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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)上杉 菊(うえすぎ・きく)は、
文化祭の襲撃に現れた織田 信長(おだ・のぶなが)を討とうとして果たせなかったが、
その後、話し合っていた。
「御方様、教えて下さいませ。
 織田信長の行いは、確かにこのパラミタの人々にとって益のあることなのやも知れません。
 しかしながら、彼の者は、余りに人々の和を蔑ろにし過ぎます。
 其処に義は、あるのでしょうか……?」
菊に問われて、ローザマリアは答えた。
「私も、かつて仕えるべき祖国を持っていた頃はそうだった。
 主の掲げる正義の為に、命を賭したわ。
 逆らう者に、銃火の洗礼を施して。そこに潜む、何が誠で、何が偽りかを、疑いもせずにね」
ローザマリアはアメリカ海軍出身であった。
「憂国だの烈士だのと美辞麗句を並べたとて、
 信長がやっていることは
 私の祖国が行っていることを矮小化したものに過ぎない……そういうことよ。
 菊媛(ひえん)、あんたが何を以って義とするか、
 それはあんた自身が決めて、線を引くこと。
 でも、これだけは覚えていて。私と契約を結んだ以上、菊媛の決断を、私は尊重する」
ローザマリアはこう付け加えた。
「信長に対するタシガンの民の支持が、誠か、偽りか、
 見誤れば後々永くに渡って禍根を残す事になる……あくまで和を以て事を為す、
 それを念頭に置いといて」

タシガン北西部の島、古い貴族の別荘近く。
上杉 菊(うえすぎ・きく)は、天魔衆を率いて現れた織田 信長(おだ・のぶなが)と対峙していた。
「上杉景勝が室、菊。現在は号を菊媛と名乗っております」
菊は、仇敵である信長を前に、己の迷いを振り払うように言う。
「貴方様は、確かに兄上たちの怨敵です。
 しかしながら、庭師の所業により、
 シャンバラが大禍に見舞われる事は、わたくしの望む所ではありません。
 シャンバラはシャンバラの民の物。
 地球の方々の手駒でも、ましてや貴方様の手駒でもありませぬ」
「ふむ。わしが掲げておったのは、もとより、パラミタの民のための大義。
 今さら言われるまでもない」

実際には、天魔衆は、一時はタシガンの地球人排斥派の支持を得たとはいえ、
正体がわかった今、「しょせん、奴らもまた契約者だ」と考えられていた。
パラミタの民であろうとも、「契約者」は異質な存在であり、
「地球側から侵略に来た連中」と纏め上げられてしまっているのである。

「その上で、貴方様が真にシャンバラの民の事を思うので在らば……
 どうか、彼の庭師と、戦って頂きたく……平にお願い仕ります」
「元よりそのつもりよ。
 しかし、わしに鉄砲を向けておる
おぬしのパートナーに気づいていないとでも思っていたかね?」
物陰からスナイパーライフルを構えていたローザマリアは、
信長の指摘に身をこわばらせる。
「先日と同じだな。二度は通じぬぞ」
信長は隙を見せずに立ち去る。
  
 
 
吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、救出作戦の開始前に、
上杉 謙信の緊張を解すように言う。
「シケた面すんなって。
 人形どもなんざみんなぶっ飛ばして、
 アーダルなんとかを助けてやるよ」
「アーダルヴェルト様、だ」
苦笑を浮かべる謙信に、竜司は言う。
「そんなのはどっちでもいいだろ。
 それより、謙信、てめえはアーなんとかに言いたいことはねえのかよ」
謙信は沈黙する。
「まあ、それはいいんだけどよ。
 オレが言いてえのは、もっと自分を大事にしろってことなんだよ。
 ……なあ、いろんなこと全部、終わったら、
 一緒にどっか遊びに行かねぇか?」
「戦場で帰った後どうするとか、そのようなことを口にするもんじゃないぞ」
「お、オレのこと心配してんのか?
 グヘヘ、オレは『空京一のゾンビ狩り』と呼ばれた男だぜェ!
 じゃあ、遊び行くっつーことで決まりだな!!」
竜司は謙信の背中を叩いて、ガッツポーズして見せた。

「……お邪魔だったかもしれないね。
 僕も君達と同行させてもらえればと思ったのだけれど」
黒崎 天音(くろさき・あまね)は、竜司と謙信に近づいていく。
天音は、アーダルヴェルト卿の生い立ちについて、
謙信の知っていることを教えてほしいと頼んだ。
「アーダルヴェルト様は、
 ご自分が神子になる存在だと信じておいでだったんだ。
 それが実際には『神子を見出す者』だったなんてね。
 私も驚いたけれど」
「家族や、恋人に当たる人はいたのかな」
天音に謙信は首を振る。
「ずっとお一人で、このタシガンを統治してきたのさ。
 並大抵のことじゃないってことはわかるだろ」
「てめえら薔薇学の連中はムカつくが、
 謙信のためだからな。
 勘違いすんなよ!」
「ああ、同じ目的のため、僕達は協力するってことで問題ないよね」
「今回は、な」
天音と竜司は視線を交わす。
お互いの言葉に偽りがないことはわかる。
 
  
 
ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は、
館への潜入の直前、アディーンの手を取って言う。
「お茶の約束、忘れませんから」
「おう、ユニちゃん、俺も忘れてないぜ!
 とっとと終わらせて帰ろうな!」
アディーンは、満面の笑みでうなずくのだった。