葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

リアクション公開中!

君を待ってる~剣を掲げて~(第3回/全3回)

リアクション


第8章 光と闇の狭間で
「くっ、光が闇に押されてる!」
 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)クコ・赤嶺(くこ・あかみね)と肩を並べ、再び暴れ出した影龍に対していた。
 リネン達が救い上げた影龍の形。
 それが再び、勢いを増した周囲の闇に侵食されようとして。
「だが、させない! 影龍は助けてみせる!」
霜月の心に浮かぶ、決意。
元々霜月はここパラミタに、両親により送られてきた……ある意味勘当状態で。
だが、ここに来たから、ここに来たおかげで霜月には大切な女性、大切な家族ができた。
「それらすべて守ってみせる、必ず!」
 家族をクコを信じ、霜月は強化光条兵器を振るう。
「あぁ、存分にやれ。霜月の背中は私がしっかり守ってやる」
 その背を守りながら、クコもまた思い出していた。
 霜月と出会った日、それからの色々な事があった、楽しい日々。
 これからも続いていく筈の、続けていきたい、いかねばならない、未来。
 それらを守るべく、クコもまた力を尽くす。
「ワタシには、ワタシには何も出来ないであります……?」
霜月とクコの戦う背を見ながら、ポツリと呟くアイリス・零式(あいりす・ぜろしき)
「あの二人に浄化は無理じゃ」
 そんなアイリスに掛けられた言葉。
グラフ・ガルベルグ著 『深海祭祀書』(ぐらふがるべるぐちょ・しんかいさいししょ)は驚いた顔をしたアイリスに、頷いてみせた。
「じゃから、わしらがやるのじゃ。あの二人が影龍の暴走を抑えてくれている間に、他の者達とも協力して、のぅ」
「はい、ワタシに何が出来るか分かりませんが……出来る事が、あるのなら」
 アイリスはそして、しっかりと頷いた。
 歌で霜月達を援護しつつ、『深海祭祀書』達と共に浄化をする。
 自分なりの方法で、自分に出来る事を。
「まさか音を上げたわけじゃないだろうな?」
「……誰が」
 磁楠に返し、疲れ切った身体に鞭打ち立ちあがる陣。
 よろけた身体を、リーズが支えた。
「行くぜ、闇を近づけるな」
「仮面ツァンダーソークー1は、何度でも立ち上げる!」
「蒼天様や皆様を傷つけはさせません」
「クライマックスは派手に、ってトコね」
 ツァンダーソークー1が本郷翔がアリシアが、闇を祓い続ける中。
「ちょーっと、遅い!」
 義彦と共に現れたにゃん丸を、リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)は涙目で文句を付け。
 だが、パートナーの顔を見たリリィは即座に事の重大さを悟った。
伊達に長い付き合いではないのだ。
「で、どうするわけ? 何か考えてるんでしょうね……?」
「あぁ。闇龍は滅亡したシャンバラ王国人の負の魂の集合体なんじゃないかと思うんだ。心に闇をもった俺を飲み込もうとしたしな」
 だが、そうと悟ったにゃん丸は逆に、考えたのだ。
「建国の希望に満ち溢れた今なら……光の存在に気付いた彼らの一部『影龍』を救い出す事ができるんじゃないか、ってな」
 荒れ狂う闇からにゃん丸……忍丸は目を逸らさない。
「闇は一点の光も無い……。しかし、影は光のある所にしか存在しない。お前は光を意識した時点で闇龍とは別の存在だ」
自らを構成する闇……負のエネルギー。
それと戦おうとする蒼天。
「正直、俺は義彦や刀真に嫉妬している。人間誰しも影を持つ、だがそれに負けないよう頑張る光の心もだ……。俺達だってお前とかわらない。だから影龍、光を拒絶するのはやめろ」
 芽生えた心。
 夜魅から蒼天へと伝わったココロが、その存在全てへと浸透するように。
 その為の、奥の手。
「影龍の闇を浄化する方法……壮太が皆に教えてくれたじゃないか。夜魅を受け入れた方法で!」
にゃん丸は皆を見回した。
「影龍の魂を受け入れる覚悟のある奴は手を挙げろ!」
