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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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嘆きの邂逅~闇組織編~(第5回/全6回)

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 百合園生が集まっている神楽崎分校だが、その一角、喫茶店の中の狭い事務室に三井 八郎右衛門(みつい・はちろうえもん)は軟禁されていた。
「ところで、あなた様は、普段は何を食べていらっしゃる?」
 手もみをしながら、愛想笑いを浮かべて監視に当たっている男に尋ねる。
「大人しくしていろ」
「普段は何を着ていらっしゃる? それは普段着ですかね?」
「……」
「普段は何で遊んでいらっしゃる?」
 三井はこんな時でも商売のタネを探していた。
「やっぱり金と力と女の三点セットですかね!」
「……」
 冷ややかな視線に、ひぃぃと声を上げて、三井はベッドの方へと退散する。
 監視に当たっているのは、ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)だ。
 こういう話題には乗ってこないらしい。
「そろそろ交代の時間だが」
 ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)の声がドアの外から響き、ミヒャエルがドアを開けて、中に入れる。
「食事を持ってきたぞ」
 ロドリーゴはトレーをテーブルの上に乗せる。
 パンもスープも捕虜とロドリーゴの分の2人前ある。
 食事もトイレも何から何まで、付きっ切りで見張りについていた。
 三井の睡眠時もミヒャエルと2人で交代で見張っているため、毎日寝不足だ。
(まったく、監視役であるはずの余の方がなぜこのような苦労をせねばならぬ)
 三井はロドリーゴの分まで食べる勢いで、食事を満足げに食べている。
 そして、この後はお昼寝タイムに入るのだろう。やることがないから。
(いっそジェム王子と同じ目に……いやいや、そんなことをしても一文の利益にもならぬ)
「任せたぞ。分校顧問から連絡も入ったな。縄付きで分校内を回らせてやってもいいが、ちっと今はそれどころじゃねぇな」
 言って、ミヒャエルは退室する。
 キメラが、分校上空を飛んでいく。
 職業斡旋施設の襲撃を行ったために、分校生達もまとまりがなくなっており、店長のこの男が縄付きで歩き回ると、分校内が荒れてしまう可能性もある。
 もう少し、ここに止めておいた方が良さそうだった。
「セールスしたい相手がいるんなら、紹介するぜ」
 ロドリーゴがそう言う。
「やっぱりパラ実生でしょうかねぇ。百合園にはまだ拠点ないですしねぇ」
 三井はへらへらとした笑みを浮かべながらそう答えた。

「サボってんじゃないぞー!」
  アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)は、イル・プリンチペ(いる・ぷりんちぺ)と共に、周辺の巡回に出ていた。
「つーか、なんで俺らこんなことやんなきゃなんねーんだよ!」
「親父さんのスープが飲みてぇぜー!」
 パラ実生達は不満を言いながらも、アマーリエ達の指示の元、援農に努めていた。
「戻ってきたら、スープもジュースも飲み放題だよ! パーティも行おうぜ!」
 厳しいアマーリエをフォローし、イルはパラ実生を励ましていく。
「交渉は順調なようだし、農家の方々を呼び戻すタイミングも考えなきゃね」
 イルがアマーリエにそう言う。
「キメラが落ち着いたら迎えに行きましょう」
「まだしばらくかかりそうよね」
 イルが空を見上げる。また数匹、キメラと思われる生物が南へと向っていく。
「あと、酒場の再建支援と荷役作業に何人か引き抜かなければね。分校本部防衛から何名か割くのでしょうね。只でさえ手薄なのに頭が痛いわ」
 そう、アマーリエは言い、イルと苦笑しあうのだった。

「悪かった」
 掘っ立て小屋の生徒会室で、生徒会長の羽高 魅世瑠(はだか・みせる)は不満ぶつけてきた分校生に謝罪をしていた。
「他のシマ荒らしと勘違いしちまったんだ。現在向こうと話つけてるし、営業もしているようだからさ、分校生だってわかんねぇようにして行けば、大丈夫だぜ。話が付いた後は、いい仕事回してもらえるよう、こっちも営業するからよ!」
 ぺしぺしと分校生達の肩を叩いていく。
「行きにくくなっちまったじゃねぇかよ。頼むぜ生徒会長!」
 分校生達は不満げだったが、交渉が上手く進んでいることを話すと、少し落ち着きを取り戻す。
「さて、仕事に戻った戻った。当分の間は自給自足のようなもんだ。収穫物分けてもらって、喫茶店でメシ作ろうぜ!」
 魅世瑠がそう言うと、不満げながらも、分校生達は仕事に戻っていく。
 ただ、事件が沢山あったせいで、分校生の数も随分と減ってしまっている。
「力見せ付けてくれる、リーダーがいないしなぁ」
 ふうとため息をつきながら、魅世瑠は紙を一枚取り出した。
「うーん」
 それは、組織の賞金首リストだ。
「分校長から預かったんだけど、ちょいとこれ細工してくれるか?」
 魅世瑠は茶を飲んでいたアルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)の方にリストを差し出す。
「闇組織の賞金首一覧? 分校長さんはどこからこんなものを」
 呟きながらリストを確認していき、アルダトは妖艶な笑みを浮かべる。
「まあよろしいですわ。わたくしに任せてくださいませ」
 そして、ペンと紙を取り出す。
「まずは出所を消すために書き写す必要がありますわね。少々改竄も必要ですわ」
 さらさらと新たな賞金首リストを書き出していくのだった。

