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話をしましょう ~はばたきの日~

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話をしましょう ~はばたきの日~

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「面白いことになっていますわね☆」
 レンと天音から連絡を受けて立ち寄ったラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)は、ヴァーナーと共に囲まれている天音と目で挨拶を交わした後。
 隅の席にいるレンへ近づいて、「失礼しますわ」と、腰かけた。
 ちなみにこの時点では、天音もヴァーナーのリクエストに応えて、猫耳メイドへと姿を変えていた。
「ゲームしませんか? 猫耳メイドと指相撲にゃん♪」
「じゃけんに勝ったら、ジュースサービスするにゃん☆」
 ミクルや美咲が猫耳メイドとして接客に回っている。
「あなたは猫耳メイドになりませんの?」
 ラズィーヤは満足そうに店内を見ながら、レンに問いかけた。
「優子さんや、ゼスタ・レイランさんもなっていますのに」
 にこにこ微笑みかけるラズィーヤ。
「場を白けさせるわけにはいかないだろ。代わりに、ノアが頑張ってくれている」
 レンの視線の先にいるノアは、ミクル、美咲達に混ざって、皆をゲームで楽しませていた。
「そうですか。でもね、自ら踏み込まないと解らないこともありますのよ。ですから……」
 女装道具をご用意していつでもお待ちしてますわ。と、ラズィーヤは悪戯気な目でレンに言うのだった。
 レンは大きくため息をつくけれど。
 困った表情ではなく穏やかな目で、ラズィーヤの言葉と、その場の雰囲気を楽しんでいた。