果たして何人の学生が手を挙げるだろうか?、それでも、もし誰もいなくても、にゃん丸は一人でやる覚悟をしていた。
「影龍お前を受け入れてやる。やり残した思いは俺の体で感じろ!」
「光が強く輝けば影もまた濃くなる……恥じる事じゃないわ」
リリィもまた言いながら、影龍と正面から向き合い。
「光の花嫁と影の忍、意外とうまくやっていけてるわよ。」
冗談めかした中に真摯な気持ちを乗せて、誘った。
「ボクはアーちゃんと一緒にいたい。この世界で!」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が闇に飲み込まれそうになった時、そんな御陰 繭螺(みかげ・まゆら)の声が聞こえた。
 それだけで、闇の顎……自分を呑みこもうとした何かが、怯んだ。
 闇の中蠢く微かな光景……どこか恐ろしく懐かしいそれが、ぼやけた。
 声に、アシャンテが意識を急浮上させたから。
「アーちゃん!」
 繭螺の中の光は、アシャンテなのだ。
アシャンテと共にいることが、繭螺にとってのすべて。
アシャンテとともにこれからも歩いていく、ずっと。
その思いを影龍に、アシャンテを連れ去ろうとする闇に、ぶつける。
 それ故に闇は怯んだ。
 その光に。
「……私の過去は未だに思い出せないが、今の私は、ここが、存外に気に入っているようなんでな……」
 アシャンテはそして、ふっと笑んだ。
 あのまま闇に囚われれば、過去を垣間見る事も出来たかもしれない、けれど。
 それよりも尚、繭螺の手を取る事が、共に在りたいという思いを受け入れる事の方がずっと大事に思えたから。
「私はそこにいってやる事は出来ない……だが」
 そうしてアシャンテは、静かに口を開いた。
 聞こえた、にゃん丸の言葉。
 答えたい、と思った。
 にゃん丸に……何より、影龍に。
 だから。
「世界に還るのもいいが、私に宿り、変わり行く世界を直接見て感じ取るのも良いのではないか?」
「アーちゃん?!」
 気付き、血相を変える繭螺。
 繭螺とて、にゃん丸の提案は聞いた。
 それもまた大切な事だとは、思う。
 でも、それをアシャンテにさせるとなると全くの別問題だ。
 アシャンテがそんな事を考えていたなんて、まったくもって予想外だった。
「そそそ、それはダメだよ、危ないよ!」
「……大丈夫だ、私はそんなヤワじゃないし……これだけの生徒や巫女がいれば、そうなったとしても今回のように解決できるはずだ」
 もしもの時は繭螺だって助けてくれるだろう?、続けられた言葉が繭螺の反対を押し留めた。
 アシャンテの声に瞳に宿る、確固たる意志に。
「だから……共に来い。世界を、直接見せてやる」
 アシャンテはそして、影龍に向かい手を伸ばした。
「正直、世界の行く末には興味ねぇよ」
 それらを見つめ、トライブは呟いた。
「俺は闇を否定しない。薄汚ねぇスラム街で育った俺には、綺麗で明るい場所は生き難いからな。部屋も人間も世の中も、少しくらい汚れてる方が過ごしやすいのさ」
 力こそ正義……それが、トライブの真実だった。
「けど、パラミタに来て、蒼学に入って、俺の価値観は少しばかり変わっちまったらしい」
 世界の行く末にも影龍の復活にも興味はない。
 ただ、蒼空学園を壊されては困る、と思う自分がいる事にトライブ自身、驚いていた。
「色んな奴と出会った。惚れた女もいる。守りたくて守れなかった奴も居る。馬鹿やって騒いだ時も、屈辱を噛み締めた日もある。けど、そいつら全部ひっくるめて思い返してみると、悪くねぇ日々だったさ」
 いつの間に、こんなに愛着を抱いていたのだろう?
「それでも、世間の闇って奴を知っちまった俺には、ただ安寧と毎日に埋没することはできねぇ。闇には闇の理解者が必要なのさ」
 だから。
「邪剣……いや、シャドウエッジ。あんただってそうだろう?」
 トライブは邪剣の欠片を手に、影龍を見据えた。
「あんたの存在意義も、影龍の存在意義も、俺が認めてやる……何て偉そうにはいえねぇけどな。一緒に世界の行く末でも見守ろうぜ」
 相棒、と小さく笑み。
 トライブもまた闇を受け入れるべく、そっと手を伸ばした。

