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リアクション
第6章 守るべき場所
「暗闇で何も見えないからって立ち止まるわけにはいかない」
誓いと約束を胸に、闇と戦っていた葛葉 翔(くずのは・しょう)。
「誰にも負けないと誓ったんだ、だから暗闇にも負けない」
闇に負けず、影龍を浄化する!
決意と共に剣を振るう翔に。
「俺も影龍の浄化に協力したい。世界に還してやりたい」
ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は申し出た。
セイバーとして一緒に魔剣を、光を支えたい、と。
ドージェのコスプレをした巨漢は、剣を手に不敵な笑みを刻んだ。
「なぁに、これだけの腕自慢が集まったんだ、簡単な事だろうよ」
「そうだな……俺も信じるよ」
「わらわも信じる」
同意する声は、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)とエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)のもの。
「自分もエクスも、他の皆も光も闇も」
「己も唯斗もこの世界の全ても」
重なる声と重なる思い。
「光を示す媒体としては最高だろう、コイツはさ」
言って唯斗は光条兵器……契約器『テスタメント・ギア』を示した。
それは唯斗とエクスの絆の証。
唯斗がこの世界に来てから今迄の、全てを共にしてきた相棒だ。
「コイツに俺達の想いを、光を全て込める」
「わらわは、この世界が好きなのだ……唯斗が、好きだから」
だから影龍よ、エクスは輪郭を己が形を取り戻した影龍に語りかけた。
「闇になど飲まれてくれるな、おぬしの心はそんなモノに飲まれるほど安くはないのだ」
心は目覚めた。
だが、闇……破壊衝動と本能、負のエネルギーはそれをよしとせず、未だ燻り。
だがらこそ。
必ずや世界に還るという願い果たさせるべく、エクスは唯斗に寄り添った。
「安心するが良い。わらわが、皆が……唯斗が必ずおぬしを救うよ」
なぜなら、コイツはわらわのヒーローだからな。
声なき声で、呟き目を閉じる。
封印されていたエクスの声を聞いてくれた。
そしてエクスの所まで来て、解放してくれた。
それがどんなに嬉しかったか、どれほど自分を救ってくれたか……その重みを多分、唯斗は知らない。
けれど、エクスはただ確信している。
「だからおぬしの事もきっと救ってくれるだろうよ」
その確信のまま、エクスは唯斗の背中にそっと抱きついた。
「世界を救うだのと大それた事は言いません」
九条 風天(くじょう・ふうてん)は剣を正眼に構えた。
「が、一緒に進んでくれる仲間、共にかけがえの無い時を過ごした大切な人達や思い出のある場所を無くさせはしないっ!」
その剣にも眼差しにも声にも、一切の迷いはなく。
「そうだ、大切な人達を護りたい。その想いがあれば十分だろう?」
白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)はそんな風天の姿に少しだけ頬を緩め。
「言ったからにはやり通せ、手伝いくらいはしてやる。私から言う事は他には無いぞ」
自らも臨戦態勢を取る。
「……さぁ、とっておきの死地を生地へと転ずるべく、行こうか」
風天はただ静かに頷いた。
「俺ぁ光ってのは正直よくわからねえ、自分の中に光っつーもんがあるとも思わねえ」
東條 カガチ(とうじょう・かがち)はそれら盛り上がる者達とは一線を画していた。
「だいたいさあ、なべて光は良いモンで、なべて闇は悪いモンなんて、いつそんな事になったんだい? 知ってるかい? 人は夜眠るだろう? 暗い方が安心できるんだよ、本来人っつーイキモノはよ」
カガチは知っている。
世界は光だけでも闇だけでも善だけでも悪だけでも成り立たない事。
同時に分かってもいる。
今のこの状態はあまりに闇に傾いてしまっている事。
「正直、龍……見ようによってはでかい蛇だ、あれを斬るってのは気がすすまねえ。でもさ、あいつもしかしたら眠れねえのかもなあ。自分が安心して眠れる『暗いところ』から引っ張り出されちまって。それでちょーっとぐずってるのかもなあ」
だったら眠らせてやらねえとな、カガチは思う。
「ちゃーんと、還してやらねえとなあ」
「うん、そうだね」
その独白に、柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)は嬉しそうに頷き。
「カガチ、だいじょうぶだよ。なぎさんがちゃんといるよ。……心はずっと一緒、ちゃんと繋がってるんですよ」
カガチの手に自分の手を重ねた。
「だからなぎさんの光条兵器、つかってください」
カガチは一度、虚空を見やってから、託された思いを受け取った。
「やっぱり俺には光とかわからねえ。だから、なぎさんの使うよ」
「もしカガチが光をわからないなら、なぎさんが『これが光だよ』って教えてあげるんです。だってなぎさん、カガチのお嫁さんだもん!」
その笑みは、見まがう事なき光。
もし光があるとしたら、なぎこの存在こそが、カガチを照らす光だ。
その光を心に反射させながら、カガチは自らの光条兵器を、長弓をしっかりと握った。
「……『生きる』ということは、楽しいことだけではない。痛くて苦しいこともある。もしかしたら、そちらの方が多いかもしれない。それでも、僕はこの世界で『生きて』ゆきたい」
神和 綺人(かんなぎ・あやと)はそっと、伏せていた瞳を開いた。
黒曜石に映る、クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)、ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)、神和 瀬織(かんなぎ・せお)……掛け替えのないパートナー達。
「この世界で『生きて』ゆく。喜びと苦しみに満ちた世界で、クリスたちと共に。だから、僕はこの場所を守る」
「……私にはアヤと契約する前の記憶がありません。私は、私の欠けた部分を補うために、アヤと契約したんです」
綺人の決意を受け止め、クリスは確りと頷いた。
「私が望むのはアヤと、アヤ達と共に生きること。どんなに辛いことがあっても、苦しいことがあっても、アヤと生きてゆきたいのです」
たとえ、世界が闇に飲み込まれたとしても、クリスは綺人がいるのならば生きてゆける。
反対に、希望の光に満ち溢れた世界でも、綺人がいなければ意味がないのだ。
「私は……私も、綺人達と共に過ごせるのならば、どのような世界でもかまいません」
それは瀬織もまた同じだ。
だから、共に戦う。
魔剣を支え、影龍を浄化するのだ。
「……あの子達がどんな選択をしても、俺はあの子たちの側にいよう」
寄り添う三人を見守り、ユーリもまた心を決めた・
「……あの二人は危なっかしいし、何をするかわからないから」
言葉とは裏腹に、綺人とクリスを見つめる眼差しは優しく誇らしげだった。
「だけど、ただ闇雲に力を振るっても、影龍は救えないと思うんだ」
綺人にとって、闇は怖いものではない。
寧ろ、どちらかというと好きである。
「だって、『友達』とは闇夜にしか会えないのだから」
脳裏に浮かぶ光景……確か、あれはパラミタに行くことは決まってから。
「何故か兄さんが夜の散歩についてきたんだよね。初めてだったんじゃないかな」
そこで兄が言っていた。
『陰と陽、闇と光はどちらか片方だけでは存在しえない』
と。
相反する存在は、その実、お互いがなければ存在すらしないのだと。
『闇』があるから『光』が存在するのだと。
「だから、どちらも受け入れなくてはならないんだって」
あの時は、綺人は兄の言葉の意味がよく分からなかった、けれど。
今なら分かる。
「影龍だって、世界の一部。この闇だって世界の一部。光も闇も、この世界を構成する要素」
だから……還してあげたい、【シャンバラの守護者】たる綺人の真摯な願いはそのまま、影龍浄化の為の光となった。
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