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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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 ――ヴェロニカとノヴァの邂逅から数日後。


 ロンドン。
 2021年になってもヨーロッパの主要都市の風格を保つ都市は、突如飛来した「人型兵器」によって、混乱に陥った。
「鏖殺寺院!」
 シュバルツ・フリーゲとシュメッターリンクによって編成されたイコン部隊に、ロンドンは占拠された。
 ロンドンだけではない。
『こちら、パリの現場です。ただ今こちらは――』
 ザーッとノイズが入る。
 この日、ヨーロッパを鏖殺寺院による同時多発テロが襲った。
 ロンドン、パリ、ベルリン、ローマ。主要都市に、大量のイコン部隊が出現したのだ。
『時は来た。今こそ、我々は魔術に支配されたヨーロッパを取り戻す』
 現在の魔法化したヨーロッパを今こそ正す時だ。
 それが、犯行声明の主旨だった。
 もちろん、欧州魔法連合がこれを黙って見過ごすわけがない。だが、いくら契約者や高名な魔法使いとはいえ、大量のイコンの前では成す術がない。
 シャンバラはエリュシオンと硬直状態。下手に動くことも出来ない。
 それに付け入って、鏖殺寺院は武力による強硬手段に出たというのである。
 もっとも、そのためにこれだけのイコンをどこから入手したのかは分からない。だが、この日の前に、やたらと世界各地でイコンによるテロが起こっていたのが確認されている。
 今回のは、その最たるものだ。
 地球の人々には成す術はないのだろうか。

* * *


 ヴァチカン。
「聖下、どうかご決断を!」
 若き契約者の枢機卿、マヌエルは決断を迫った。
「我々の切り札ならば、悪しき者達を退けることが出来ます。今がその時です」
 老人が渋る理由。
 それは、暴力を行使するテロリストに、本当に同じ暴力で報いなければならないのかという疑問だろう。まだ敵は占拠はしたが、殺戮は行っていない。
 今が危機的状況なのは確かだ。だが、武力を持って武力を行使する者を討つのは、かつてある大国が正義を掲げ、戦果を拡大したのと同じ結果になるのではないだろうか。
 それでもマヌエルは譲らない。
 ここで行動を起こさなければ、テロに屈することになる。
 十字架を象徴とする一神教が、ただの暴徒によって追い込まれることになるのだ。
「……止むを得ません。マヌエル、任せますよ」
「はい」
 許可は下りた。
『私だ』
『はい、枢機卿』
 すぐに指示を出す。
『「クルキアータ」を主要都市に一機ずつ、「七つの大罪」から【マモン】と【アスモデウス】を現在判明している鏖殺寺院の拠点へ送り込め。それと、各都市に潜入している救援部隊へ連絡。住民を迅速に避難させろ』
『かしこまりました』
 今こそ、示す時が来た。
 ――『地球』の意思を示す時が!

* * *


 ちょろいものだ。
 ロンドンで鏖殺寺院のシュバルツ・フリーゲを駆るパイロットは、内心そう思っていた。
 ずっとこの日を待っていた。だが、自分達の「結社」は、資金力不足で戦力の補充がきかなかった。
 ところが突然、タダ同然で大量のイコンと、そしてクローン強化人間が贈られてきた。それまでパートナーのなかったものは強化人間と契約し、そしてイコンに乗り込んだ。
 その結果が、今目の前で惑う人の姿だ。
「ついに悲願を達成することが出来るのだ!」
 それにしても、多少契約者がいるだろうとはいえ、一都市につき十機はさすがにやりすぎたか。
 感極まったそのとき、機体のセンサーに未確認機の反応があった。
 姿は至ってシンプルだ。
 赤を基調とした機体に、シールド、そして銃。
 だがそれは、どことなく『騎士』をイメージさせる佇まいだ。
「どこの所属かは知らないが、一機で俺達に挑むとは」
 このまま街を破壊したっていい。
 ただ、行き過ぎた殺戮はかえって後に響く。
 なに、たかが一機だ。
『全機に通達、連携して未確認機にあた……』
 通信を送ろうとした時には、もう遅かった。
 たったの一機に、既に半分が墜とされている。敵が理解出来ないほどのことを行っているからではない。
「なんだよ……一体。なんなんだお前はッ!!」
 シュバルツ・フリーゲに比べれば恐ろしいまでに機体の駆動音が静かだ。それでいながら、機動性はこちらよりも高い。
 だが、あの実体盾。こちらの機関銃はあれに一切通用しない。
 そして、向こうの銃撃一発で、こちらはコックピットを容易に打ち抜かれる。
 気付いた時には、自分以外が全滅している。
「おおおおおおおおお!!!!」
 やけになって機関銃を乱射するが、傷一つつけられない。
 いざ死を前にして、男は冷静になった。
 どうしてここに来て、一気にイコンが流れてきたのか。
 そして目の前のこちらの性能を遥かに凌駕する機体。
「くそ……俺達は、嵌められたのか!」
 それが彼の最後の言葉となった。

