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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第十二章(第二回終章)

 
 
 防衛戦を終えた後の、クレセントベース・本部。
「基地は守りきったですけれど……」
 と呟いたのは、沙鈴教官。
 勿論、瓦礫の撤去は、香取司令官含め現在とり行っているところ。
 
 
 海軍が、独断によるエリュシオン軍港攻撃を成功させて、戻ってきた……
 シクニカを占領中だっていうシャンバラの生徒たち(恐ろしい子たちですわね)から、連携を求める書状が送られてきた……
 シクニカは帝国と戦争。それから、連れ去られたザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)候補生の行方が、わからない……シクニカに、と思われたが、シクニカは上述通りシャンバラの勢力が占領するところとなったので、とすれば連れ去られる先は他に……? そして一体どうしている……どこかの勢力から、人質をとったからどうというようなことも送られては来ないし。まさか、殺されて……いえ。そんなことは。
 
 ともかく、問題が、山積みですわね……。
 
 それはまたどこの地域においてもそうであった。
 第二回終章では、浮かび上がってくる核心部分や新たな展開を含みつつ各所の続きを見ておくことになる。 
 
 
 
クィクモの裏側で
 
 クィクモに駐屯する、教導団の【龍雷連隊】。レイヴ・リンクス(れいう゛・りんくす)は松平隊長に北面の警戒を言い渡されたのであった。
 松平の部下ファルコン・ナイト(ふぁるこん・ないと)が、レイヴに再度よく言い聞かせている。
「いいか。レイヴ。ジャジラッドのごとくな凶悪犯が、パワードスーツに化けてクィクモ乗っ取ろうとする可能性などもある!」
「は、はい。ファルコン先輩」
「いいか。レイヴ。彼ジャジラッドは三メートルの巨体で顔面は悪人面。全身黒色。そういう輩を見つけたら、この場で逮捕していくんだ」
「は、はい。ファルコン先輩」
 ファルコンは、ろくりんピックのテロの件や、フマナでファルコン自身が凶悪犯を逮捕した経歴があることなどを粛々レイヴに語り、「軍港には岩造やフェイトや武者鎧がいる。南の守備にはこの私がいるぞ。そして北には、君がいる。任せたぞ」と言い持ち場へ去っていった。
「は、はい。ファルコン先輩……」
 レイヴは、北門に三十名の兵を哨戒部隊として配備し、二十名の兵をクィクモの町北部に置いてテロや、強盗略奪などが起きていないか、警戒にあたらせた。
「だけど、クィクモにはもともとの警備兵もいるし、治安もコンロンにおいては比較的安定し、自治を保ってきたのじゃないかな」
 同じく共に警戒を強めているクィクモの警備隊とすれ違っていく。びしっと挨拶を交わす。
 「イコン見にこうぜー」とか言いながら、港の方へ走っていく、クィクモの子どもたち。
 レイヴは微笑ましく思う。そしてこういう民間人の人たちを争いに巻き込み傷つけたくはないと。
 それから、教導団に雇われてやってきた傭兵連中。
 多くは、戦場に移っていったが、傭兵をまとめる湖賊らとクィクモに残り、港の警備を担っている者もいる。
「気の荒い人たちもいるから、それこそ問題起こさないといいのだけど……?」
 そんなところ、
「すまない。少々尋ねたいんだが、この町に腕のいい医者はいるか? いや、ちょっと医学を勉強しにきたんだがな……」
 街角で住民に尋ねている者。
「このようなときに、この地へ勉強に?」レイヴはふと足を止める。あれ、あの人は……?
「そっか。あらかたは、教導団と施設の方に集められているのか。小さな町医者なら残っているが……
 俺もこうしちゃいられない気もするんだが、どうしても治したいやつがいるからな。そのために少しでも見聞を……もちろん、戦闘になったら、駆けつけるが」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)なのであった。
「やっぱり、傭兵募集で来た人か。任務の合い間、見聞でも広めているということかな」
 レイヴが去ろうとしたとき、次に聞こえた会話にまた立ち止まる。
「何。もぐりの医者? クィクモにも、そんなのもいるんだなぁ!」
