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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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【4】天宝陵『万勇拳』ここに有り!……3


「黒楼館館主、幻魔無貌拳のジャブラ・ボー、さぁ、覚悟を決めろ!」
 風森 巽(かぜもり・たつみ)は一陣の風となって竹林に足を踏み入れた。
 しなる竹を足場に変え、ジャブラを撹乱するように、林の中を縦横無尽に飛び回る。
「ふん、万勇拳は死体の山を築くのがよほど好きと見える。そんなにも、俺にくびり殺してほしいのか?」
「死ぬために一歩を踏み出す人間はいないっ!」
 巽は彗星の如き飛び蹴りを放った。
 命中するその直前、再びジャブラは光学迷彩で身を隠し、竹林の闇の中に消えた。
 林のざわめきに紛れ、今度はジャブラから巽に迫る。前方から、後方から、撹乱しながら間合いを詰める。
「五感を研ぎ澄ませろ。相手、自分、全てを感じるんだ」
 巽は、心、空にして、自然と一体となる。
「……見切った!」
 カッと目を見開き、闘気を右脚に集中。振り返る勢いも味方にして、背後の虚空を蹴り上げた。
「万勇拳奥義『舞蹴・河岸潰堤』!!」
「!!?」
 次の瞬間、胸に突き刺さった一撃に、悶絶するジャブラの姿が現れた。
 敵の気の流れを塞き止めるその蹴りは、彼の守備の要でもある龍鱗功を一時封じ、そのまま上空に蹴り上げた。
「ぐあああああ!!」
 竹林から飛び出し、黒楼館道場の屋根に叩き付けられた。
 それを追って、巽もまた跳躍する。
「飛龍乗雲……。才ある者に時が味方し、勢いを得る……。本当に強い奴にはのは、運の方から勝手についてくる」
 その身に気が満ちる。
「だから『運が味方する』と言うのさ!!」
 万勇拳の奥義である『鋼勇功』と『自在』、この2つの特性を合わせ、右手を煌めく刃に変える。
「土生金! 金剛両断……! 即席奥義『重琥守刈刃』!!」
 振り下ろした手刀は、ジャブラの防御を突破し、屋根ごと一文字に斬り裂いた。
 ジャブラの肩から鮮血が散った。
「が……! き、貴様ぁ……!!」
 屋根に降り立った巽に、ジャブラは怒濤の龍乱撃を繰り出す。
「剛には柔を持って相対すべし! 金生水! 万勇拳奥義『豪流旋蓮華』!!」
 烈火の如き猛攻を、大河のように流し、後方に投げ飛ばす。
「そんな小細工、俺には通用しない!」
 ひらりと着地を決め、龍は再び牙を剥いた。
「五行の力、我に加護を……! 水生木! 木が誘うのは雷! 青心蒼空拳奥義『晴天霹靂掌』!!」
「さかしいぞ、小僧!!」
 掌に宿した稲妻を密着状態から解放する秘技。
 だがしかし、ジャブラの繰り出した龍牙掌とぶつかり合うなり、霹靂掌は稲妻を散らし弾かれてしまった。
「晴天霹靂掌を一撃で……」
「貴様程度のくだらん技など、俺の前ではさざ波よりも大人しいものよ!」
 何気ない出来事だったが、少し引っかかるものがあった。
(……なんだ、この違和感は)
 敵の強さは百も承知だが、ナラカの底で鍛え上げた晴天霹靂掌が、これほど容易く相殺されるものだろうか……。
「ええい、迷うなっ!!」
 巽は高く舞い上がった。
「アイツの域にまで届け! 並び、越えるその日の為に!」
「!?」
 一瞬、ほんの一瞬だけ、巽の背景に赤灼する真っ赤な大翼が見えた。
「木生火! チェンジ! ヴォルテックハンド!」
「来るか……!」  
「我が魂、この刹那に燃やせ! 妖炎魔将が闘技『業火奈落掌』!」
 カッと灼熱する右手が、太陽よりも激しく燃え上がった。宿る炎を眼下に向かって解き放つ。
