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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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嘆きの邂逅~聖戦の足音~

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第1章 百合園女学院会議室

 普段は行事の話し合い等に使われる百合園女学院の会議室に、今日は他校生の姿がある。
 男性まで交えて会議を行なうのは非常に珍しいことだった。
 地球から招かれた学院の生徒達が、これから巻き込まれること、なさねばならないこと、背負うと思われる使命は、百合園女学院のお嬢様達には重いものだった。
 だけれどヴァイシャリー家の立場や、情勢から他校に直接協力を依頼することまでは考えられず、たまたまヴァイシャリーを訪れていた他校生に声をかけて、意見を交換しあう場を設けたといったところだ。
(おっかさん、白百合団は忍耐が必要です……)
 白百合団員のテレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)はそんなことを考えながらじっと廊下に立っていた。
 一般の警備員は勿論、白百合団員も自主的にこうして通路に立ち、警戒をしている。
 鏖殺寺院が絡んだ事件には、瞬間移動を使う者もいたという……ハロウィンで嘆きの騎士ファビオも、そういった特殊な能力を持つ者に連れ去られたのだから。
「以上なしっと」
 ディテクトエビルで探ってみるも、特に異常はない。
 最後の来客を迎えて、会議室のドアが閉められた後に、テレサも会議室に入って隅っこの席に腰掛ける。
「どうぞ〜」
「ありがと」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、資料を配って回っている。
 一部受け取ったテレサは開いてみはしたが……読むのが面倒になりすぐ閉じてしまう。
「お茶をどうぞ」
「ありがとっ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が配っているお茶はありがたく受けとって両手を温める。
 コの字型になっている席の奥の席には、校長の桜井静香(さくらい・しずか)と、パートナーでヴァイシャリー家の一人娘ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)、その左右に生徒会長の伊藤春佳(いとう・はるか)と、執行部長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)が座っている。
 鈴子の隣には、見知らぬ顔――ソフィア・フィリークスという名の女性が座っていた。
(古王国の女王の騎士かぁ……なんだろ、なんか気になる)
 テレサはその人物をじーっと眺めてしまう。気ままな自分とは相性が合わなそうな、硬そうな女性に見えた。
 賢しきソフィアと呼ばれていただけあり、聡明そうな雰囲気を持つ女性だ。
 彼女の反対側の隣には副部長の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)の姿がある。
「失礼します」
 断りを入れて優子の隣に腰掛けたのは、テレサとは別の場所を警備していたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)だった。
「最近、私も四天王と呼ばれるようになりました、E級ですが。白百合団の班長でもありますから、規模をかなり小さくしたプチ優子さんですね」
 ロザリンドのその言葉に、優子は微笑みを見せた。
 微笑みあった後、ロザリンドは少し表情に影を落とす。
「私の間違った判断で行動した人に取り返しのつかない事が起きたら……そう思うと始める前から怖くて役立たずなプチですが……。それでも学院を、愛する静香様を守るために全力を出して、使えるもの、やれるものは何でもしておきませんと」
「ロザリンドは私より、鈴子に似ているかもな。キミを班長に推薦したのは私だ。キミなら立派に果たせると判断したし、その判断には自信がある。怖がることはない、キミも自信を持ってくれ」
 瞳に力を込めて、ロザリンドは頷いた。
「はい。ナイトの訓練を再開しましたし、またツイスダーのような者の来襲があっても、耐えきってみせます。ですから頑張って行きましょう!」
 優子の頷きを確認した後、ロザリンドはちょっと溜息をついた。
「それにしても。静香様と二人っきりの聖夜とかしたいのに、闇の組織に女王の騎士に鏖殺寺院と面倒事がいくつも来るとか。個別に来てくれましたらそれぞれ白百合団の全力で対応できますのに。何で纏めて来るんでしょうか……」
 そんな彼女の呟きに、優子も資料を捲りながら呟きのように答える。
「纏めて来ているわけではない。気付かずにいたこと、後回しにしていたことが、嘆きの騎士ファビオの行動がきっかけで表沙汰になった。それが彼の狙いでもあったんだろうが。……とはいえ」
 珍しく優子がロザリンドに軽く悪戯気な目を見せる。
