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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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第5章 出発前

「変な生物が到着したのぅ。キメラかの……」
 ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は迷彩塗装を自分に施して、とある建物の近くに待機していた。
 パートナーの桐生 ひな(きりゅう・ひな)はその木造の民家のような家の窓の側で監視を務めており、姿を確認することは出来るのだが、接触は出来なかった。
 ひなは組織からある程度監視されている。盗聴や携帯電話の履歴チェックもいつ行われてもおかしくはないため、連絡も慎重に行わなければならない。
 ナリュキもひなのパートナーとして組織の末端構成員になるのなら、注意していても外部との連絡は非常に危険な行為となる。
「ふむ、あちらは順調なようじゃの」
 ナガン黎明と連絡を取り合い、互いの状況を確認し合う。
 それから亜璃珠にも連絡を入れたが、返信はなかった。百合園側の状況などを聞いておきたいと思ったのだが……。

「交代するよ。食事行ってこいよ」
 ひなと一緒にこの拠点配属となったマスクが近づいてきた。
「言ってきますですー。で、今日は護送の仕事の日ですけど、マスクはどうします? 私は悠司さんを手伝って本部到達を重視しますですー」
「……本部に行ってもそっちに配属になるわけじゃなからな。とはいえ、チャンスではあるからやってみたいとは思う」
「配属になりたいのですかー? 本部に行って具体的にやろうとしている事があるとかですかー?」
「……まあな」
 マスクはひなから目を逸らして、遠くを見る。
 何をやろうとしているのか、何を目標としているのかひなは知らないけれど。
 揺ぎ無い信念を持っているということは、理解していた。
 ただ、彼は組織の仕事を好むような人物ではなく、非道になっていく組織の依頼をこなせる人物でもない。
 本部に到達できても、のし上がれる人物ではないこともこれまでの付き合いで解っていた。
 彼の本心を聞き出して、止めてあげることが本当は正しいのかもしれない。
 だけれど、ひなにも本部に行きたい理由があって、その為にマスクと馴れ合うことは得策とはいえない。
 互いの目的の為に、打算的に協力し合う。そんな関係以上にはなれずに……ならずにいた。

 そのキマクにある組織の拠点の中にて、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)はこの拠点の管理者であり、組織の幹部であるコリスに疑問を投げかけていた。
「今回の仕事っすが、不明な点があるっす」
 百合園女学院の校長桜井 静香(さくらい・しずか)と、百合園女学院の生徒であるアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の人質交換が行われる。
 悠司達に示されたのは、アレナの身柄と光条兵器を組織の本部に運ぶという任務だった。
「正直、神楽崎は厄介かもしれねーっすけど、ラズィーヤを一緒に殺せるってメリットに比べりゃ優先度が高いとは思えないっす」
「てめぇらは、余計なことを考えず、仕事だけこなせばいい」
 案の定、コリスは悠司に詳しい説明をしようとはしない。
「そりゃそうなんすけど、予定外の事態が起きた時に、何を優先すればいいのかわからないっす。例えば、邪魔になりそうなら桜井静香は殺害しちゃってもいいんすかね?」
 本部への護送に失敗した場合、護送班のメンバーも一緒に始末をされる可能性まで聞いている。
 コリスの話から、アレナの殺害が最優先であることは解る。
 万が一取引が失敗し、静香もアレナも向うの手に渡った場合、纏めて攻撃して、アレナの身柄確保を目指す必要もありなのかどうかなども、仕事を請ける上で必要な情報だ。
「あと、神楽崎がメインなら死体と光条兵器を確実に本部に届ける必要も無いはずっす」
 沈黙しているコリスに、悠司は自分の腕を見せる。
「言えないんなら仕方ねーんすけど、それは組織のためっすかね? 俺はこの腕輪のせいで、組織の不利になることしちゃ腕が吹っ飛ぶんすけど。そうすると、仕事果たせなくなるっすから……。コリスの旦那の判断は組織の判断と受け取っていいんすかね?」
「当たり前だ」
 コリスはそう言い、しばらく腕を組んで考えた後……舎弟何人かに退出を明じ、悠司と特に信頼している舎弟だけを部屋に残した。
「説明してやるが、他言無用だ。てめぇの配下の者にも話すなよ」
 悠司の返事を聞いた後、コリスは語り始める。
「まず、桜井静香だが。これの殺害は極力避けろ。本人に武勇の能力はなく、奴の周りは穴だらけだ。簡単に入り込みいつでも殺害することが出来る。だが、捕らえている今はラズィーヤ・ヴァイシャリーは万全の医療態勢を整えて構えているだろう。今、桜井静香を殺害しても、ラズィーヤは生き残る。後遺症で身体能力の一部を奪うことくらいは出来るかもしれないが、元々ラズィーヤは武勇面で邪魔なわけじゃない、まるで意味はないだろう」
「そうっすね……」
「続いて、地球人の神楽崎だが、奴には組織の重要拠点をつぶされたことがある。現在、奴のパートナーはアレナ・ミセファヌスただ1人だ。本人はヴァイシャリーの地下に存在する離宮に下りており、地上と連絡も取れない状態にある。医療体制も整ってはおらず、おそらく小型結界も持って行ってはいない。故にアレナ・ミセファヌスを殺せば、ほぼ確実に神楽崎も死ぬ。今は無論、今後も指揮の要となるような邪魔な存在だ。殺害しておかねばならない」
 ただし、組織の作戦により、すでに神楽崎は死亡している可能性もあるとコリスは続ける。現在の離宮側の状態は組織も把握していないようだ。
「そして、剣の花嫁のアレナ・ミセファヌスだが、これは――十二星華だ。こちらには剣の花嫁を蘇らせる伝がある。十二星華の光条兵器は強力な武器であるだけではなく、それぞれに特殊能力が備わっている。アレナの星剣の能力は把握していないが、抑えておく価値は十分にある」
 故に、組織側としてはアレナ・ミセファヌスを生かしておく理由がない。
 僅かにあるとしたら、復活には時間やコストがかかるため、すでに神楽崎が死亡している場合は生きていた方が良いとも考えられている。
 ……話を聞いているうちに、悠司は組織と他国の関係を感じ取っていく。
 エリュシオンは十二星華の数人を復活させ、洗脳した。
 アレナも捕らえられたら、彼女達のようになるのだろうか。

