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第二章 大奥の掟2
大奥には様々な役割と部署がある。
多くは掃除、洗濯、料理、雑用など下働きから始め、家柄や能力、コネ、個人の努力によって上へと引き上げられる。
大抵のものが「御目見え以下」という下級女官で、彼女たちは将軍や姫君に直接お会いすることはない。
厳しい身分社会とこの厳格な職制、彼女たちのような働き手がいるからこそ、大奥は成り立っていけるのである。
「あ、あの。私、今日から大奥で勤めさせていただきます。リース・アルフィン(りーす・あるふぃん)です。よろしくお願いします!」
御台所では先ほどから異様な丼が振舞われている。
リースが作ったものだ。
「デローン丼っていいます。明倫館の生徒の間で流行ってるんですよ」
しかし、女官たちは手をつけない。
緑色の丼が、というのではなく、リースが何者でどの勢力に属しているかのほうが気がかりなのだ。
「派閥なんてどうしてあるの? みんなもっと、仲良くしましょうよ!」
七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が元気よく挨拶し、七瀬 巡(ななせ・めぐる)も握手をしようと手を差し出す。
「そうだよ〜。みんなお友達になろう。ね?」
しかし、女官たちは冷ややかだ。
年長と思しき女官が前に進み出た。
「大奥は公方様にお仕えし、仕事をする場所。いつまでも学生気分でいられちゃ、困るわね。そうだわ、何も知らない新参者みたいだから、色々と教えてあげる」
そう言ってにやりと笑うと、三人とも全裸になるように命令された。
「え、全部?」
「そうよ。大奥に入ったものは身の心も綺麗な証として、裸になって舞を奉納するの。何ぼさっとしてるの! さっさとお脱ぎ!!」
女官たちは「踊れ」「踊れ」とはやし立てる。
そして三人の着物を剥がそうと、襲い掛かった。
別の場所からも泣き声が聞こえた。
「私はホラーなストーリーは大嫌いデスー。止めてクダサイー」
それは女官たちから、よってたかって大奥での怖い話を聞かされているティファニーだった。
井戸から皿オバケがでるとか、城の地下から毎夜啜り泣きが聞こえるとか、そのような類だ。
「お前たち、何をしている。さっさと持ち場に戻れ」
大奥取締役が現れると、女官たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
「あの、ありがとうございます」
リースが着物を手繰り寄せながらおそるおそる礼を言うと、御糸様はじろりと見遣った。
「礼はいらぬ。これが私の仕事だからな。それよりも控えよ。それがこの大奥で身を守る術だ」
「目立つと叩かれるということですか」と、歩。
「ここは大奥、女しかおらぬ。男のいない不満や嫉妬から、いじめはもちろん、他人を貶めることなど日常茶飯事。ときに人を殺めることさえある。心せよ」
「と、とんでもないとこにきちゃったのかな……ボクたち」
巡は破れた着物を見て呆然としていた。
卍卍卍
後に大奥からの報告によると、御輿入れ後の葦原房姫と瑞穂睦姫の挨拶はつつがなく済んだとのことだった。
二人はまるで本当の姉妹のように楽しくおしゃべりし、友情を誓い合ったという。
そして大奥はいつものとおり女官は美しく、平和に過ごしているとのことである。
マホロバ将軍貞継は、その報告をただ黙って聞いていた。
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