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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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第9章 途切れぬ光(柱)
「ちくしょう!」
 遠く、崩れ落ちる光の柱を見あげ、渋井 誠治(しぶい・せいじ)は唇を強く噛みしめた。
「誠治、落ち着いて。焦ったら事態は悪くなるだけだわ」
「分かってる、分かってるけど!」
 パートナーのヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)に諌められるが、悔しさは拭いきれない。
 使いなれたはずの銃、その狙いがズレる。
 感情のブレに呼応しているのだろう。
 誠治の誤算は、光の柱を守るべく行動した者が少なかった事。
「俺が……こいつらをさっさと倒せればいいのにッ……!」
 だが、実際にそれが不可能な事は誠治自身が分かっている。
「ば、ばーか。全然怖くなんてないんだからなっ!」
 鎌首を持ち上げた蛇に強がりながら、震える指先に力を込める。
 本音を言えば、この光の柱……影龍の心臓部と思しきこの場所をヒルデガルトと二人で守らねばならないのだって、怖い。
 この柱が壊れれば、夜魅が白花が蒼空学園が、どうなってしまうか分からないのだ。
 怖い、怖くて堪らない。
 それでも、逃げるわけにはいかなかった。
「……オレは絶対強くなってみせる、強くなんなきゃいけないんだ!」
 ここには誠治しか、誠治達しかいないのだから。
 ここを守れるのは、誠治達だけなのだから!
 震えを、怯えを無理やり押さえつけ、誠治は引き金を引いた。
 光の柱に巻きつく蛇に向け、真っすぐに。
「大丈夫、きっとどうにかなる。いや、どうにかしてみせるぜ」
「ええ。私達の役目はこの光の柱を守り切る事……皆を信じなさい」
 半分強がりだと分かるが、それでも踏みとどまり必死に立ち向かう誠治。
 ヒルデガルドは少しだけ頼もしげに、目を細めた。


 崩れる、光の柱。
 その瞬間。
「夜魅さんっ!?」
 ベアトリーチェは悲鳴を上げていた。
「!? 大丈夫か、夜魅!」
 夜魅を案じ、瀬島 壮太(せじま・そうた)はパートナーのミミ・マリー(みみ・まりー)フリーダ・フォーゲルクロウ(ふりーだ・ふぉーげるくろう)と共に駆けつけ……見た。
「だ……大丈夫、だよ」
 地面に崩れ落ち、苦しげに答える夜魅。
 その左足部分が消失していた。
「夜魅さん、しっかりして下さい!」
 傍らでエマがヒールを掛けている。
失われた部分を再生する事は出来ないが、せめてそれ以上の崩壊を留めようと。
「何でだ?! 夜魅と影龍は完全に分断したはずだろ!?」
「うん。……多分、空間が歪んで、今はあっちの空間に近くなってるからだと思う。コトノハ達も……接触したみたいだし」
 全ては影響し合い……離れ近づく
「痛くないから、平気、だよ。それが……ちょっとだけ怖い、けど」
「夜魅……」
 壮太は拳を強く握り固め、苦労しながら何とか笑みを形作り。
「夜魅。今なんとかしてくるから、もう少しだけ待っててくれ」
「大丈夫、大丈夫だよ。あたし、コトノハや壮太や……みんなを信じてる、から」
「そうだな……でもしんどかったら、すぐに誰かに言えよ。おまえに何かあったら、元も子もねえからな」
 夜魅の手に、フリーダを嵌めた。
「オレの相棒を置いてく。少しなら疲れも癒せると思うから」
「夜魅ちゃんとは初めて会うけど、壮ちゃんが気にかけている子だもの。精一杯サポートさせてもらうわ」
指輪の形をした機晶姫は夜魅の指に収まり、労わる様に告げた。
「私が壮ちゃん以外の指に嵌まるなんて、特別なのよ。うふふ……疲れたらいつでも言ってちょうだい。私の力をあなたにあげるわ」
「姐さん、夜魅を頼むぜ」
 壮太はそう言い残すと、ミミを伴い向かった。
 夜魅を学園を守る為に。

