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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

リアクション

「待てー!」
 美羽は逃げる賊達を追い、背に飛びつく。
 しかし、通路の幅が狭いため、先を行く者を捕縛することは出来ない。
「地上に出る前に……ですが……」
 ベアトリーチェはブリザードで賊を凍らせよとするが、ここで応戦されると洞窟が崩れ、生き埋めになる者が出てしまう可能性があるため、派手な戦闘は出来ない。
「あとは任せてください! パートナーに連絡は入れてあります」
 優斗が敵を追って、走っていく。
 美羽が1人、ベアトリーチェも魔法で凍りついた1人を拘束し、入ってきた入り口から急ぎ外へ脱出する。

 魔道書を奪った者達――三道 六黒(みどう・むくろ)とパートナーの両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)九段 沙酉(くだん・さとり)は、賊達の手引きでもう1つの出入り口から、地上へと出た。
 場所は荒地にある古井戸だった。空から丸見えな場所であるため、見張られている状態では利用することが出来なかったらしい。
 井戸から飛び出した三道達は足を踏み出した途端、何かに足をとられてよろめく。賊達は派手に転等する。
 塗装迷彩で隠されたロープが張られていたのだ。
「内部の構造的にこのあたりだと踏んでましたよ」
 続いて、罠を張った人物、諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)の放った雷術が、六黒の身体を打った。
 優斗は洞窟に入った途端にパートナーに連絡をいれてあった。パートナーの孔明、と沖田 総司(おきた・そうじ)は逃走された場合の経路を予測しトラッパー、迷彩塗装で罠を張りながらここに張り込んでいた。
「逃げ場はありません」
 龍騎士や仲間から報告を受けた、東のロイヤルガードロザリンドが駆けつける。
 更に、龍騎士に注意を払っていた西のロイヤルガードの樹月 刀真(きづき・とうま)とパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)玉藻 前(たまもの・まえ)。冒険屋のレンノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)もこちらに駆けつけた。
「皆さん、注意してください!」
 ノアは即座に幸せの歌で、皆の闇黒属性への抵抗力を高めていく。
「ロイヤルガード……いや、契約者ども。貴様らはいつから、借り物の正義を騙り、平気で命を奪えるような存在になったというのだ?」
 三道が威圧的に低く言う。
「自惚れるな。正義無き力と借り物の正義の力。賊とぬしらと、何が違う? 主義があれば吐いてみよ。墓碑にはわしが刻んでやろう」
「私達は護るために、戦っています。無益な殺生は行いません」
 ロザリンドははっきりと言い、いつものように大切な人を、弱き者を、仲間を護るために、立ち塞がる。
「綺麗事を通したいのならば、わしを倒して証明しろ!」
 三道が地を蹴り、虚空からギロチンが現れる。
「正義を語った覚えはありません」
 その前に躍り出たのは刀真だ。
 刀真はもとより、正義のために剣を振るってはいない。
 己が親しみを感じる者は大切にするが、それ以外には無関心。
 それでも、以前よりは随分と人間らしくなった。
 ただ、愛する人――御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が目の前で殺されてからは、敵には更に容赦がなくなったようだ。
 ギロチンを剣で受ける刀真。その後ろにいた、前が飛び立ち、三道の上からサンダーブラストを放つ。
 月夜もダッシュローラーで即座に、三道の背後に回りこみ、マシンピストルを用い、スナイプで三道の頭を狙う。
 三道が次の動作に移るより早く、彼の頭から血が吹き出した。
「道を開けてもらおうか!」
 スパイクバイクに乗った男――羽皇 冴王(うおう・さおう)が、ヤンキー6人を連れて突っ込んでくる。
「皆さん、私の後ろに!」
 ロザリンドが前に出て、巨大な盾、ラスターエスクードを構える。
 冴王のスプレーショットがその盾に降り注ぐ。
「降参した方がいいよー!」
 テレサが魔道銃で、ヤンキーを撃つ。1発で、ヤンキーは倒れる。
「お前達の来るべき場所ではない」
 レンもまた、奪魂のカーマインで、ヤンキー達の足を撃って倒す。
 龍騎士団にも警戒を続けるが、混乱に乗じて襲ってくるなどの気配は一切なかった。
 こちらから、龍騎士に挑む者もいない。
 杞憂だったかと、心の中でほっと息をつく。
「むくろ……」
「逃げられませんよ」
 孔明は雷術で三道に走り寄る沙酉を攻撃。
「はなして」
「残念ですが、それはできません」
 そして縄で沙酉を縛り上げていく。
「これだけの契約者……そして、龍騎士を相手に、逃げられると思いましたか!?」
 総司は、刀を魔道書を持った悪路に繰り出していく。
「……ええ」
 軽く笑みを浮かべると、ライトニングブラストを放ち、悪路は後方に飛ぶ。
 続いて、起き上がった賊を総司の方へ突き飛ばす。
 魔法を受けてよろめきながらも、総司は刀を繰り出し、脇腹を貫いて倒す。
 その間に、悪路は冴王の方へと走る。逃げようとする賊を、次々に契約者の方へ突き飛ばし、盾にしながら。
「彼らは魔道書を奪おうとしています。敵です」
 ロザリンドが空に向かって声を上げると、龍騎士団の従龍騎士達が降下しスパイクバイクに乗る冴王に向かっていく。
 悪路は冴王の操るスパイクバイクの背に乗り込んだ。
「うわっ、分が悪すぎるな」
 ワイバーンが近づけないよう、冴王は木の側へと急ぐ。
「仕舞いだ……我が二尾より雷嵐がいずる!」
 前がサンダーブラストを放つ。
 その直後に、上空より現れた一羽のカラスが、悪路の手から魔道書を奪い取り、上昇する。
「……っ」
 雷に打たれた冴王が顔を歪ませ、前と契約者を見る。
「悪ぃね。オレはSなんでこういう囲んでボコられる趣味はねーんだわ」
 そして壊れかけたバイクを走らせる。
「できれば今度二人きりで会おうぜ。たっぷりイイ声で泣かせてやんよ!」
 ヤンキー達も、六道のことも置いて、冴王は悪路と共に逃走した。