「実は、クッキーを焼いてきたんです」
 アレナの隣に移動してきたマリーは、焼いてきたクッキーを彼女の前に広げた。
「ちょっと甘めにしたのですが、どうでしょう」
「ありがとうございます、いただきます」
 呼雪が作ってくれたスイーツを大切に食べていたアレナは、お茶を一口飲んだ後で。
 マリー焼いてきてくれた、星形のクッキーを一つ、食べた。
「美味しいです。甘さもちょうどいいと思います」
「ん、まあそれなりの味?」
 ローリーも横から手を伸ばして、もぐもぐ食べ始める。
「そうですか、良かったです」
 ほっとした笑みを浮かべてから。
 マリーもお茶を飲み、クッキーを食べながらアレナと話をしていく。
「アレナさんは進路、どうされるつもりなのですか? 噂によると、卒業を考えてらっしゃるとか?」
「はい……。色々ありまして、高校を卒業した後は、空京に行こうかなと、今は考えてるんです」
「空京……もしかして、女王陛下のお傍とか?」
 マリーの問いに、アレナは首を縦に振った。
「十二星華は、元々女王様の親衛隊ですから。アムリアナ様のお力を受け継いだ、アイシャ様にお仕えするのが、自然だと……思うんです。あ、十二星華だから、というわけではないですし、その力もないような、ものですけれど」
 アレナは少し、寂しげな笑みを浮かべた。
「剣の花嫁のロリちゃんにとって、じゅーにせいかをナマで見たことないころは漠然と雲の上のすんごい人と思っていたんだけど、初めて見たじゅーにせーかのアレナちゃんは、えーと、地味? で、もんのすごーくフツーで、でもすごく優しい人でしたのだよ」
 ローリーはお菓子を食べる手を止めて、アレナにそう言った。
「普通、ですか?」
「まさかズィギルにまであんなにやさしいとは思わなかったけど、その底抜けなところがアレナちゃんのいいとこじゃないかなっ? うん、だから頑張って! ううん、頑張らなくても、傍に居る人が嬉しいって思える存在かもね」
 ローリーの言葉に、アレナは戸惑いつつも「ありがとうございます」とお礼の言葉を発した。
「ご自分で決められた道なら、何も申し上げることはありません」
 マリーはそう言って、お茶を飲み、ほっと息をつく。
「はい。マリーさんは、ずっと百合園生を続けるのですか?」
「そうですね、わたくしは、認定専攻科に興味があります。専攻科ということは……まずは百合園生として立ち位置を決め、十分に学業を修めてからの進学先という認識なのでしょうか」
「優子さんの話では……」
 アレナは、専攻科に進学する優子から聞いた説明を、マリーにしていく。
 百合園女学院に設けられる認定専攻科とは、要するに短大しかない百合園に、残りの大学2年分の課程を学ぶ場を設ける、ようなものだ。
 百合園短大で学んだ者達は、他の4年制大学の3年に進学するよりも、よりスムーズに学んできたことを深く履修することが出来る。
 そして、認定専攻科では大学を卒業した時に認定される学士の学位の取得を目指すことが出来る。
 更に、日本の教員免許の取得も目指すことが可能だ。
 ただ、パラミタの学校では日本の教員免許は特に必要はない。
 日本出身の学生が多く在籍しており、日本の教員免許の取得を望んでいる者も少なくないため、そのような制度を設けることとなった。
「進学される、のでしたら……。優子さんをよろしくお願いします」
 アレナはマリーにぺこりと頭を下げた。
「女王様のお傍に行かれるのですか」
 後ろから響いてきた声に、アレナは振り向いた。
 ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)、だった。
 一緒に猫耳メイドをしていたのだけれど、忙しすぎて今まで話をする時間がなかった。
「後でゼスタ様にも相談しようと思っていましたが……」
 ユニコルノは少し迷いながらもアレナに自分の考えを語りだす。
「私、春から若葉分校に通いたいと思っているんです」
 今まで、呼雪の従僕同然に生きていたけれど。
 女子として学校に通ってみたいなと……思うようになったこと。
 自分として生きる道を探すと、決めたこと。
 それで……。
「アレナさんも改めて、一緒に通ってみませんか? 勿論毎日とかではなく、空いた時間に顔を出すのでも良いと思います。携帯基地局や電話室が設置されて新しい方も増えたでしょうし、百合園の生徒さんも顔を出されていると聞きますから」
 アレナには、卒業しても人とのつながりを断って欲しくない。そう思うから。
「若葉分校には、通いたい、です。ユノさんがいるのならなおさら……でも、これからは特に、独りでは大荒野にはいけない、ですから。誰かと一緒の時だけになってしまいますけれど。誘って、くれたら嬉しい、です」
 アレナはユニコルノにそう答えた。
「それでは、お誘いしますね」
 ユニコルノのその言葉に、アレナは微笑んでこくりと頷いた。
「アレナおねえちゃん」
 沢山のお菓子や、スイーツを戴き、可愛いお花を飾って貰って、幸せな気持ちでいっぱいのヴァーナーがアレナに笑みを向けた。
「空京にいっちゃうんですか? 優子おねえちゃんとは、また別々に暮らすんですね……。ちゃんとなかよくできてるですか〜?」
「……はい、仲、いいと思います。ここ数年は、そんなに一緒に居られること、なくなっちゃいましたけど」
「たまに会ってうれしいときとか、うまく言葉が出ないときは、ハグとチューでぬくもりコミュニケーションなんですよ〜♪」
 と言ったかと思うと、ヴァーナーは天音をぎゅっとハグして実演してみせる。
 優しく抱き返してくれた彼の頬に、ちゅっと口づけて、凄く嬉しそうに微笑み合う。
 それからアレナにも。
 好きという言葉も、大切という言葉も語らずに、ハグで想いを伝えていく。
「ありがとうございます。嬉しい、ですよね。こういうのって。……あ、でもですね」
 アレナはヴァーナーに真剣な目で言う。
「私は子供じゃないので、特別な人以外の大人の人には、抱き着いたりしたら絶対ダメなんだそうです……。あと、携帯の番号教えたり、お菓子や玩具をあげるからと言われても、ついていったらダメなんだそうです。ヴァーナーさんももうちょっと大人になったら注意した方がいいですよ」
「んー、わかったです。大人になったら気を付けるですよ」
 そう答えるヴァーナーだったけれど、天音も呼雪も、ここにいるみんなみんな。
 特別な人だから、気を付けることはなにもないかなと思うのだった。
「ありがとです。みんな、ありがとうですー」
 ヴァーナーは大切な人達に、ハグとちゅーをして回る。
「おかえり、ヴァーナーちゃん」
「無事でよかった」
「笑顔が見れて嬉しい」
 沢山の喜びの声と温もりが、ヴァーナーを包み込む。
 ちょうど店にいた、静香やクリスティーも顔を出して。
 遅れて訪れたエメや、土産を持って訪れた康之も合流し、より賑やかになっていく。
 ヴァーナーは皆からもらったプレゼントや料理を前に、猫耳メイドの天音とゼスタと一緒に写真を撮ってもらったりして大喜び。
 カメラマンはゼスタの他、源三郎が務めた。美咲の希望で、客だけではなく、執事もメイドも料理人も一緒にカメラに収めていく。
 疲れを忘れて楽しんでいたけれど、親しい友人が身体を気遣って。
 パーティは遅くならないうちにお開きになった。
 お花や、お土産と、沢山の笑顔と一緒に、皆帰路についたのだった。