 だが正にその直後。
 壮太の誠治の決意をあざ笑うかのように。

 次の光の柱が、崩れ落ちた。


「左前足部分の光の柱が破壊されました。心臓部、ノド部分はただ今交戦中! 手の空いている人は、右後ろ足と右前足部分の防衛に向かって下さい!」
 振動の余韻が残る中、彼方の切迫した声が響き渡る。
「壮太、このままじゃ学園が……夜魅ちゃんだって……!」
「くそったれ!」
小型飛空挺に乗っていた為、事無気を終えた壮太はミミに「しっかり掴まれ」と言い、そのスピードを上げた。
「ものすごい、状況ですね……時間も無いと」
要請を聞き駆けつけた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)はチラリと夜魅を見てから、表情を引き締めた。
「よお、久しぶり?」
その内心を推し量ったレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)は、一度だけ夜魅の傍らに膝を折り、
「……無理するなよ。お前の事大事に思っている奴、沢山いるだろ?」
言い聞かせるように告げた。
 その背には同じ色の……黒い翼。
 だからなのだろうか、レイスは夜魅が気に掛かっている。
 おそらく、翡翠も。
 だからこそ、放っておけなかったのだろう。
「では、行きますか?」
 翡翠はただそれだけをレイスと柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)に告げた。
「……気を、付けて」
「バっカ、人の心配してる場合じゃないだろ……大丈夫、これ以上はやらせやしねぇよ」
 黒翼の天使は言って、パートナーの後を追うのだった。
「闇の波動ですね……やり易いし……私自身動きやすいですが……他の人には……きついかも……知れません」
 影龍の右前足部分に当たる光の柱の前で、美鈴はスッと目を細めた。
 柱にはやはり、闇が巻きつき。
 それが発する闇の破動を、美鈴は感じ取っていた。
「ですが……弱音を吐いている暇はありません」
 だが翡翠は躊躇わなかった。
 躊躇なくライフルの引き金を引く。
 弾が闇に弾かれると同時に、闇が……闇で出来た蛇が、その鎌首をこちらに向けた。
「あまり、効いて無いですが、こんな所で諦めるわけには、行きません。状況好転するまで、持ち応えて見ないと」
「だ〜、やっても切りがねえと言うか? もと立たないと無駄か?、これは」
 頬を伝う汗。呟きながらレイスは翡翠を確認し、ホッと息を吐く。
 自分や美鈴に被害が及ばぬよう、翡翠が盾となっているのは気付いている。
 というか翡翠はきっと、自分なら傷ついても平気だと思っているに違いないのだ。
 だけど、翡翠が傷つくのはレイスは嫌だし、許せない事だった。
「しつこいですね……時間かかるかもしれないですけど……着実にダメ−ジですね」
 そんなレイスの内心に気付く事無く。
 翡翠は蛇の頭を狙い、少しずつ少しずつダメージを積み重ねて行った。

「光の柱が壊れたら影龍が復活する……んだよな」
「ええ、放ってはおけないわね」
「このままでは陰陽のバランスは崩れる、となれば見過ごすわけにはいかぬのじゃ」
「何より、哀しい歴史を繰り返させるわけにはいきません」
ノド元部分の光の柱を守っていたのは、高月 芳樹(たかつき・よしき)はパートナーのアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)マリル・システルース(まりる・しすてるーす)だった。
 芳樹達はイルミンスール生である。
 だからと言って、放っておけなかった。
 彼方の放送……情報により、光の柱が崩壊していくのを知っては、特に。
「護りきるぞ、あの柱!」
「勢い余って、柱まで壊さないでよ」
 剣を構え突っ込む芳樹に、釘をさしながら銃でその道行きを切り開くアメリア。
「光は物理攻撃では壊れぬ、安心して全力で行くのじゃ」
「皆さん、頑張って下さい」
 『金烏玉兎集』の魔法とマリルの声援とに背中を押されながら。
「その柱から、離れろぉぉぉぉぉっ!」
 芳樹は闇の蛇に斬りつけた。
 手に跳ね返る、固い感触。
 思うような手ごたえは返してくれない……それでも。
 諦めずに斬りつける剣、矢もの蛇が激しくのたうった。

「闇の蛇なら、光に弱いはず!」
 残された一柱。
辿りついたミミは光術を放った。
「この蛇が影龍の一部だとしたら、負の感情を持って戦うのは危険だよな。殺すんじゃなく浄化する気持ちで戦わないと、だよな」
 壮太もまた必死で気持ちを落ちつけながら、ミミをサポートする。
 見下ろす、闇の蛇の異形。
「去年のプールでも蛇、今回も蛇か。ったく、蛇が嫌いになっちまいそうだぜ」
「だけど、思ったより弱ってる……?」
「影龍の一部……もしかして、繋がってるのか?」
 だとしたら。
 
「カウントします! 5、4、3、2、1……今です!」
 壮太から連絡を受けた彼方のカウント。
 合図に従い、誠治が翡翠が芳樹が、そして壮太が一斉に闇の蛇へと攻撃を仕掛け。
 そうして。

ギャァァァァァァァァァァ〜!?

 闇の蛇は粉々に砕け散った。