 隣室で、桜井静香はベッドに横たわり、天井を眺めていた。
 鏖殺寺院関連の組織に捕まって、どこかの拠点に連れてこられたということだけ、理解していた。
「家から出たらダメって言われてて、暇なんだよねー」
 ロザリアス・レミーナ(ろざりあす・れみーな)がその部屋の中へと入ってくる。
「え……っ」
 静香の元に駆け寄ったロザリアスは、ベッドの上に飛び乗って静香の肩を踏みつけた。
「う……あ……っ」
 激痛に言葉も出せず、静香はもう片方の手で必死にロザリアスを振りほどこうとするが、ロザリアスは楽しげに傷口を踏み続ける。
「うっ、だ、れか……っ」
「もっともっともっとぎゃーぎゃー喚いてよ!」
「やめて……!」
 激しく傷口を踏みつけるロザリアスの肩を、部屋に戻ったメニエス・レイン(めにえす・れいん)が掴んだ。
「えー、なんで? なんで止めるの?」
 ロザリアスは踵で静香の傷口を踏みつけ続ける。静香が苦しげな声をあげる。
「おねーちゃん変だよ? コレ踏んで何が悪いの?」
「いいから、やめて……」
 メニエスはロザリアスをベッドから下りるように言う。
「ま、いいや。ティアであそぼー」
 ロザリアスはぴょんとベッドから下りると、別の部屋へと向っていった。
 メニエスは少しの間、立ち尽くしていた。
 静香の肩の傷は、軽く治療されてはいる。
 だけれど魔法での治療は行われてはおらず、ロザリアスの踏みつけにより傷口が開いてしまっていた。
 メニエスは無言で応急手当をしていく。
 静香は涙を流し、うめき声をあげて痛みに耐えている。
「ねぇ、なんであんな事言ったの?」
 手当てを終えた後、メニエスはそう静香に問いかけた。
 涙を拭って、大きく何度も息をつきながら、静香はまず「ありがとう」と言った。
「もしかしたら、あたしがあそこで撃ってたかもしれないのに?」
 メニエスがそう言うと、静香は軽く首を横に振る。
「そんな……理由、ないし」
 そして弱い笑みを浮かべて、メニエスを見た。
「今も、こうして止めてくれた、でしょ? やっぱり、メニエスさんはメニエスさんで……僕を助けてくれる、人だから。何か理由があるんだよね?」
 メニエスは口を閉ざし何も答えなかった。
「やめて、って言ってくれた。その言葉は、メニエスさんの本心だよね。僕を利用したいからじゃなくて、僕が痛がっているのを見て『やめてほしい』って思った、メニエスさんの、こころ……」
「メニエス様、そろそろ準備を」
 メニエスに付き従っているミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)が2人の会話を遮る。
 瞳を揺らし、メニエスはすっと静香に背を向ける。
「あ、う……っ」
 ミストラルは静香に近づくと、その腕を強引に引っ張り、乱暴に立たせる。