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砂上楼閣 第二部 【後編】

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砂上楼閣 第二部 【後編】

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古い貴族の館、アーダルヴェルトを救出するため、
仲間達が人形や幽鬼を引きつけているうちに、別のメンバーは館の奥深く進む。

清泉 北都(いずみ・ほくと)は、禁猟区と超感覚を使用して、周囲に警戒しつつ、
隠し部屋などがないか注意する。
クナイ・アヤシ(くない・あやし)も、禁猟区で姿の見えない敵に注意していた。
「その耳で音が聞こえやすくなったりするのですか?」
「うん。あっ、ちょっと、クナイ?」
「リオンはこちら側を歩いてください。警戒のためです」
北都の犬耳を珍しがっているリオンを、クナイが笑顔で引き剥がす。
(警戒のためかぁ。……うん、僕は、自分の居場所を無くしたくない)
北都は、天音の言葉を思い出していた。

「薔薇の学舎は失う訳にはいかない僕らの居場所だからね……
 例え在る場所が違っても僕らは変わらないと思うけど、
 それでは僕らが今まで力を合わせてきた事の意味が失せてしまう。
 タシガンでの薔薇の学舎存続を目指すよ」

(そうだよね、失う訳にいかないよね、黒崎くん)
北都は気を引き締める。執事としての力を発揮し、薔薇学生の務めを果たすために。

「う、鍵が……用心深いな」
サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)は、ピッキングで開錠を行う。
開け放たれた扉の奥は、広い廊下が続いている。
光学迷彩、隠れ身、超感覚で隠密行動を行っているサトゥルヌスも、充分に用心深いといえたのだが。
(正直、アーダルヴェルト様が今までやってきた事は良くない事だし、
 彼に対しても……なんていうのかな?
 恐れ、嫌悪、拒絶……すべてに当てはまるけどそうじゃない、複雑な気持ちを抱いてる。
 けど、命の危機なんだ、そんな事言ってられないよね)
黒狐の耳でわずかな音も聞き逃さないよう警戒しつつ、
サトゥルヌスは思う。

(……敵出てくるよな? 出てこないと姉貴が退屈して弄られそうなんだが)
アルカナ・ディアディール(あるかな・でぃあでぃーる)が警戒していたとおり、
数体の人形と幽鬼が、廊下の奥から飛び出してきた。
「領主様捜索の邪魔をするものはすべて敵、容赦はしないわ。
 可愛かったら手加減しちゃうかもって思ってたけど、
 そんなことない相手だし」
カーリー・ディアディール(かーりー・でぃあでぃーる)は言い、剣を振るう。
アルカナの放ったアシッドミストで、人形と幽鬼は倒れる。
「ちょっと、この愚弟。
 何、とどめさしてるのよ。
 つまんないじゃないの」
カーリーは、剣の柄でアルカナの頬を小突く。
「や、やめろよ、姉さん」
アルカナは逃げ腰になる。
「せっかくサトゥが領主様の居場所を捜索するのに集中してるから、
 戦闘をがんばろうと思ってたのに、
 敵がなかなか出てこなかったから退屈してたっていうのに。
 あなたが倒しちゃってどうするのよ」
「戦闘が長引いたら危険だろ」
「ふーん、口答えするわけ?
 あなたの恥かしい過去を皆の前で暴いてもいいのよ」
「ちょっ……」
「おいおい。あんまり騒いでると捜索に集中できないんじゃないか」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)が助け舟を出したので、
カーリーはアルカナで遊ぶのをやめる。
「あーあ、しかたないわね。命拾いしたわね、アル」
「……大丈夫か?」
「あ、あの悪魔……助かったよ」
多少ストレスを発散したのか、機嫌を直して離れていくカーリーの背中を見つつ、
苦笑する尋人にアルカナは礼を言う。
呀 雷號(が・らいごう)西条 霧神(さいじょう・きりがみ)は、周囲の様子を警戒する。
超感覚で周囲を警戒する雷號は、
前衛に立って尋人達を導き、霧神は、後方から、救出活動に邪魔が入らないか警戒する。