「個別に来たとしても、校長と2人っきりのクリスマスイブが迎えられるとは思えないけど。静香さんモテモテだから」
「うっ……それも、頑張ります」
 軽く笑い合った後、噂の主、桜井静香校長の声が響く。
「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。会議を始めます」
 会議室が静まり返り、シャンバラ古王国の騎士を交えた会議が始まった。
「こちらに来ていただいた方は、ヴァイシャリーで起こった事件の際に協力いただいた方、もしくは関心を持たれていらしたことと思います。これまでのことについては、お手元の資料にも纏めてありますのでご確認下さい」
 一連の流れはこうであった。
 怪盗舞士グライエールと名乗り、ヴァイシャリーで盗みを行なっていた男がいた。
 彼の正体を探った白百合団は、彼が騎士の橋にも姿が刻まれているシャンバラ古王国の騎士にして、後に女王の親族と共にヴァイシャリーに移り住み、離宮を守ったとわいれている『嘆きのファビオ』という人物であることと突き止めた。
 だが、彼は何者かにより深い傷を負わされ、連れ去られてしまう。恐らくは鏖殺寺院の手の者であると考えられる。
 また、彼の他にも、離宮を守護したと言われている騎士は5人存在する。
 ・賢しきソフィア
 ・麗しきマリル
 ・美しきマリザ
 ・悲恋のカルロ
 ・激昂のジュリオ
 うち、マリルとマリザはジュリオの子孫である白百合団員ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)の別荘地下で眠りについていたが、ミルミ達により封印を解かれ、長き眠りから目覚めたらしい。
 伝承によると、ファビオは5000年前に、鏖殺寺院との戦いにより騎士達の中で唯一命を落としたといわれている。
 カルロとジュリオについては、その行方は知られていない。
「こちらの方は、その騎士の1人であるソフィア・フィリークスさんです」
「よろしくお願いいたします」
 静香がソフィアを紹介し、ソフィアが頭を下げる。
「さっそくですけれど、ソフィア、さん? あなたが目覚めたきっかけとは? 資料には載っていないようですけれど」
 質問したのはイルミンスールのメニエス・レイン(めにえす・れいん)だ。怪盗の事件中は、静香の傍で護衛をしていたことが多い彼女だが、今日は静香の傍にはおらず、少し離れた位置に座っている。
 メニエスの後には、ミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の姿がある。従者としてメニエスに従い、無言で澄ましている。
 ただ、メニエスが今回静香から離れた位置に座っているのは、ミストラルの言い聞かせがあってのことだ。
 極力無視をすること、あまり話をしないようにと、ミストラルはメニエスに散々言い聞かせていた。
「私もマリル、マリザと同じように自分の故郷であるイルミンスールの森の地下で眠りについていました。そこに地球人の冒険者が訪れて、私の眠りを解いてくださったのです。私達の眠りは、地球人の干渉で解けるよう術を施してありましたから」
「どうして眠りについたのかそのあたりも教えて下さいます?」
 静香の姿が視界に入るも、メニエスは感情を抑えて質問を続けた。
「女王が姿を消されてしまったからです。私達もファビオを失い、離宮の一部を占拠している鏖殺寺院を退けることが難しくなりました。被害を拡大させないためにもと、私達は離宮ごと地下に封印することを決意し、唯一子孫のいるジュリオ・ルリマーレンが人柱となり、彼を媒介に封印術を発動しました。そして私達も時が訪れるまで、その封印を護る為に眠りにつきました」
「封印を解くにしてもぉ……。各所に波及する影響が心配ですぅ」
 メイベルがラズィーヤと静香に目を向けた。
「シャンバラ古王国の女王の離宮ということですので、ジュリオさん? も含めて、百合園やヴァイシャリー家が手に入れようと積極的に動くことで、他の組織――つまり、他校から警戒されることにはならないでしょうかぁ?」
「それが全くないとはいいません。ですが、離宮はこのヴァイシャリーの一部であり、わたくしの祖先の所有物ともいえます。お父様が正当な後継者であり、離宮の主でもあるはずですわ。いわば、ヴァイシャリーの離宮とは、女王の別宅ではなく、女王の親族の家……とわたくし達は解釈しております。他校の方にはご納得いただけない可能性もありますけれどね」
「騎士もそうですけれどぉ、離宮にはなんらかの大きな力も眠っているのでしょうかぁ? 建物だけなら問題はないと思うのですけれど……」
「鏖殺寺院の非道な技術が眠っています。人造人間なども。女王器に類するものもあるでしょう。現在の情勢はよくは分かってはいませんが、私達シャンバラ古王国の人間には勢力が6つに分かれている現状が愚かなこととしか思えません。それもあり、今回は他校の方も積極的に呼んでいただきました」
 ソフィアが眉を顰めつつ言った。
「僕も何か見つかった際に、百合園だけで独り占めしようとは思ってないし、百合園だけで対処できる問題だとも思ってないから、他校の人達にも助けてもらって、何か良いものが見つかった時には、建国に役立てればいいと思ってるんだよ」
 静香のその言葉に、メイベルは「わかりました」と頷いた。