 ラルクの陽気な喋り方なのでしっかりと聞こえてくる。
「しっ。旦那静かに。興味があるなら、こちらですぜ」
「ようし。見聞のためだ、ちょうどいい。案内してもらうぜ」
 レイヴは、一度何気ないふりで行き過ぎ、ラルクを目印に(あの人、目立つものなぁ……)そっと後をつけていった。
 入り組んだ街路を巡った後、裏通りめいたところへ入っていく。いかにも怪しいのは怪しい。クィクモにもこんなところはあるのだな。
 ヤバイ薬なんかを取り扱い、売り捌いているグループのようであった。このような輩は、クィクモにも、いや発展した都市ならばどこにでもいる、か。レイヴは物陰に隠れる。
 だが、そこで見た男は異様であった。
「なに、わしは『正義』とやらを掲げる奴らの性根が気に食わぬだけよ」
 グループの連中が、このどうやら外部からの来訪者らしき男にへこへことしている。
 歴戦を思わせる重厚な鎧に、大剣を携え、髭を蓄えた巨漢。いかにも威厳と、それにえもいわれぬ邪悪を感じる。
 この男――
 三道 六黒(みどう・むくろ)なる男であるのだが、
「一体何を目的に、このようなグループに接触している?」
 レイヴはぐくんと唾を飲んだ。相手は小物に見えるが、この男は違う。それに、男の両脇に控える二人。
「午前三時の狂ったお茶会。ここでは何でも揃えてみせましょう。
 すでに私たち。用意は整っております」
 帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)。芝居がかった口調だがどこか威圧の雰囲気が込められている。
「ふっ。この悪路の策に乗りますか?」
 悪路。両ノ面 悪路(りょうのめん・あくろ)。こちらは知者の話し振りだ。
「エリュシオン、シャンバラ、共にコンロンへ侵攻を進める者たち。
 彼らが我が物顔で歩く姿、それを見た貴方がたの気持ち……言い当てましょうか? 『ムカつく』ってやつです」
 その語調は徐々に口八丁を増してくる。聞き捨てならないぞ……とレイヴは成り行きを見守る。
「それを迎え入れている軍閥に対しても……同じ気持ちを抱いてはいませんか?
 いえ、何。ただの想像ですが」
 しかし、その口調には自信と、そして言葉で相手を押す高圧的で且つ相手を刺激するものが感ぜられる。
「軍閥の数は、まだまだ増えても宜しいのではないでしょうか?」
 これは……テロだ。テロに発展する、可能性が……レイヴは、ばくばくと心臓が鳴り始める。
「は、はいそりゃあもう、あんな教導団のような連中。それにクィクモのトップも、あのようなのを引き入れまして……
 し、しかし私らのようなのでは所詮……」
 斬! と、六黒は大剣を抜き、それを床に突き立てた。
「ひ、ひィィィィきょ、協力致しますっ。あなたさまのようなお方々なら、教導団を追い払えるのでは?」
「もっと仲間が必要だ。地下で同じようなせこい商いをしている連中を、皆教えよ」
「し、し、しかし、ここクィクモはなかなか取り締まりも厳しい方でして。
 ヒクーロやシクニカであれば、色々とやばめのつながりを持っている者らもおったのですが」
 がしゃぁぁん。
「ひ、ひィ?!」
「何だ……」
 音がしたのは、隣の部屋だ。レイヴも突然のことにびくつき思わず声を上げそうになった。
「俺はなァ、真面目に医術を学びにきたんだ! こんな人を惑わすヤバイ薬とか、んな紛い物はいらねえんだ! 帰るぜ」
 バタン。扉を開けてこちらへ入って来たのは、ラルクだ。
「おお? なんだ、なんだ?」
「客だよ。わしらは。こういう物を必要とする者、こういう世界でしか生きていけぬ者もいる、ということよ。
 悪は必要な物也。やり合うのか、このわしと」
「……いや。そういうつもりじゃねえ。言っていることは、俺にも理解できるがな?
 今の俺とは関係ねえってことだ。と、なんだ部屋を間違えたのか。帰り道はどっちだ」
 店の男がへえあっちでさ、と指差す。
 レイヴもこの隙に身を隠しながら店を出た。
 六黒は、
「悪路。どうする、ここだけでは難しいか」
「ええ、私はヒクーロの方に手を伸ばしてみましょうか」
「ではこの尾瀬は引き続きクィクモで暗躍致しましょうか? それとも?」
 
 この会話をもう一人、身を潜め聴いていた者がある。鬼院尋人のもと、不審者の警戒と追跡をしていた呀 雷號(が・らいごう)だ。「やはりあの男。……」