レオンハルトの相棒であるイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)は、
教導団員の作戦部隊【砂上の楼閣】の、アーダルヴェルト救出チームの指揮を行う。
「なるべく戦闘をさけて進んで行きたいと思っていたが、
 なかなかそうもいかないようだな。
 しかし、鍵をかけていたり、見張りを配置したりと、
 着実にアーダルヴェルト卿が捕われている部屋に接近できているはずだ。
 皆、気を引き締めていこう」
「了解。
 アーダルヴェルト卿は外見が10代前半の美少年なんだろ?
 絶対、助けてみせるぜ!」
「先輩、動機が不純であります……」
焦茶の狼の尻尾を振ってイリーナに敬礼してみせる橘 カオル(たちばな・かおる)に、
土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が言う。
「ひばりんだって、団長のためにがんばろうと思ったんだろー?」
「うぅっ!?」
カオルにフェイントを受けて、金 鋭峰(じん・るいふぉん)に好意を寄せている雲雀は赤面する。
「た、タシガン駐留武官であるレオンさんを支援するようにという、
 団長のご命令でありますから!
 自分はどこにでも伺うのであります!
 ……その、無事、救出の暁には、
 自分から団長に連絡を……っ」
「犬っころなカオルと土御門を見てると和むな。
 でも、一般の団員から団長に直接、連絡することはできないんだぞ?」
イリーナは、カオルの頭をなでながら言う。
「そうなのでありますか!?
 じゃあ、救出作戦を成功させて、団長に報告をしていただけるようがんばるのであります」
雲雀はショックを受けた様子であったが、決意を新たにする。
サラマンディア・ヴォルテール(さらまんでぃあ・う゛ぉるてーる)は、小さな変化に気づく。
「おい、チビ、こっちから空気の流れを感じるぜ」
火術で小さな火を指先にともし、怪しげな壁の前を調べていたサラマンディアは、
パートナーの雲雀を呼ぶ。
「マジで!?
 じゃあ、この奥に、隠し通路があるかもしれないってことだよね」
雲雀は、人前では教導団入学後に覚えた軍人口調でしゃべっているが、
ふとした時や、パートナーの前では、素の不良言葉になるのである。
「ちょっと待ってくれ。罠がないか確かめてみる」
カオルは表情を引き締めて、壁の周囲を調べ始める。

その間に、尋人はイリーナに近づく。
「あんた達の様子を見て、オレは信用できると思った。
 あんた達が教導団員の仲間が大切なように、
 オレ達は薔薇学の仲間達が大切なんだ。
 長生きの吸血鬼だって間違えるのだから学生のオレ達なんか間違いだらけだ。
 間違いを正せる良い仲間が側にいないと
 間違ったまま突っ走ってしまうかもしれない。
 オレ達はそんな仲間になれないだろうか」
レオンハルトの天音に対しての、飛空邸での宣言を見ていて、
心配はあったものの、尋人は獅子小隊のメンバーと話してみたいと思っていたのだった。
「ああ、私も、ジェイダス卿が、
 一つの勢力と考えてくれたことを光栄と思い、協力しようと考えていた。
 小隊メンバーだけでなく、小隊外から応援に来てくれたメンバーにも感謝している。
 必ず、アーダルヴェルト卿を救出できるよう、ともにがんばろう」
イリーナはうなずく。
その様子を見て、「薔薇学の学生は甘いな」と感じていた雷號は、
尋人が相手を信用し過ぎて危ない目に遭わないよう警戒することを忘れない。
しかし、口には出さないが、
少なくとも尋人とパートナー契約を結んだ事は、
「パラミタの為には間違いではなかったかな」と思う。
「タシガンの問題は、
 この地の吸血鬼である私自身よくわかっていますからね……
 ただ、どうでもいいことなんだと麻痺していたのかもしれません。
 長く生きると言う事は、結構いろいろ忘れてしまうんですよね。
 タシガンの吸血鬼こそ、限られた命の地球人と、しっかり手を結ぶべきなのでしょう」
霧神も、尋人の気持ちをよく理解して言う。

「よし、罠はないと思う!」
カオルは壁を調べ終わり、イリーナ達を呼び寄せる。
「じゃあ、壁を開けるぞ……うおっ!?」
カオルの開いた壁の奥の通路を覗き込んでいたサラマンディアは、
人形と幽鬼が奥から走り出てくるのを見て驚く。
ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は、
ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)に言う。
「ルドルフさん、悪いんだけど、目立つんだし、囮になって」
「わかった。じゃあ、ここは僕が引きつけるよ。
 先のことは君達に任せた」
ルドルフは、剣を抜くと、人形と幽鬼の足止めを行う。
「ルドルフ殿、受け取ってください」
ティア・ルスカ(てぃあ・るすか)は、パワーブレスをルドルフにかける。
(ヴィナ、無茶をしなければいいのですが……)
光学迷彩とブラックコートで姿を隠し、靴も脱いで足音を消したヴィナは、
ルドルフによって人形と幽鬼の注意を引きつけているうちに、通路の奥へと進んでいく。
「神聖なる力で浄化されてください!」
ティアは、ルドルフの支援に、バニッシュを放つ。
ロジャー・ディルシェイド(ろじゃー・でぃるしぇいど)も、支援のため、魔法で攻撃する。
(ルドルフ殿、とっさにああやって連携が取れるとは、
 さすがイエニチェリですね)
ロジャーは、アシッドミストを放ちながら、ヴィナに言われたとおり囮役をこなすルドルフを見て思う。
ウィリアム・セシル(うぃりあむ・せしる)は、ガードラインで、
ルドルフの背中を守りながら、煙幕ファンデーションを使い、
ヴィナの向かう方向が煙で隠れるようにする。
(ルドルフ殿、ヴィナがずいぶんと買っていると思っていましたが……)
ウィリアムも思う。

ヴィナに、会談の席で叱咤されたあの繊細な少年の面影は、すでにない。
過去への迷いをヴィナの言葉によって乗り越えることができたルドルフの勇姿は、
イエニチェリとしてふさわしいものであった。