そこまでよ。覚悟!」
 そう言って一ノ瀬はペイント弾のカービンを片手で構えて狙いを定める。
と、そのとき、相手は一瞬、翼をたたむような動作をしたかと思うと、一ノ瀬の前から姿を消失させた。
 「き、消えた!?」
 一ノ瀬が目を見張った瞬間に背中から圧力を感じた。ペイント弾だ。後ろを振り向くといつの間にか先ほどの相手側のワイヴァーンが後ろに回り込んでいる。
 「いつの間に……!」
 その光景を下で見ていた角田は感心したような声を上げた。
 「これは……興味深い空戦機動ですな」
 「はあ、まれに野生のワイヴァーンに追われることがありまして、ワシらは皆あの動きを身につけております」
 長老格のモン族の老人が言った。ワイヴァーンの特性を生かした空戦機動である。一体、何をしたのか?パイロット達はこれに対抗する方法を考えねばならない。

 訓練はなおも続けられているが、一度に大勢できるわけではない。地上で作業している者もいる。リズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)は交代したワイヴァーンを引っ張るのを手伝って来たところだ。
 「う〜、やっぱり乗れないの〜」
 「貴女の場合、まず体格が問題ですわ」
 アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が指摘した。モルゲンシュタインは何しろ七歳だ。まあ教導団では少年兵少女兵が腐って発酵するくらい人数がいる。本人達は志願してきており、児童福祉法ぶっちぎり状態である。教導団の場合、それ自体は問題はないが、体格が小さいのでワイヴァーンに跨るのが難しい。また手綱を操る体力もないと言って良い。できるならば乗ることはかまわないがこのあたりの判断ができているかどうか?できていないなら乗る以前の問題だ。
 「当然、乗るつもりなら乗るなりの方法や努力がいりますわ!」
 体格の問題をクリアしないとならない。それについてどうするのかを考えないで乗ることはできないであろう。
 「結構厳しいの……」
 「そうですわね。シート争いは熾烈になりそうですわ」
 現状で実践に投入できるワイヴァーンの数は十機ほど。であるならばパイロットになれる人間は限られる。
 「筺子も大丈夫かしら」
 ウォーカーも空で煽られているあーる華野を見上げている。例によってダンボールの風圧で墜ちそうである。

 航空機と違い、ワイヴァーンは生物である。そのため、整備ならぬ世話が必要となる。
 「やっぱり、洗ってやらないとなりませんね」
 菅野 葉月(すがの・はづき)は一機?のワイヴァーンをごしごしと洗い始めた。まあ、多分に爬虫類?なのでどばっと水を掛けなければ大丈夫であろう。割とワイヴァーンもおとなしくしている。
 「それにしても慣れてますね〜」
 「ああ、子供の頃から可愛がって育ててますだあ。慌てずに教えてやれば結構かしこいですだあ」
 「食べ物は、何を?」
 「もっぱら生肉ですだ。なので、餌の動物も育てねばならねえだ。食べるものも決めておかねえとならねえだで」
 要するに、決まった肉(羊)などを食べさせることで迂闊に人間などを襲わないようにしているらしい。休ませることも重要だ。長時間飛ばせたら休ませないとある意味壊れてしまう。

