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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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第5章 闇の壁を破壊せよ!(壁)
「って、なんじゃこりゃ?!」
 蒼空学園をぐるりと囲むようにそびえ立つ、闇の壁。
 見あげ、市井は険のある声を上げた。
「こんなのあったら、避難出来ないじゃないか」
 見てとった市井の判断は速かった。
 邪魔→破壊!
「よし、行くぜ……マリオン、さんはこの人達を頼む」
 剣を振るう……が、闇が凝った壁は何ら手ごたえを感じさせず。
「くっそぉ……」
「外からだけでダメなら、中からも攻撃すればいいわ」
歯噛みする市井の背後からそんな物騒なコトを言ったのは、コトノハとルオシンだった。
「って、一体、何を……?」
「うん、いけそうね」
 困惑する市井にニッコリと笑み、コトノハとルオシンは臆する事無く光条兵器を構えた。
「私は……自分の剣を信じる!」
 二人手を携え、闇の壁に突入する。
「我らは大丈夫だ、攻撃に手は抜いてはならない」
 壁は二人を呑みこみ……何事もなかったように、沈黙した。
「いや、って、ちょっと待て……って、どうするよ一体……?」
「やるしかないでしょう。あのお二人は私達を信じてくれた……時間をおけばあのお二人も危険です」
 マリオンの言葉は固い。
 だが、その眼差しの湛える光に、市井も心を決めた。
「あぁ、やっぱ大変なコトになってるな。おーけー、手伝うんでとりあえず事情プリーズ」
 そして、外からの声。
 高崎悠司は市井から事情を聞きながら、タイミングを合わせて壁の一点突破を狙う。
「あたし達も……出来る限り手伝うわ」
「みんな……」
 更に避難する生徒の中にも協力を申し出る者が出、市井の胸は熱くなる。
「やろう! 出来るだけ攻撃を集中させるぞ!」
 気合に続いての壁への攻撃は、期せずして連携となった。
 市井とアリシア……互いに意図したものではなく、ただ身体が憶えていた。
「やっぱ、そう簡単にはいかないか」
「……なぜ」
「ん?」
「何故あなたはそこまで、私を頼ってくれるのですか」
 マリオンは不思議な気持ちで疑問を口にしていた。
 どうして自分とこの人はこんな風に自然に呼吸が合うのだろう?
 どうしてこの人は自分にこんな無防備に背中を見せるのだろうか?
 どうして自分は、今、その答えをこの人の口から聞きたいと思うのだろうか?
「そりゃ簡単だ、俺はマリオンがすっ……」
振り返った市井はだが、マリオンにじっと見つめられている事に気付き視線を斜め上へと逸らした。
「……す〜ばらしいと思っているからさ!」
「……は?」
「つまり、さ。俺はマリオンの全てがいいんだって事! 自分が信じるマリオンだから大丈夫……何も出来なかった俺をここまで連れてきてくれたマリオンだから、大丈夫なんだ」
 その言葉は確かに、マリオンの奥底に……届いた。

「やーれやれ、騒ぎを聞いて飛んできてみれば、七面倒な事態になってるわねぇ」
 イルミンスール生であるアリシア・ミスティフォッグ(ありしあ・みすてぃふぉっぐ)はふぅ、と一つ溜め息を付いた。
「ってかあの闇の壁……あの感じ、あの時の影竜!? あーもう、白花と夜魅は何してんのよ!」
 ぼやく声にはしかし、案じる響きがあった。
「アリシア様、素直に心配だと仰ればいいのではないですか?」
 忠実なメイドたる小鳥遊 律(たかなし・りつ)に淡々と指摘され、アリシアは少し口ごもる。
 蒼空学園の異変を聞き文字通りすっ飛んできたのは、伊達や酔狂ではないのだ。
「で、見解は?」
「全く、ワタシの知識にない物ばかりでどうにも対処に困るね」
 答えるは、ネクロノミコン 断章の詠(ねくろのみこん・ふらぐめんと)
「ただ……これが内と外とを断絶しているだろう事は、想像に難くない」
「危機的状況、と判断できます。あまり時間がありませんね」
「そんな事は見れば判るであります! いいから早くやっちゃいましょうよ〜」
ネクロノミコンと律の冷静さとは対照的に、クルーエル・ウォルシンガム(くるーえる・うぉるしんがむ)は今にも飛び出しそうだ。
「同レベルと思われるのは本意ではないがね。残念ながら今回はそこの剣バカに同意だよ。急ごう」
「誰が剣バカですかこのネクラ!」
 ネクロノミコンとクルーエルは言い争いながら、アリシアの命令を待っている。
 勿論、律も。
「まぁ、そうね。こーなったら直接介入しかないわね。イルミンに篭って修行した今の『私たち』の力を見せてやろうじゃないの」
 それらパートナー達の視線を受け止め、アリシアは胸を張った。
「行くわよ、あんたたち! 急行、乱入、突入、騎兵隊参上!」
 空から舞い降りる、アリシア隊。
 目指すは闇の壁……内側から市井とマリオンが必死に攻撃を仕掛けている箇所。
「……あれ、なんかデジャビュ」
いつかどこかで同じシチュエーションがあったと、ふと頬が緩む。
 助けに行ってあげる、なんて恩着せがましい事は言わない。
 アリシアはただ楽しそうだからやる……それでいい。
「ついでに夜魅も白花も蒼空学園も、救ってあげるわ」
 降下しながら、悠司に首肯でもって協力を伝え。
「以前見た似たような壁は物理攻撃でも破壊できたけど……とにかく手当たり次第にやってみるしかないか」
 アリシアは炎術を闇の壁へと放ちながら、声を上げた。
「律、クルーエル、ネフラ! 全力でやるわよ!」
 直後、轟音と共に壁が、震えた。
「ははっ、嬉しい援軍だな」
 市井は軽く笑い、マリオンの担う【ルミナスライフル】を取り上げ、【光条兵装】を起動……ライフルを強化し。
二人で支え合うようにして構えた。
「――君なら出来るさ、君を信じた俺が保証する」
 その言葉は不思議な程、マリオンの心に響いた。
 震えが、止まる。
 そして、二人はアリシア達の攻撃に合わせ。
 力を……思いを解き放った。