「オッサンの作ったスープが飲みてぇ!」
「うん、ラズも飲みたい」
 分校生の言葉に、ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)はにこっと笑みを浮かべる。
「早く連れ戻そうぜ! 農業もううんざりだぜー!」
「まあそう言うな。キメラが飛び回ってんだ、仕方ねぇだろ。うちの分校の諜報員が逸早く情報を掴んだお陰で、農家の人達は安全なところに避難できたんだぜ。無事ならまたスープくらいいくらでも作ってくれるからよ!」
 不満たらたら流している分校生を、フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)はそんな風に励ましていくのだった。
「キメラさんもいき物だからむやみになぐっちゃだめだよー」
 と、ラズは空を見上げる。
「ラズが『適者生存』の能力で『めっ』すればおとなしくならないかな?」
 ラズの問いに、フローレンスは軽く笑みを浮かべておく。
 話を聞いた限りでは、大人しくはならないだろう。
 人によりコントロールされているキメラなようだから。
「でも、そんなキメラもいるかもしれねぇしな。そんときは頼むぞ」
 フローレンスのその言葉に、ラズは大きく頷いた。

「その不満は解りますわ……あなた方は四天王の優子様の力に惚れて舎弟になったのですのよね?」
 外では、ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)が不満気な分校生を集めていた。
「けっして分校そのものに従っている訳ではございませんもの……」
「そうそう」
 分校生達の言葉に頷いてロザリィヌはこう続ける。
「けれど、当の優子様はこの地にはいらっしゃいません。命令も決して優子様本人が出している訳ではございませんわ……」
「そうなんだよなー」
「最近、来る意味がわかんなくなってさー」
 強く頷いて、ロザリィヌはこう続けていく。
「再び此処に優子様を呼び戻しましょう? そうすれば……! 願いはきっと……かないますわっ!」
「だよなー、来ねぇってなら、こっちから呼びに行こうぜ!」
「けど、何か凄い戦場で戦ってるって話だぜ?」
「この間パートナーが来たし、とりあえずあの娘連れて来ねぇ?」
「分校のマスコットにしようぜー!」
 そんな話で分校生達は盛り上がっていく。
 ロザリィヌはそっと息をつく。
 崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の邪魔してしまっていると思うと、心がちくちく痛かった。
 だけれど、止めることが出来ずに、ロザリィヌはそう分校生達を扇動していってしまう。
 分校が無くなってしまえばいいとは思ってしまう。
 だけれど、自分から分校を壊すように仕向けることはできなくて。
 亜璃珠や他の分校役員が、大変な思いをして分校を作り、維持してきたのかがロザリィヌにも解るから。
(わたくしは亜璃珠たちが嫌いになったわけではございませんの)
 首を左右に振って、ロザリィヌは分校生達を集めて話を続けていく。
 分校への破壊に矛先は行かないように。
 だけれど、愛故に。
 自分を止められなかった。

「なんじゃーこりゃ!」
「クソッ、なめやがって!」
「どうした?」
 怒鳴り声を上げている分校生の元に近づいたのは、分校で教師を務めている高木 圭一(たかぎ・けいいち)だった。
「見ろよこれ! 1人100Gとか書いてあるぜ!」
「十人纏めてなら1100Gとか!」
「オレなんか、名前間違えられてるぜ!!」
 分校生達が見ているのは、ホールの壁に貼られていた怪文書だ。
 賞金首リストなどと書かれている。――アルダトが作成して、貼ったものだった。
「総長が不在だからといって、うちの分校も嘗められたものですわね。ふふ」
 通りかかったかのように現れて、アルダトはそう言ってそのまま去っていく。
「ぶっころす!」
「潰す!」
 分校生達が怒り露に武器を取り出す。
「こら、このリストじゃ殴りこむ先もわからんだろ」
 圭一は分校生達を嗜め始める。
 しかし、最近覇気がなくなっているようにも見えたので、何かに熱くなることも悪くはないと思うのだった。
「中に入れ。少し話しをしようか」
「話なんかしてられっかよー!」
 少年が振り上げ、壁に叩きつけようとしたバッドを圭一が素手で受け止めた。
「ならば、嘗められないような、大人になれ。喧嘩で強くなれと言っているんじゃないぞ」
 そして、空を指差す。
 キメラがヴァイシャリーに向って飛んでいく。
「強さを見せる方法も、喧嘩だけではないぞ」
「……ぶったおす」
「俺らの強さ、見せてやろうぜ!」
 バラバラと数人キメラ討伐へと川へ向っていく。
 彼らの後姿を見ながら、圭一はホールの中へと入っていく。
 ホールでは不満を持ったパラ実生が仮病をつかって、ごろ寝をしている。
 ここ、神楽崎分校は微妙な立場にある。
 分校に関わる人々にも、様々な理由、思惑がある。
 一つの強い意志で纏まっている団体ではない。
 分校生も他校に所属していないパラ実生だけではなく、様々な学校に所属する者が分校生として時々顔も出している。
 パラ実でありながら、百合園や他校との融和を図るべく企図された場所だと圭一はとらえていた。
 分校のあり方についてはまだこれからも検討され、作られていくのだろう。
 今はひとりひとりの話を聞いてあげて、それが正当なら意見を取り入れていくのも良いと考えながら、圭一はホールへと入っていく。