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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

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横山ミツエの演義(第3回/全4回)

リアクション

「お、行った行ったぁ。がんばれぇ、パラミタ刑事シャンバラン!」
 だいぶ離れた風上からシャンバランこと神代 正義(かみしろ・まさよし)を、完全におもしろがって見物しているフィルテシア・フレズベルク(ふぃるてしあ・ふれずべるく)
 その横では大神 愛(おおかみ・あい)が胸の前で手を組んで、ハラハラしながら事の成り行きを見守っている。
「フィルさん、あんなボロ布で本当に大丈夫なんですか?」
「だーいじょうぶ。『その者蒼き衣を纏いて……』って言うじゃない? 何とかなるんじゃないかなぁ♪」
「な、何だか余計に不安になってきましたよ〜」

 遠くでこんな会話がされているとも知らず、正義は虹キリンと対峙している。
 クリスティとクレオパトラは、ヴェルチェのスパイクバイクに無理矢理乗せて早々に避難していた。
 正義はフィルテシアがくれた蒼いボロ布を腰に巻いている。
「虹キリン君、君はどうして……」
 一歩近づく。
 キリンの殺気が増す。
 キリンにしてみれば、正義はミツエを殺すチャンスを奪った邪魔者なのだ。
 虹キリンは正義へと突進を開始した。
「虹キリン君……その痛み、哀しみ! 俺が受け止めてやウボァー!」
 フィルテシアと愛のもとにまで聞こえてきそうなほどの衝突音と共に、正義の体が空高く舞い上がる。
 薄くなっていく意識の中、正義は頭上に虹キリンを見た。
 殺意を撒き散らし、容赦なく正義を跳ね飛ばしたキリンだったが、その直前に確かに速度が緩んだのだ。
 その証拠に、今キリンは立ち止まっている。
「君の感じてきた痛みや哀しみは……」
 地面が急速に近づいてくるのに比例するように、正義の意識は黒く塗り潰されていった。

「きゃああ! どどどどうしましょう!?」
 オロオロする愛に、さすがにヤバイかなと思うフィルテシア。それでも口は勝手にこんな言葉を吐き出してしまう。
「その者、パラミタのお面を顔にまとい……うんうん、いい話ねぇ」
「もうっ、全然いい話でも何でもありませんっ。ああっ、キリン君がっ」
 見れば、キリンが倒れた正義に顔を近づけている。
 愛には、今にも噛み付くか毒ブレスを吐くかに見えて、ますます顔を青くさせた。
 すると、ずっとキリンを追いかけてきていた朱黎明と芳樹、アメリアが到着し、今のうちだと集中攻撃を浴びせる。
「きゃああ! 当たるっ、当たってしまいますー!」
「そんなヘマはしませんよ」
 再び悲鳴を上げた愛を宥めながらも、ライフルのトリガーを引く朱黎明。
「これでようやく文化祭を平和に楽しめるかなっ」
 フィルテシアが見上げた先では芳樹が雷術を放っていた。
 ふと、隣で静かな声がした。
「いくつかは効いてるみたいだけど……」
 先ほど二人のパートナーを避難させたヴェルチェだ。
 虹キリンは確かにダメージを受けてはいたが、まだ元気に立っている。そして怒りの咆哮を上げた。
「ニンゲン ミンナ ウソツキ! ミツエブッコロシテ ラクニナル!」
 直後、キリンからブワッと澱んだ空気が噴出された。同心円状に広がるそれが触れる先から地面が腐臭を放ちだす。
 しかし、無敵に思えたキリンもここまでだったのか、その姿を周囲に溶け込ませて逃走体勢に入った。
「そうはいきませんっ」
 今まで後方でクリスティの看護をしていたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が全力で駆けてきて、何かをキリンへ投げつけた。
 それは水風船だった。
 今まさに見えなくなろうとしているキリンの体に、狙い過たず命中して破裂した水風船から白い液体が飛び出した。
 完全に姿を消したキリンだが、そこだけ白く浮き出ている。
 しかしキリンは反撃に転じることはなく、そのままダッシュで駆け去っていってしまった。
 その方向はミツエがいる方ではない。
 捕まえることはできなかったが、ミツエのもとへ突進を許すこともなかった。
「あれはペンキです。これで次に姿を消して現れてもわかりますね」
 ロザリンドの機転だった。
 その後、回復したクリスティとロザリンドで正義の手当てにあたったのだが、不思議なことにキリンの毒噴射は正義のところだけを避けていたのだ。彼が受けた傷は、最初に突き飛ばされた一撃のみだった。
 意識が戻り、そのことを知った正義はじんわりと感動していた。
 正義は何をジーンときているのかと首を傾げる周囲に、愛がやや呆れて説明した。
「依頼主か飼い主にミツエさんは親の仇だと吹き込まれたと信じているんです……」
 はたしてそれはどうだろうと、いまだ感動に浸っている正義に何ともいえない視線が集中したのだった。

卍卍卍


 その後、ロザリンドはこのことを報告しに本部へ向かった。
 詳細を聞いたミツエは残念そうにしたが、すぐに怪我人の安否も尋ねた。
「それは大丈夫です。皆さんピンピンしてますよ。──ところで、ミツエさんに一言申し上げておきたいことがあります」
 真剣味を増したロザリンドに、ミツエも座る姿勢を正した。
「建国宣言をするのもけっこうですし、中原の覇者になるのもその人の才覚です。けれど、他人の迷惑、特に弱者や百合園に対して何らかの強制や苦痛を与えるような行動をする場合、私のこの手で野望を潰します。それから国を解体して桜井校長の桜井王国に作り変えますよ」
 数秒後、ミツエは鼻を鳴らすような反応を返した。
「今さら百合園に未練も恨みもないわよ。だいたいどこからそんな話になったの? あたしは学校を追放されたんじゃなくて、自分で出たのよ。恨む理由がないわ」
 それなら良いのです、とロザリンドはゆったり頷いた。