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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第2回)

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別章 コンロンの世界樹(3) 世界樹を巡る思惑

 
 
教導団世界樹班とブルタさん 出発
 
 コンロンの世界樹・西王母。
 それぞれの思惑――純粋な興味、強大な力への固執、戦略的な駆け引き、などなど――から、ユーレミカへと先行する者達がいた。
 「ふふり。行くでありますぞ。西王母を制するのはワテら、教導団世界樹班であります」
 第四師団軍師マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)が高らかに宣言した。
「いつの間にそんな班が。そして、私たちも組み込まれているのですね。……何故ですか。マリーさん」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が真っ当な疑問を口にする。
 そもそも、メイベルはコンロンの世界樹である西王母に興味を持ち、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)
ヘリシャ・ヴォルテール(へりしゃ・う゛ぉるてーる)、女4人で湯煙旅情と洒落込むつもりで北を目指していたはずなのだ。
 ところが、道中で次々と道連れができ、気付けば10人を超す大所帯である。
「えーと、カナリーちゃん、マリちゃん、ドーマンセーマン」
 と、カナリー・スポルコフ(かなりー・すぽるこふ)が指を折れば、その後にフィリッパとセシリアが続く。
「わたくしにメイベル様」
「僕とヘリシャちゃん、カッティちゃん」」
「はーい」
 元気よくカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)が手を上げた。
「十一アル」
 とイレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)。ちなみにそれが正しいコンロン訛りだという確証はまだない。
「九――じゃないわ。ナインよ……ところで、これ最後までやるの?」
 思わずつられたナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)が我に返って場の空気に突っ込む。
 が、その時には最後の一組が口を開いていた。
 いつもの如く迷った末に一足早くこの町にたどり着いていたグロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)
「あとは私、グロリア・クレイン、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)の三名です。
それから――」
 と、グロリアは言葉を濁した。
 視線の先では。
「そ、その他……帝国、あ、アメリカ、龍騎士、い、イコン……」
 どこから運び込んだのか。みかん箱を前にビン底眼鏡がトレードマークの中性脂肪もといブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)
原稿用紙を凝視してぶつぶつと何かを呟いていた。
 うっかり捕虜となってしまった薔薇のイエニチェリは軍師の命令で作文の真っ最中である。
 グロリア達の視線に気付いたブルタはにたりと不気味な笑みを浮かべた。
「……ふ、ふふふ。ボクをかわいそうだと哀れんで――」
 口癖のようなその台詞を言いかけたブルタだが、頭上で揺れるダリ髭に向って叫んだ。
「こ、この状態で作文なんか書けるわけないじゃないか!?」
 そう。ブルタの身はこれでもかと言うほどきつく縛られていた。いわゆるぐるぐる巻きである。
 これで文字が書けたら、彼には念写能力があることが証明されるだろう。
 だが、原稿用紙はまっさらのままである。
 マリーはダリ髭を扱くと肩を竦めて、『撲殺』の二つ名を持つ少女たちに声をかけた。
「残念であります。――先生、お願いします」
 すちゃっとフレイル、メイス、モーニングスターが構えられる。
「ヒ、ヒィィィィ」
 潰れたような悲鳴と鈍い音が辺に響き渡った。
 
 
「マリーさんはブルタさんをどうするつもりなのですか? 西王母への捧げ物ですか?」
 巨大なたんこぶを眺めながら、セシリアはふと疑問を口にする。
 ふふりという含み笑いが、それを肯定した。
「……流石にそれは不味いかと思います。西王母の方で拒否して――」
「いいえ。ブルタさんは純潔なイエニチェリ――ワテが薔薇のハーレ……ともかく保持すべき貴重な存在であります!」
 透けて見えそうな本音をごまかすようにマリーは声を張り上げた。
「――教育的指導(お仕置)も完了しました。
 ワテら13名とブルタさん(乗り物カテゴリ)、教導団世界樹班、出発であります!!」
「えー。違うよ。マリちゃん。イレブンさんのPMR(パラミタミステリー調査班)だよ」
 右手横ピースでキラっとやりかねない勢いでカナリーが見当違いなツッコミを入れれば、
「いいや。どちらというといい旅○○気分だ」
 と、イレブンが更に混ぜっ返す。
「えぇぇーい!! そんなん、どっちでもいいであります!」
 早急に出発しようとするマリーを蘆屋 道満(あしや・どうまん)の渋い声が止めた。
 不満そうに片眉を吊り上げるパートナーに道満はニヒルな笑みで応じる。
「……フ。待て、マリちゃん。オレはここに残るという話だろう。
 後続――本営との連絡線保持は先発隊にはかかせまい」
 本来なら誰か適任者を探すところなのだが、適任者がいないため道満自らが残る形となっていたのだ。
「私もそのことをマリーさんに相談しようと思っていました。さすが、私たち第四師団の軍師ですね」
 どうにしかして本営に報告を入れたいと考えていたアンジェリカが真っ先に賛同の意を示した。
「本営からの援軍もあるはず。前線には中継基地が必要不可欠なのだよ。……フ」
「いいであります。その策や良し。他の者はワテに続けー!!」
 三度目のなんとやら。マリーがはちきれんばかりの胸とダリ髭、弁髪揺らして号令をかけた。
「よし。ここは軍師を信じよう。――騎狼部隊モフモフ班集合せよ!」
 イレブンは口笛を吹く。
 甲高いが響きに応えるように、雪煙を上げて騎狼、犬、狼、デビルゆるスター(とっとこマラ太郎くん)、スライムら
モフモフ班が駆けけてきた。
 一部モフモフでない気がするが細かいことは気にしてはいけない。
「そして、秘密兵器ミニ雪だるまっ!」
 騎狼ぞりならぬもふもふぞりの上には、なぜか小さな雪だるまがちょこんと乗っかっていた。
「ブルタ氏(乗り物カテゴリ)もモフモフ班と仲良くしてくれたまえッ」
「みなさん、これをどうぞなのですぅ」
 ヘリシャが全員に真っ白なマントを配る。点呼コントの間に町で仕入れてきたものだ。
「ユーレミカまでは雪原ですぅ。雪に紛れて進んだ方が、きっといいですぅ〜」
 目的地の軍閥――ユーレミカには西王母を守護してきた者と思われる妖しい頭巾の集団がいるとの情報もある。
 土地の者との争いを良しとはしていない教導団だが、世界樹班は西王母について何らかの行動を起こす意思があるのもまた事実。
 相手がそれを敵対行為だと受け止めれば争いは避けられないだろう。
 ならば隠密裏に都市に入るのが得策というものだ。
 マントを纏いながらナインはは自分達以外にもユーレミカを目指す存在を思い出し、舌打ちした。 
「――メニエス達もいたわね。……もたもたしていられないよ」
「そう言えば――」
 メイベルも道中のどこかで耳にしたような気がするステロな悪役を地で行くような笑い声を思い出す。
「どこかでジークフリートさんの声を聞いたような……」
 インスミールでありながら、今回のコンロン出兵に協力を申し出た魔王軍。
 その中の一人ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)騎凛 セイカ(きりん・せいか) の救出に向ったが、
彼女たちを率いるジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)は他の者を連れて北に向ったとの情報がある。
「元インスミールのブルタさんを御すには現インスミール。
 わてら教導団に協力を申し出たのです。発見次第、招聘させていただくであります。ふふり」
 軍師の、そして従う者たちの思惑はどこにあるのか。 
 ともあれ、道満を雪原の町に残して、教導団(一部除く)はユーレミカに向けて出発したのであった。