「お帰り。よく頑張りましたね」
 戻った使い魔のカラスからホウ統 士元(ほうとう しげん)は、本を受け取る。
 茶色の表紙の書物だった。
 捲ってみたが、中に書かれている文字は読めない。
 古代の文字か、暗号か――。
「おそらく魔道書に間違いないです。あ……」
 パートナーの隼人に電話をしながら、士元は気付く。
 最後のページに、エリュシオン帝国の紋章のようなものが描かれていることに。
「おそらくではなく、確実のようですね。それから」
 士元は空を見上げる。
 龍騎士団の従龍騎士がカラスをつけてきていた。
 士元の手に魔道書が渡ったことも知られてしまっている。
 奪おうとはしてこないが、下手な動きを見せたら敵とみなされるだろう。
 早く仲間と合流した方がよさそうだった。

「北には逃げられそうもねーな。森に入ってバイクを捨てて、トワイライトベルト内に入れば……」
 冴王は悪路を後ろに乗せ、バイクを走らせていた。
 空から追ってくる龍騎士団は、バイクで通れる道を通っていたのでは撒くことは出来ない。
「森には入らせないぞ!」
 そこに、軍用バイクに乗った永谷が駆けつける。
「魔道書は持っていないようですな。遠慮は必要なさそうでござる」
 サイドカーに乗っている世要動静経が、ファイアーストームを放つ。
 激しい炎に包まれ、冴王達の乗るバイクが横転し、2人は地に投げ出される。
「大人しくするでござるよ」
 世要動静経はアボミネーションを発動する。
「畜生……」
「ぐ……」
 動けずにいる冴王と悪路に、永谷が飛び掛り、縄で縛り付けていく。
「敵は龍騎士ではなく、仲間であるはずの――西シャンバラの契約者だったか」
 永谷はきつく2人を縛り上げると、アジト前の龍騎士団員の側にいるに連絡を入れた。

 強奪を試みた三道 六黒(みどう・むくろ)とパートナー達、そしてアジト内に残っていた賊数人は全て捕縛された。
 三道は命をとりとめ、最低限の治療が施された。
 対処に当たった刀真とパートナーには、先日の賊船襲撃時の件も含め、やりすぎだという意見も出ている。
 魔道書は士元の手から隼人に渡った。
 確保したことを知られてしまっているため、隼人は隠さずユリアナに見せて、それが彼女が探していた魔道書であると確認をとる。
「魔道書を欲している理由。……本音が聞きたい」
 隼人はユリアナに、そう問いかけた。
「自分のものを、取り返したいと思うことに、理由が必要?」
 ユリアナはそっけなく答えて、手を差し出してきた。
 隼人は首を左右に振る。
 その答えでは、彼女に渡してもいいのかどうか、判断は出来なかった。
「それならなぜ、取り返さなかった……?」
 尋ねたのは月夜だ。
「不意討ちで殺すなりして魔道書だけを奪えば良かったのではないか? ……お前その魔道書と契約していて力が使えるよな?」
 前が、月夜の言葉を引き継いた。
 ユリアナの眉がぴくりと揺れた。
「誰かが持って出てきてくれたのなら、そうしたかもしれない。だけど、あのアジトにあるという情報は掴んでいたけれど、確証はなかったし、戦力もわからなかった。イコンもなく、単身で乗り込んで勝てるかどうかなんてわからないでしょ。だから、潜入して時間をかけてでも、確実に手に入れたかった、のに……っ」
 ユリアナは悔しげに手を振るわせた。
 ロイヤルガード達の提案通り、ユリアナにもロイヤルガードや龍騎士にも渡さずに、魔道書はこのまま隼人が預かり、ひとまず合宿所に持って行くことになった。