 その謎の赤い機体が確認されてから十分もしないうちに、ヨーロッパの各主要都市は解放された。
 その『救世主』の正体を、世界はすぐに知ることになる。

* * *


 中東、某国。
「第二セクション、応答なし」
「第三セクション、侵入者を確認」
 地下に隠された鏖殺寺院の基地は、危機に見舞われていた。
「外部と連絡が取れません!!」
「敵は、数はどれくらいだ!?」
「……女です。女一人」
「バカな……!」
 一瞬だけ映像に映し出されたのは、美女だった。
「ごきげんよう、皆様」
 日傘を持った女性が笑顔で制御室に入って来た。
「今日は残念なお知らせがあって参りました。あなた達は、平和を乱す悪の組織として、ここで潰えることになりましたの」
 このどう見ても戦闘なんて柄ではない女性に、基地の人間のほとんどをやられたというのか。
「周りを見てから言うんだな!」
 六人分の銃口が女性を向き、次の瞬間には発砲されていた。
「あらあら、女性に向かって大の男が、銃なんて。それも、六人がかりですの?」
 無傷。
 手に持っている日傘を開いただけ。
 それだけで、銃弾が全て無効にされたのだ。
「最後に、何か言い残す事はございますか?」
 女性がいつの間にかレイピアのようなものを握っていた。
「ば、化け物!!」
 言い終えたとき、男は心臓を貫かれて絶命していた。
「レディに向かって化け物なんて。ひどいですわね」
 女性――ミス・アンブレラが全員の死亡を確認すると、基地の外へと出た。

「あら、今度はか弱い女性をイコンで囲むおつもりですか?」
 外へ出た瞬間、イコンの機関銃の集中砲火が浴びせられた。
「もはやなりふり構わずですわね」
 確かにイコンの攻撃を一発でも浴びれば身体はバラバラだ。だが、どうやら数に頼ってるだけで、乗ってるのはただの素人のようである。
(さて、そろそろ来る頃ですわね)
 その時、上空から一機のイコンが飛来し、着地した。
 ヨーロッパの各都市で目撃されている赤いイコンの同型機。しかし、それに比べわずかに曲線をかいたような女性的なフォルムで、武器はレイピアだ。
「さあ、いきますわよ――【アスモデウス】」

* * *


『終わったかい、ミス・アンブレラ?』
 戦いは、本当に一瞬といっていいほどの速さで終息した。
『ええ、終わりましたわ』
 機体から降りて、倒した機体の残骸を見つめる。
『はは、さすがだよ。ちょっと倒される方に同情しちゃうな』
『少し、黙って下さい。わたくし、今少々気分を害しましたわ』
 天住との会話を終える。
「空しいですわね。なんでしょう、この気持ちは」
 これも自分達が世界を変えるためだ。
 だが、いつからか、心にもやがかかったような状態になってしまっている。

「わたくしもまた、まだ舞台の上で踊らされているだけに過ぎないのかもしれませんわね……」