 「さーあ、一休みですよお〜」
 朝野 未那(あさの・みな)がポットを持ってテーブルに近づいた。そのときである。テーブルの上で何かが動いている。
 「な……何?何?」
 よく見るとお茶菓子のクッキーの周りでうごめく影がある。山に住んでいるモモンガ、パイロットをやっているゆる族ではない、生のモモンガである。おいしいもの見っけ!とばかりに人目を盗んでかじっている。
 「わ、駄目だよ!お姉ちゃん達が食べるんだから!」
 そう言ってクッキーを皿ごと取り上げようとするが、モモンガは素早く一枚失敬して囓っている。
 「あら、可愛いものがいるじゃない」
 ちょうど訓練の合間の早瀬が戻ってきた。モモンガは今度はそっちに視線を向ける。クッキーを口に丸ごと放り込もうとしている。で、入らない。
 「しょうがないわね」
 早瀬はクッキーを三つに割ると目の前に差し出す。すると、モモンガはもぎゅっと口に入れて早瀬の方を見る。もうひとかけら差し出すとやはり口に入れてしまう。モモンガの両頬はぱんぱんだ。しかしさらに早瀬の方を見てきゅいっと一声鳴いた。
 「いやしんぼ……」
 早瀬がそう笑ったときだ。
「うおあぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!」
 叫び声が聞こえた。皆が振り向くとギルバート・グラフトン(ぎるばーと・ぐらふとん)が全力疾走で走りながら叫んでいた。後ろからワイヴァーンがどたどた走ってくる。そしてそのままかぷっとグラフトンの頭にかみついた。
 「あぶないいいいっ!五寸釘きいいいいぃぃぃっく!」
 一瞬 防師(いっしゅん・ぼうし)がワイヴァーンを蹴っ飛ばすがまったく効いていない。それはもちろん一瞬の身長が大分小さいからである。
 「ぬうぉっ、拙者の必殺技が通じない!」
 そりゃそうだろうと、周りの者は内心突っ込みを入れたがそれどころではない。かっぷんちょっ!と頭を咥えられたグラフトンはもがいている。慌ててモン族の人たちが投げ縄でワイヴァーンを取り押さえた。ようやくグラフトンは脱出することができた。
 事の顛末はこうである。模擬空戦にともない、将来の兵器開発を見据えてグラフトンはいろいろ考えた。考えちゃったのだ。で、風防やら通信機器やらの開発具申を行ったのだが、その中にロケット弾と言うのがあった。んで、実践データをとって早々と開発を進めて見ようとしたわけだが、ワイヴァーンにロケット花火を取り付けて発射したところ、ワイヴァーンが激怒してしまった。それはそうだろう。腹のところで火なんぞを焚かれれば驚くに違いない。
 ワイヴァーンを実質、唯の航空機材としてしか考えない者もいる。この問題は訓練部隊内部でいろいろ考えさせられることとなった。
 そんな喧噪を眼下に見据えて飛んでいるのはゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)だ。
 「何を騒いでいるのだ?馬鹿どもが」
 フリンガーは下界の喧噪をよそに空戦機動を極めるべくワイヴァーンを蹴飛ばして機動を行った。
 フリンガーの考えはこうだ。宙返り、逆宙返り、きりもみ降下、インメルマンターン、ローリング・シザース、バレル・ロールなど試して一気に操縦の腕前を上げようとした。そして急降下から初めてきりもみ降下まで行ったときだ。手綱を綾って右に回るようにしているのだが、ワイヴァーンが従わない。そのまままっすぐ地面すれすれまで下がると振り落とすように左右に激しく動き始めた。
 「う、うわっちょっと待て!」
 逆さまになって下がったところでそのまま地面に引きずられる。地べたでおろし金状態だ。そのまま地面にぶつかるようにしてワイヴァーンは止まった。
 途端に大騒ぎだ。
 「ひいいいっ!」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)が駈け寄るが、フリンガーは血まみれであちこち骨折しているようだ。
 「ぴぃぽお、ぴぃぽお、ぴぃぽお!」
 赤色灯が回るヘルメットを被ってスポルコフが担架を運んできた。後ろを持つのはランカスターだ。
 「ああ、これは重傷です。急いで!」
 そのまま担架に乗せると直ちに運ばれていく。どうやらワイヴァーンの特性を考えずにあれもこれもやろうとしたのでワイヴァーンが怒ったらしい。
 ワイヴァーンは現状で極めて有力な航空戦力であるが、それを操るのは難しい。皆、口ではワイヴァーンと仲良くなろうと言っているが、実際には道具として粗末に扱う者もいると言うことだ。ワイヴァーンに無理をさせてはいないか?それは機体を本当に解っているかどうかであろう。ワイヴァーンを扱うと言うことは簡単ではない。それ故に貴重な戦力たり得ると言うことだ。

 この後、角田より、一つの指示が下った。早瀬と朝野及びモモンガパイロットの何人かは訓練が進んだことから来月試験を行うこととなった。試験に合格すれば晴れて実践投入である。
 試験内容は次の通りである。
 地面に直径数メートルの穴が掘られた。そこに二メートルほどの岩が据え付けられた。その上に木で覆いを作る。早瀬達はこれを爆撃して岩を破壊することである。なお、試験には実際の樽爆弾が用いられる。問題は隙間が小さいことである。岩が見えている隙間は一メートルほどしかない。ここから爆弾をぶつけようとすると現在の早瀬達の腕前でも確率は5パーセントに満たないであろう。かといって普通に投下しては木の覆いにぶつかる。
 さて、早瀬達は全力でこの岩を吹き飛ばさねばならない。どうするか?
 また他の者達は引き続き訓練を行うこととなる。もう少し腕を上げなければ実戦には投入できない。さすがに先に訓練していた方が有利と言うことだ。ワイヴァーンのシートは取り合いになる可能性がある。訓練においても気は抜けない。