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リアクション
第2章 ファビオの封印
百合園女学院生徒会執行部、通称白百合団の団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)は、準備が整い次第仲間と共に学院を出発して、ファビオの封印の玉が眠ると思われる遺跡へと向っていた。
いて助けになったかどうかは兎も角、桜井 静香(さくらい・しずか)もおらず、最悪、自分とパートナーのミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)だけで向う覚悟であったが、思いのほか、同行を希望してくれる者達がいた。
そのヴァイシャリーの外れにある遺跡は、過去にヴァイシャリー家による調査も行われており、宝などは何も存在しないはずだ。
倒壊の危険があるため、封鎖をしてあるそうだがスリルを求める冒険者が無断で中に入ることもあるらしい。
「ミルミ姫、アルコリア侍いますわ」
牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)がミルミの前で恭しく頭を下げる。
「ええっと、苦しゅうない。ひかよろー。どの印籠が目の中に入らぬかー。だっけ?」
どこかで見た日本の時代劇に出てくる言葉をミルミは並べてみた。
「もー、なーんてねー、むぎゅーっ」
次の瞬間、ぱっと笑顔を浮かべていつものようにアルコリアはミルミをぎゅっと抱きしめた。
ミルミの顔にも笑顔が浮かんでいく。
「ん? 今日はいつもとは違うアクセサリーしてるね」
アルコリアはミルミの首にかかっているネックレスに気付く。
民族的なデザインのネックレスで、洋服とあまり合っていない。
「メル友がプレゼント送ってくれたの〜。アルちゃんから貰った可愛いのもつけてるよっ」
ミルミの胸には鈴蘭のブローチがつけられている。
「かわいいかわいい、ぎゅむーっ」
アルコリアはぎゅううっとミルミを抱きしめ、ミルミは笑い声をあげる。
そんな2人に対して、パッと光が発せられた。
「アルママにかってもらったんだよ〜」
樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)が嬉しそうな笑顔で、写真を撮ったのだった。
「ミルミんおねーさま、いっぱいとるよ。がんばるよ〜」
嬉しくて嬉しくて、眞綾はパシャパシャとミルミやアルコリアを撮っていく。
「あれが……ミルミんのママだね」
パシャっと、眞綾は鈴子の写真も撮る。
「ん……。鈴子さんのトコいかなくて大丈夫?」
アルコリアはそっと離して、ミルミに問いかけた。
「ん? なんで?」
「あんまり一緒にいる機会、ないんでしょ?」
「うん、今もおんなじだよ。鈴子ちゃん、お仕事で忙しいから、近くにいっても邪魔になるからねっ!」
ミルミはにこっと笑った。
明るい笑みだけれど、鈴子に甘えたくて仕方ないという気持ちを持っていることも、アルコリアは知っている。
「一緒にいてくれる人いるから、全然問題なし!」
そう言って腕を掴んできたミルミを……言葉もなく再びぎゅっと強く抱きしめた。
その間に。とてとてと眞綾は鈴子に近づいて、くいっと袖を引っ張った。
「『シラユリダンノキレイドコロ』のばしょをおしえて〜」
突然の質問に、鈴子は怪訝そうに首をかしげた。
「アルママにたのまれたひとがドコにいるのかしりたいの」
「……生徒会室と答えればいいかしら」
困った顔をする鈴子の下に、シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)が駆け寄って、眞綾を後方に押しやった。
「……いつも、ミルミにアルの世話をさせて済まない」
そして鈴子に詫びていく。
ミルミとアルコリアは変わらずぎゅっと抱きしめあっている。
「アルは……奇行が多い契約者だが、悪気は……無い、と思う……」
断言が出来ないのが辛いところだ。
「すまんのう」
シーマの後ろから、ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)も詫びの言葉を口にする。
「ミルミん〜。スズコチャン〜。いっぱいとるといいって、アルママいってた〜」
なんか、フラッシュの光もパシパシ浴びせられていてそれにもシーマは頭を悩ませる。
眞綾のあの行動も自分が謝罪すべきだろうかと。でも、良い言葉が出てこない……。
「いえ、いつもミルミの面倒を見て下さっていることに、感謝いたしておりますわ」
鈴子はそう笑みを見せる。
「いやとても、感謝なんてされることでは……」
シーマはため息をついた後、こう続ける。
「侘びと言ってはなんだが、警護を務めさせて貰いたい」
「ありがたいお話ですわ。でも、一般の生徒達は私にとって守るべき存在ですから、私が皆様達をお守りします……でも、他の方は兎も角、シーマさんには正式に白百合団に入っていただけたらそういったことにも協力いただけて助かります」
アルコリアが百合園に転校したことで、アルコリアと行動を共にしているシーマも百合園所属となっている。
正式に百合園生となり白百合団に所属したのなら、情報なども入ってきやすくなるし、責任ある仕事を任されることも増えるだろう。お嬢様ではないシーマには合っているかもしれないが……責任ある立場につくということは、自由が制限されることもあるということだ。
「とりあえず、今日は他校生と同じ立場として必要に応じて護衛させてもらおうと思う」
「わかりました。お願いしますね」
シーマの言葉に、鈴子は頷いて微笑んだ。
(……やはり、百合の花園に我輩のような輩は不似合いじゃの)
2人のやりとりを見ながら、ランゴバルトは密かにそう思う。
パートナーのアルコリアが転校したからとはいえ、男性のランゴバルトは普段、百合園女学院に入ることもできない。入れたとしても酷く浮いてしまうだろう。
それにしても……。
(アル殿が鈴子殿の手伝いをシーマ殿としろとのことじゃが……。これも、ミルミ殿を配慮してかのう?)