「従龍騎士の皆さんはー。顔はいまいちだけど体格は素敵ねー。龍騎士の青年はー、ぱっとしないけれど、なかなかいい男ねー」
 円とロザリンドの元に戻ったオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)がそんな報告をする。
 彼女は龍騎士の近くに潜んで探っていた。
「顔とか体格だけじゃなくて、何かなかった?」
 円がそう問いかけると、オリヴィアは首をゆっくりと左右に振る。
「それくらいしか報告することないわー。怪しい動きも、怪しいお話もしてなかったしー」
「合宿所に連れていっても大丈夫かな?」
 オリヴィアの話を聞いた円がロザリンドに問う。
「そうですね。一旦お帰り下さいと申し上げても、聞いてくださいそうもありませんし……」
 龍騎士と龍騎士団員達は、空と地上から、契約者達を見張っている。

「とりあえずは、龍騎士さんと争いにならず、よかったですね」
 ノアが依然龍騎士に警戒しているレンに近づいて、話しかけた。
「ロイヤルガードって難しい立場ですね」
 ユリアナを囲んでいる西のロイヤルガード。
 宝の運び出しの指示を出している東のロイヤルガードを見回しながら、ノアは言葉を続けていく。
「多くの人の命や生活を守るだけの力があっても、政治的な理由で振るうことすら出来ない時がある。レンさんがロイヤルガードを目指さない理由が少し判りました」
 レンは何も答えずに、捕らえた賊、龍騎士、ロイヤルガード達に、注意を払い続ける。
(立場に縛られて助けを求める誰かの声に耳を塞ぐようなマネはしたくない、んですよね)
 くすりと、ノアは微笑む。
(銀貨1枚やアップルパイで仕事を引き受けるのも、相手に「仕事を依頼した」という形を取らせることで依頼人の心理的負い目を和らげる為。本当は優しい人なんですよね)
 にこにことレンを見上げるノアに、僅かにレンは目を向けて。
 眉を軽くひそめた後、空の龍騎士団員目を向ける――。

「龍騎士団に怪しい動きは一切ないみたいね。でもなんだか……あの隊を率いているらしい青年。ユリアナさんの方をちらりと見ていたことがあるわね。特に彼女が背を向けているとき」
 皆から離れた位置。合宿所寄りの方から、メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)はアジトと、その周辺全体、広範囲を見渡していた。
 この位置から、デジタルビデオカメラとデジカメを利用して、全体を撮影している。
「ユリアナさんの方も、龍騎士の方を見ていましたね。警戒しているといった感じではありませんでした」
 小型飛空艇オイレを操縦しながら、志位 大地(しい・だいち)が遠くに目を向ける。
 肉眼では皆の表情までは確認できない。だが、望遠機能を利用したカメラには、ある程度、それぞれが浮かべた表情や仕草が残されているはずだ。
 東西のロイヤルガード、契約者、龍騎士団に、賊の残党。それから宝を盗もうとした契約者。
 それら全ての動きを、この位置から大地は青い鳥と共に、カメラに収めていた。
「さて、この映像をどうするかですか……」
 今回の舞台がチェス盤であり、契約者や龍騎士団員が駒ならば。
 大地は騎士の視点で、全体を見たいと考えた。
「優子さんと契約をしたというあの男性。ゼスタ・レイラン。彼は何を考えているのかわからないところがありますから、見せて相談してもよいものやら……」
 かといって、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)に連絡を入れるのもどうかと思う。
 電話くらいはして相談をしたいところだが、ここから携帯電話が使える場所まではかなり距離がある。
「それじゃ、皆もそろそろ撤収するようだし、私達も合宿所に戻る? 温泉も心配でしょ?」
「そうですね。でも、あれから考えてみたのですが温泉のことはもう心配してはいません。……秋葉つかささん。彼女が混浴に反対していたようでしたから、混浴には賛成するのが正しいんですよ……多分」
「そちらも、デジカメに収めてみたら、面白いかもしれないわね」
「正攻法は一切通じなそうです」
 苦笑に似た笑みを浮かべながら、大地は飛空艇のハンドルを操り、合宿所の方に戻っていくのだった。