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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第1回/全6回)

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第1章 闇夜のヴァイシャリー

 薄暗い地下を、軍服を纏った男性2人が、執事服を纏った男を連れて歩く。
 その背後にも軍服を纏った男がおり、銃を構えていた。
「まるで犯罪者のような扱いですね」
 執事服を纏った男――波羅蜜多実業高等学校の朱 黎明(しゅ・れいめい)が軽い口調で言うと、左右の男性がちらりと黎明に目を向ける。
「波羅蜜多実業高等学校の契約者となれば、この程度は当然かと。ラズィーヤ様からは不審な行動をとった際には射殺して構わないといわれています」
「なるほど」
 黎明は軽く笑みを浮かべる。
 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)には、自分が妙な真似をした際には即刻逮捕させて構わない、程度のことは言ってあったが、どうやらその程度では済まされないらしい。
 尤も、不審な行動をとるつもりは一切ないが。
 身体検査も受け、武器防具、携帯電話や器械類の一切を持ち込まず、パートナーもつれてはいない。
 そんな無防備な状態で、黎明が向かう先は――牢獄。
 陽炎のツイスダーという男が監禁されている牢だった。
 薄暗い廊下を歩き、辿りついたドアを、ヴァイシャリー軍の兵士が開ける。
「面会時間は5分です。ラズィーヤ様から好きに会話をさせるよう命じられていますので、会話に関しては口を挟むことは致しません」
 事務的な口調でそう言い、兵士は黎明を部屋に入れた。
 ドアの前に立で武器を構えている兵士から離れて、黎明はベッドで眠るツイスダーの方に向かう。
 ただし、ドアの先にも鉄格子が嵌められており、ベッドの脇まで近付くことは出来ない。
「先日、あなたが所属していた組織で裏稼業バイトの募集がありました。募集にはあなたの名前が使われていました」
 声を発すると、横になっていたツイスダーの体がぴくりと動いた。意識はあるらしい。
「あなたは組織に見限られたのかもしれませんね。例の事件により、組織にヴァイシャリー軍や教導団の手が伸びているかもしれません。捕らえられた幹部をそのままにしておく組織にも見えませんし。解放されても、脱獄しても、組織にも命を狙われるのでは?」
「何が、言いたい」
 低い声が響く。
 そして、黎明にギラリと光る目を、ツイスダーは向けた。
「組織に関しての情報をいただけるのなら、私があなたの安全を保証してあげます。ヴァイシャリー家の令嬢と懇意にしてましてね。彼女、私の言うことなら何でも聞くんですよ。そのお陰で生死含め、一切の情報が伏せられているあなたともこうして面会をさせていただいているわけです」
 ツイスダーが体を起こす。
 壁に手をついて、足を引き摺りながら鉄格子へと近付いてくる。
 でまかせだが、効果があったのだろうか……。
「組織幹部の名前、連絡の取り方をお聞かせ願いたいのですが」
 そう小声で言う黎明に、近付いたツイスダーは組織の拠点のひとつを、彼に話した。
「――幹部の名は、通称コリス」
 くっと、小さく笑い、ツイスダーはベッドに戻ると再び横たわり背を向けた。
「失礼いたします」
 黎明も彼に背を向けると、口元に薄い笑みを浮かべながら、兵士の方へと向かう――。

 その後、黎明はラズィーヤと高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)にツイスダーの言葉をそのまま伝えた。

○    ○    ○    ○


 その日のヴァイシャリーの歓楽街はいつもより賑やかだった。
 クリスマスを数日後に控えて、人々は浮き立っており、笑顔が溢れていた。
「そう、女達にぶっつぶされた廃屋を拠点としてた組織のアジトを探してるんだ」
 パラ実のナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)は、浮かれる人々に声をかけていた水商売の女性に尋ねる。
 ぶっつぶされた廃屋とは、白百合団の神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)率いる集団の、早河綾救出作戦により潰された組織の拠点のことだ。
 その後、早河綾の自宅が襲撃に遭っていることから、組織のメンバーはまだこの街にも潜んでいると思われる。
「知らないわぁ〜。危ないことが好きなのね。私も若い頃は色々無茶したのよぉ〜。ふふふ、危険な香りのする子は好きよ。どぉ? 寄っていかない〜? 女の子も大歓迎よぉ。そっちの子も是非ぃ〜。お姉さん、サービスするわよぉ」
「いや、また今度な。組織の情報が入ったらナガンまで連絡くれよ」
 ポンと女性の肩を叩いて、ナガンはパートナーのクラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)と共に、更に歓楽街の奥へと進むことにする。
 ――と、その時。
 突如響いた発砲音。続いて感じた激しい痛み。
 ナガンの脇が血に染まる。
 咄嗟に避けたことと、強化スーツを着込んでいたことから、心臓を撃ちぬかれはしなかった。
 ナガンとクラウンは即座に路地へと駆け込む。
 水商売の女性や通行人達が悲鳴を上げて建物の中へと逃げ込んでいく。
 続け様に銃声が響き、路地の中に弾丸が飛ぶ。
 足音が響き、黒い服を纏った男2人が銃を構えて顔を出す。
「よっと」
 ナガンは助走をつけて跳び、現れた男の頭にバットを叩き込んだ。
「そこまでじゃん」
 もう1人の男には、クラウンがチェーンソーを突きつける。
「鉛弾、美味しかったぜぇ。てめぇら見たいな小物じゃなくて、ナガンは幹部に興味があるんだけどな。教えてくんない?」
 バットを叩き込んだ相手は気絶している。
 ナガンはもう1人の男の胸倉を締め上げ、クラウンがチェーンソーを男の首に近づける。
「ひっ」
 男の顎が軽くチェーンソーに触れ、血が弾け跳んだ。
「か、金で雇われただけ、だ」
 男が銃を落とし両手を上げた。
「動くな!」
 途端、声が響く。
 ヴァイシャリーの警備兵だった。
「動くなって言われちゃ、動かざるを得ねぇな〜」
 ナガンは男に蹴りを入れて離し、クラウンと共に突破を図る。
 ヴァイシャリー軍に指名手配されているナガンだが、組織への裏切り、攻め込み、そしてこの聞き込みにより組織にも目をつけられているようだ。

○    ○    ○    ○


『集合場所で一悶着有ったらしい』
『爆音が轟いた後、事態は収拾』
『目的は不明だが、人手を要している』
 それから、大した情報がつかめなかったことのお詫びと、何かあった際にはメールを下さいと桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)にメールを送った後、蒼空学園の桐生 ひな(きりゅう・ひな)はふうと溜息をついた。
「にゃんか戻ってきてから目の色が変わってるんじゃが」
 パートナーのナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がひょこっとひなの顔を覗きこむ。
「私、あの組織に入ることにしました」
「にゃんと」
 ひなの言葉に軽く驚きはしたものの、ナリュキは止めはしない。
 歩き出すひなについていきながら、ナリュキは携帯電話を取り出した。
「ちと2名程、携帯でコンタクト取っておくとするかの」
 送信先は亜璃珠黎明
 状況説明と揉みに行くのが遅くなるとか、何か有れば揉みに来るが良いとか、そんなメールだった。