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リアクション
第2章 チャンドラマハルの死闘【接触編】(3)
まばゆい光が辺りに広がった。
リタ・アルジェント(りた・あるじぇんと)の放った閃光玉……じゃなかった、光術だ。
タクシャカが目を覆ったその隙に、契約者である葉月 ショウ(はづき・しょう)がダッシュで駆け出す。
背中から二対の女王の短剣を引き抜き、二刀流の構え。二刀流スキルはないけど、それでも絶対二刀流の構え。
狩猟解禁に便乗してのハンター気分である。
「ハヌマーンに返せなかった借りの分まで……、ここで暴れさせてもらうぜ!」
「ぬぅ……!?」
未だ目の前が真っ白のタクシャカに貼り付き、しゃばしゃばと短剣を振るう。
チェインスマイトによる斬り払い&斬り上げからの……、アルテマトゥーレを纏った二段斬り1。しゃりんと氷が弾ける中、続いて爆炎波を纏った二段斬り2、そして轟雷閃を纏った二段斬り3。畳み掛けるように回転斬り。
美しく流れる連続技。惜しむらくは二刀流スキルが無いため、致命傷となった攻撃が皆無であることだ。
数字で言うと、会心マイナス50%ぐらい。
とは言え、微弱ながらも電撃が入ったので、タクシャカは変貌が解除された。
「そんなナマクラでわらわの身体を刻みおって……、許さぬぞ………!」
「げ……っ!?」
不穏な気配を察知し、全力で回避。
「悪い、フェル! 部位破壊は任せたぜ!」
「おっけー……って、壊れる部位あんの!?」
腕の一本ぐらいは破壊出来るかなぁ……と思いつつ、葉月 フェル(はづき・ふぇる)が妖刀村雨丸を抜刀。
腰だめからの踏み込み斬り。手首の返しで刃を仰ぎ突き、すかさず斬り上げに繋げる。
それから、集団戦で使うと苦情殺到の斬り払いで後退……しようとしたところを尻尾で薙ぎ払われた。
「うわああ!!」
鞭のようにしなるドスンと重い一発が懐に入り、ごろんごろんと床を転がった。
「フェル! し、しまった……。先に尻尾を斬っておけば良かった」
「と言うか、さっきから何の話をしとるんじゃ、おまえは!」
「はぁ!? 狩りの基本に決まってんだろ!」
「阿呆か!」
これが俗に言うゲーム脳である。
その時だ。
ガッシャアンとド派手に天窓が破れ、ハヌマーンWITHスーパーモンキーズが殿内に乗り込んで来た。
どうして入口からではなく、天窓から来たのか、それはそっちのほうがカッコイイからである。
「待たせたなっ! この俺様が来たからにはもう恐れるものは何もねぇ! 安心しろ現世の野郎ども!」
ばばーんと大げさに見栄をきる、猿山の大将。
ほとんどが呆れた顔を浮かべていたが、唯一一人だけ、口の端を歪めて不気味に微笑む者がいる。
「よく来てくれた、阿呆猿。心から感謝するぞ」
一同がハッとした時には時既に遅く、タクシャカはハヌマーンに変貌を遂げた。
ハヌマーンの戦闘力の高さは折り紙付き、前回の戦いでも多くの負傷者を生んだ恐るべき格闘術の使い手である。
皆が接近戦を恐れて距離を取る中、ショウだけは前々回の借りを返せると、封印解凍と共に飛び出した。
「鬼人化!」
たぶんこの鬼人はマホロバ人とは関係ないであろうことを断っておく。
防御の構えを取るタクシャカの懐に飛び込んで、乱舞乱舞乱舞、ひたすらに短剣で斬りつける。
だがしかし、やはりなんだかヒットするたびに紫の光が出る。偽二刀流の会心マイナス50%は伊達じゃない。
「気が済んだか、小僧……?」
えぐるように入った必殺の『壊人拳』がショウの胸を打ち砕いた。
メキメキと音を立てて肋骨を粉砕し、内蔵にも重大なダメージを与える、力任せの恐るべき秘技。
「あれ……、なにこのデジャブ……」
残念ながらリベンジ叶わず、ショウは膝から崩れ落ちた。
「今までハタから見てるだけじゃったが、大した威力じゃのぅ……、これだけの実力があって何をくすぶってるのか」
「う、うっせぇ! お世話様だよ、バカヤロー!」
と、そこに、不思議な歌声が聞こえてきた。
「ちゃっちゃちゃっちゃちゃちゃちゃっちゃちゃっちゃちゃちゃ……」
「なんじゃ……?」
声のほうを見ると、少し離れたところでリタが禁じられた言葉を口ずさんでいる。どことなくこんがり焼けたお肉の匂いを感じさせるフレーズのような気もするが、実在の人物、団体、事件とはきっと関係ありません。
「ちゃかちゃちゃかちゃちゃかちゃちゃかちゃ、ちゃちゃちゃちゃ、ちゃ」
その瞬間、リタの掌から飛び出した火術が、タクシャカの顔面を直撃。
「じょーずに焼けたですぅ」
「こ……、こ、こ、この小娘がぁ! この手でバラバラに引き裂いてやるっ!!」
イライラが大爆発したタクシャカの前に、ハヌマーンが颯爽と立ちはだかった。
「待て待て待てぃ! てめぇの相手は、驚天動地にして一騎当千、ナラカにその人有りと言われたこの俺さ……」