「……認めない! 自分は認めない!!……じゃなきゃ、今まで何のために強くなる努力をしてきた!」
 闇の中はどこか心地よかった。
 闇に呑み込まれ闇に堕ちていった意識、それを居心地良く感じていた鬼崎 朔(きざき・さく)は、緩やかにはぎ取られていく感覚に、ギュッと拳を握りしめた。
「魔剣も影龍も……有効なのは幸せを想う心?……そんな……不確かのモノに自分の研鑽や想い……復讐と勝利への渇望は負けたというのかッ!?」
 それは朔にとってどうしても認められない事だった。
「幸せ?……幸せってなんだよ! 結局、幸せなんてまやかしだ! 誰かを壊して否定した結果にしか過ぎないんだからなぁ!」
家族を、故郷を、『自分』と『思い描いてた幸せ』を、奪って壊した理不尽な世界全てを呪って、復讐を決意したあの時の想い。
「生き残る為に血反吐を吐いて泥を啜って……幸せそうな奴等に蔑まれ罵られ……それでもそいつらから奪って壊して……呪って『汚く』なってでも思い続けた想いが……そんなものに負けたっていうのかッ!?」
ずっとずっと強くなる事だけを求めてきた。
きっかけを作ったドージェを、実行犯の塵殺寺院を、自分を見下し嘲笑ってきた者達に復讐するため。
自分を否定した理不尽な世界を破壊するために生きてきたのにッ!
「自分の今までの努力を……こんな……否定の仕方……しないでよ……」
 けれど、けれども。
 力なく呟いた朔の耳に『声』が聞こえた。
「おら!『闇』!!! 何、朔ッチを……ボクのパートナーを呑み込もうとしてんじゃあ!」
「……朔様! スカサハは……そのままの朔様で居て欲しいであります!!」
 ブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)の、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の、パートナー達の声。
「ボクのパートナーは確かにお前と同類!『闇』側の人間だよ!!」
 光条兵器を振るい、朔を呑みこんだ闇を切り裂きつつ叫ぶのは、カリンだ。
「いつでも『復讐』にこだわっててさ……自分が『幸せ』になれないって想ってる大バカだよ!」
 勢いのあるセリフは、随分と湿っていた。
「……でも……そんなあの子でも想ってくれる人たちがいる! ボク達もいる!!……例え、あの子が『闇』側の人間のままでもボク達は受け入れる!」
 だがその涙を振り切り、カリンは朔を探し求めていた。
「……だって頑固なあの子を受け入れる存在がいないと……『幸せになれないじゃない』!」
「そうです! ときどき怖いけど……でも、本当は誰よりも優しい! 思いやりのある御方である事をスカサハ達知っているのであります!!」
それはスカサハも同じ。
こちらも、その必死な面持ちが浮かぶくらいの気持ちが、声にあふれていた。
「だから……出てきてくださいなのであります!! スカサハ達は……朔様が大好きなのであります!!!」
「……こんのぉ、バカ弟子! いつまで引きこもってるつもりだ!!!」
 そんなカリンのスカサハの言葉……否、思いにどこかが、心のどこかが震える朔へ、尼崎 里也(あまがさき・りや)の一喝。
「そなたが『闇』側だろうが、今、影龍と戦っている者どもが気に喰わなくても、そんなのどっちでもいい!! 私には関係ない!」
 言い切った里也に、朔の周囲の闇が震えた。
「だがな……そうやって、闇に引きこもってぶつぶつ呟いてるのだけは許せん! 復讐のための刃でも……護りたいものがお主にもあるなら、清濁併せ持て!」
そしてそうして。
「切り開け! お主が光を纏えないなら、私らがお前を導く光になってやるから……出て来い、朔!」
「だから……いつまでも闇ばかりに囚われてるな! 朔・アーティフ・アル=ムンタキム!!!」
 里也とカリンの優しい怒声に、朔の周囲の闇が吹き飛ばされた。
「……朔様!」
「朔ッチ!!」
 スカサハとカリンが顔をグチャグチャにして抱きついてきた。
 その後ろで里也は「やれやれ」とでも言いだけに、溜め息を一つ。
 ただその顔には隠しきれない安堵が浮かんで。
 その、それらの温もり。
 それは確かに朔の心を震わせた。
 しかし、それでも。
「……やっぱり、自分……いや『』は……それでも、『幸せ』を想えない」
朔の結論は変わらない。
例え、恋人や友人達、そしてパートナーを護り、楽しく過ごしても。
「『私』は壊れてるから……どこかでまやかしだと思っているのかもしれない……」
 何か言いかけたカリンとスカサハ、怖い顔になった里也を、朔は制した。
 大丈夫、という意思は伝わっただろうか?
「『闇』……いや、今の君は影龍か……」
 思いつつ、朔は影龍に手を伸ばす。
「『私』は君を否定しない。君を受け入れよう……『私』の想いの一部だから」
 復讐という闇に身を置く事に変わりは無い。
 ただ、そう……朔にはパートナー達が、大切な者達が、光が存在しているのもまた事実で。
 だから……闇と光に揺れる影龍を、その存在のまま受け入れたいのだと。

「そうだな。この世界はまだまだ変わっていく。良かったらアンタももう少し見てみないか?」
 そうして、唯斗もまた誘った。
「見たいなら来いよ。俺が、俺達が見せてやる」
 手を伸ばす。
 何度も、何度でも、何度だって、この手を伸ばそう。
「アンタが望む限り、奇跡だって起こして見せる!」
そして掴むのだ……ハッピーエンドを!