「闇の中は以前、体験している! その中で一条の光を生み出せば、貴方達を救うことが出来るはず」
 剣を振るう度に、コトノハ達の周りで光が瞬く。
 それでも、周囲を埋めるのは圧倒的な……闇と闇と闇。
 それは、影龍と通じるもの。
 影使いが引き出し作り出した、影龍そのものの。
 剣を振るい、それと接し……そうして、コトノハは気付いた。
「……夜魅?」
 かつて闇の中で出会った夜魅。
 それと眼前の闇とが、等しく同じものだと。
 そして、知る。
 人もモノも全ては、影響し合っている……繋がっている事を。
 『外』から音がする。
 今も、こんな場所でも……繋がっている。
「魔剣じゃ影龍は倒せない。宝珠も影龍を浄化する事は出来ないわ。もし、それが叶うとしたら、それは……そこに込められた人の、そこに込める私達の、思い」
 闇の中、剣を持つ手に込められた力。
 繋がっている、ルオシンの温かさ。
 一人では果たせない事。
 二人なら出来る事。
 二人でも出来ないとしても。
「壊せるわ、この壁も……ううん、救うのよね」
「……ああ」
 言って、コトノハとルオシンは剣を振るった。


 内と外と『内』と。
 思いを乗せた攻撃にさらされた闇の壁は。
意外なほど澄んだ音を立てて砕け散り。
 光に溶けて、消えた。


「……に、成……闇の壁破壊に、成功しました!」
 直後、通信機器の回復を待ちかまえていたスピーカーから、滝沢 彼方(たきざわ・かなた)の声が響き渡った。
「クイーンヴァンガードの滝沢彼方です。ただ今、闇の壁破壊により、通信網が回復した模様です。各所、現状報告をお願いします。」
 放送室では、彼方のパートナーであるリベル・イウラタス(りべる・いうらたす)フォルネリア・ヘルヴォル(ふぉるねりあ・へるう゛ぉる)が、少しでも正確な情報を、と骨を折っていた。
「我が主、校庭では未だ邪剣との交戦が続いているようです」
「光の柱は依然、危険な状況のようですわ」
 互いに負けまいと、先を争うように報告する二人。
 だが彼方は、パートナー達に散る火花に気付いた様子もなく、ハンドヘルドコンピューターの回線をフルオープンにしつつ、正確な情報収集と状況把握とに努めた。

ズズぅぅぅぅぅん。

 その時……地面が揺れた。

「我が主、今のはまさか……!?」
「状況を早く!」
「……了解ですわ……はい、……どうやら今の地響きは……」
 険しい顔のフォルネリアに頷き返し、彼方は一つ深呼吸した。
「此方が掴んでいる情報によると、先ほどの地震は光の柱の一本が崩壊した為と思われます。位置はプール付近……影龍の左足部分の模様」
 冷静に冷静に、情報を行き渡らせる。
 正しい情報は力だ。
 皆を護る為の、重要な力となる。
「学園の危機……蒼空学園も生徒達も、護って見せる」
 その決意を胸に、彼方は寄せられる情報を……皆の思いを、手繰り寄せた。