アルコリアに目を向ければ、変わらずミルミを抱きしめてほほを摺り寄せている。
ただ可愛がっているだけではなくて、ミルミのことを案じている気持ちがあることを、ランゴバルトも理解していた。
「申し訳ございません。団長様、先日は私風情が出すぎた真似を致しました」
もう1人、鈴子に詫びる者がいた。
雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)だ。
「リナさん……どうしてここにいるのですか?」
鈴子は少し困った表情だった。
リナリエッタは、共に研究所に向った際、鈴子の責任を全て被るような発言をしたのだった。
鈴子は白百合団員とリナリエッタに現場を任せて、ここに来ている。
「私は白百合が好き」
リナリエッタは真剣な表情で語る。
「白百合団の、団長の負担を軽くしたい。痛みを分かち合えれば……少しは団長の手助けが出来るかな、って勝手に思い込んで、勝手に騒ぎましたわ。ごめんなさい」
「それなら白百合団に入ってください。研究所のことはリナさんを信じて、リナさんにお任せしたつもりでした。団員ではなくても、百合園生として仲間達の為にその責任は果たさなければなりません……」
責める口調ではなかった、ただ、鈴子は悲しそうだった。
「私個人を案じていただく必要はありません。役員ではなくても、あなたはあなたが愛する百合園女学院生徒会『白百合会』のメンバーの1人なのですよ……。私に謝罪する必要はありません。どうか、辛い戦いから戻った仲間達に尽くしてあげてください」
「……わかりましたわ」
そう答えて、リナリエッタは警備をしている者達に加わっていく。
団員ではないので、同行は許可されても攻撃は良い顔をされない。応戦は止められはしないだろうが。
勝ち得ることが出来そうだった信頼も失ってしまったようなので、今回は警備の立案も聞き入れてもらえそうもなかった。立場を無視して鈴子を庇おうとしたりしたら大目玉を食らいそうだ。
不自由な立場だ。
「ふーん」
皆に指示を出していく鈴子の姿を見ながら、リナリエッタはいつものようにニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「マスター……」
ちょこちょこと、南西風 こち(やまじ・こち)がリナリエッタの後に従う。
風邪を引いたせいで、課外活動に参加することが出来なくてこちは残念な思いをしていた。
遺跡は危険だとリナリエッタは言っていたけれど、リナリエッタのことも皆のことも守りたくて、ついてきたのだった。
鈴子とリナリエッタの会話の意味はよくわからなかったけれど、鈴子がリナリエッタに悲しそうな目を向けていたことに、悲しい気分になっていた。
「……守ろうとした、のに、いらないって、言われたのですか……?」
ポツリともらした言葉に、リナリエッタは首を横に振る。
「そうじゃないのよぉ。団長は超が10個つくくらい、真面目なのよぉ〜」
ニヤニヤ笑みを浮かべながら、リナリエッタは警戒の役目を果たしていく。
「遺跡はどのような状態なのでしょう?」
メイドの高務 野々(たかつかさ・のの)が鈴子に近づいてそう尋ねる。
「古い遺跡ですので、倒壊の危険があるため封鎖されています。ですが、冒険者が頻繁に入り込んでいるようです。つまり、見える範囲には宝などはないはずです。怪物などは住み着いていないようですが、鼠など小動物や虫は沢山いそうですわね……」
「つまり、私の出番でしょうか!」
野々はパタパタと高級はたきを振り回す。
「頼りにしています」
鈴子と野々はくすりと笑いあう。
だけれど、お互いに本当は余裕などない。
野々はつい、勇んで……いや、焦りから鈴子の前へと出てしまう。
自分に出来ることはあまりないけれど、準備は十分整えてきた。
野々は情報を得るために、皆の役に立とうとする。
鈴子の下には次々に協力者達が訪れていく。
「今回は随分沢山封印解除に集まったね」
レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)がパートナーのミア・マハ(みあ・まは)と共に、鈴子の下に歩み寄った。
「嘆きのファビオの身柄は敵側が確保しているって話だけど、封印の場所や解き方まで敵が知っているとは限らないよね。知らないんだとしたら、こちら側を泳がせて場所を突き止めようとする可能性もあるし」
レキの言葉に、鈴子がハッとした顔を見せる。
「パートナーのミクルさんの容態が回復したのも、それが理由とも考えられますね」
「うん。考えたくはないけど、内通者がいる可能性もあるし、油断は禁物だよね。団長達は確保に動くだろうから、ボク達はアユナさんにカモフラージュで身を隠しながら付き添っているつもり。封印を解けるのは彼女だけみたいだし……」
後方をとぼとぼと歩いているアユナに、レキは目を向けた。
「あからさまに警戒していたのでは、逆に敵にこっちを見てくださいと言っているようなものじゃからな。妾はいつもどおりのんびり構えていくぞえ」
ミアもちらりとアユナを見た後、そう言った。
「あとは、仲間内の合図も必要かもね」
レキは顔を戻すと、鈴子に万が一の際の合図や記号の提案をしておく。
「わかりました。もしもの際に備えて共通の合図と、個別の番号を皆に覚えておいていただきましょう」
団員に指示を出し、簡単な同行者リストも鈴子は作成させる。
「それじゃ、位置につくね」
レキとミアはそれを見守った後、アユナの傍にそっと付くのだった。
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