「長いっ! 壊人拳っ!」
バギボギと絶対にヤバイ音を出して、ハヌマーンは倒れた。
「あ、う……、さ、流石、俺様の必殺技……。あー、だめだ、これイッてるわー、肋骨完全にイッてるわー」
「……なるほど。ガルーダやガネーシャに匹敵する力があっても馬鹿じゃ使いこなせんと言うことがよくわかった」
◇◇◇
「そこまでよ!」
続いて、二刀グリントフンガムンガのローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が戦いを挑む。
「気をつけろ、ローザ。ハヌマーンの実力はそなたも知っておろう」
耳元でグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が言う。
しかし姿は見えない。彼女は隠形の術を使っている。
彼女たちは交互に光学迷彩と隠形の術を使用し、常にどちらかが傍で潜伏する状態を維持して行動していた。
バーストダッシュで一気に間合いを詰め、ローザは二対のフンガムンガで則天去私の斬撃を繰り出す。
「その身のこなし……、おぬし、ただものではないな……?」
「昔取った杵柄って奴よ!」
両者共に高度な戦闘技術を有するため、一瞬の隙ですら命を縮めかねない。
空気が引き絞られた糸のように張りつめる中、不意にローザはずっと気になっていたことを尋ねてみた。
「……ひとつ聞いていいかしら。奈落人ってのは、みんな身体を乗っ取る能力を持っているわけ?」
「何を今更……、クベーラに乗っ取られたお仲間を見ればわかるじゃろう?」
「じゃあ、あなたもその能力を持っているのかしら。何なら、私の身体を使わせてあげてもいいけど、どう?」
「はぁ?」
「実はちょっと興味があるのよ。憑依されたらどうなるのか、ね。あ……、でも、憑依したらあなたの最大の長所、変貌が使えなくなってしまうかもしれないわね。ああ、そうね。そうなると、あなたは怖くて憑依出来ないわよね……」
興味があると言うのは本当だ。
タクシャカが他者に憑依した場合、変貌の能力はどうなってしまうのか、関心がある。
だが、挑発して自分に取り憑かせようと仕向けたものの、彼女(彼?)は小馬鹿にしたように笑った。
「怖いもクソもない。わらわは合理的に動くまで、今おぬしに憑依する必要など無い」
「む……」
流石に挑発に乗るほど愚かではない。
憑依を誘うにはせめて、何かしらの憑依をするメリットを示さないとダメだろう。
「ローザ!」
ライザの声にはっと息を飲む。
目の前には既にハヌマーンの姿はなく、そこにいたのは……自分、ローザマリアだった。
そしてすぐさま、眼前のローザ……いや、タクシャカの姿がフッと消える。
「え……?」
「まあ、それほど自信があるのなら、おぬしの力試させてもらうぞ……!」
次の瞬間、閃いたフンガムンガがバツの字にローザの胸を斬り裂く。
「かはっ……!」
舞う血飛沫。
ローザが使えるなら、タクシャカだって光学迷彩が使えるのは当然のこと。
倒れた彼女から真っ赤なたまりがゆっくりと広がっていく。
「し、しまった……、フィ、フィーグムンド……」
朦朧とする意識の中、悪魔フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)を召還しようと試みる。
しかし、それを許すほど敵は甘くない。
すかさず則天去私の一撃が叩き込まれ、ローザの意識は途絶えた。
「き、貴様……っ!」
ライザは怒りに震え、隠形の術を保ったまま、轟雷閃を乱射する。
だが、敵もまた景色に溶け込んでいるため命中の手応えはなく、更に自分の存在まで知らせてしまった。
「どうやら潜んでいる奴がいるようじゃな……」
とは言え、互いに視認不能の状況。先に仕掛けたほうが居所を悟られてしまうのは必至。動くに動けない。
そんな中、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)はこっそりと倒れたローザに近付く。
「ローザ、大丈夫ですか……。しっかりしてください……」
「う、うう……」
傷はかなり深い。
ジョーは掌に神気を収束させ、命のうねりで傷口を治癒していく。
もっともある程度傷が塞がったところで、失った血が戻るわけではなし、応急処置ぐらいにしかならなかった。
「状況は膠着……、私も援護に回りたいところですが……」
ジョーは虚空を見つめ途方に暮れる。
どこに潜んでいるのかまったくわからない……。
適当に神のいかずちや轟雷閃を空間に放っても良かったが、ライザがどこにいるのかわからないので危険過ぎる。
完全に状況が静止した。
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