 しかし、隕石のように降り注ぐ火炎弾を前にしても、敵は冷静だった。
「……とるにたらん!」
 吐き捨てるように言うと、ジャブラは天に向かって龍気砲を放った。
「なんだと……!」
 龍の吐息は火炎弾を喰らい、そして、巽を喰らう。
 曇天の空を突き破るほどの気柱が、大気を恐怖に震撼させ、大地をおぞましき破壊の光で照らした。
 しばらくして、落ちて来た巽は全身から黒煙を噴き、屋根に激しく叩き付けられた。
「が、は……!」
 もはや指先を動かす力すら残っていなかった。
 無論、ダメージは相当なものだが、それ以上に彼には『気』がまったく残されていなかった。
「力が入らない……」
「間抜けめ。技の威力が落ちている事にも気付いておらんとは。あれほどの気を撒き散らして只で済むと思ったか」
「なに……?」
 言われてみれば、重琥守刈刃以降の技はまともにダメージを与えられていなかった。
 奥義を連続して繰り出せば膨大な量の気を消耗する。気が不足すれば、当然、技の威力も激減してしまう。
「く……!」
「くくく……、絶望の中、死ぬがいい」
「わぁぁぁ! 待て待てーっ! その勝負、待ったーっ!!」
 物部 九十九(もののべ・つくも)の憑依する鳴神 裁(なるかみ・さい)は叫んだ。
 重力を感じさせないXMAの身のこなしで、ひょひょひょいっと屋根の上に、九十九は華麗な着地を決める。
「……なんだ、貴様は?」
「ごにゃ〜ぽ☆ ボクは物部九十九! ここから先はボクが相手だよっ!」
「い〜とみ〜♪」
 頭の上になんか乗ってる謎生物、蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)も鳴き声を上げた。
「ほう」
 目には目を、ならば、龍には龍を……と言うことで、ドラゴンアーツを発動。
 柔らかな身体から生まれる体捌きと、FRアクションを取り込んだ格闘術で、ジャブラに猛攻を仕掛ける。
「ごにゃ☆ ごにゃ☆ ごにゃ☆ ごにゃ☆ ごにゃ〜ぽ☆」
「ちょこまかとよく動く蠅だ」
 龍尾返しが一閃……しかし九十九はするりと身をかがめ回避、そこから気を爆発させる。
「ううううううう……!! 行くぞっ、ばんゆー拳奥義『虎鳴万勇脚』だぁ!!」
 龍には龍をと言う気合いが、龍の咆哮を轟かせ、纏う闘気を龍に変えた。
 飛翔する蹴りを、ジャブラはバク転し、直撃を回避する。
「ごにゃ〜ぽ☆ 流石、素早いね〜。でも、スピードだったらボクも負けないよぉ〜☆」
 纏った魔鎧ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)が不思議な光を発した。
 ふと、九十九の影が二つに分かれ、むくりと起き上がった。更に彼女の無数の幻が、わらわらとジャブラを囲む。
「!?」
「ボクは風、風の動きを捉えきれるかな……! 行くよ、奥義『自在』!!」
 気を凝縮し武器を創造する技だが、九十九が創り出したのは新体操の道具。
「まずは『クラブ』から!」
 九十九と影とでジャグリングを回す。幻も伴って空間を無数に飛び交うクラブに、ジャブラもぐるぐる目を回した。
 そして一斉にクラブを投擲する。幻を含めると実に30本近い数のそれが、雨のように降り注ぐ。
「へっへーん☆ これなら見切れないでしょーっ!」
「……見切る必要などない。全て叩き落とせばいい」
 周囲を薙ぐように龍尾返しを一周させると、実体を持つクラブが水風船のように弾けた。
 しまった、と九十九が顔を歪めた刹那、ジャブラは内臓を突き刺すような凄まじい拳撃で影を一体粉砕する。
「……あ、やばっ」
 九十九は、今度は『リボン』を創り出し、ジャブラの右腕に巻き付けた。
 しかし、ジャブラが力任せに引っ張ると、九十九は「わぁ!」と叫んで、ぐるぐる振り回された。
 そのままもう一体の影に叩き付け、そちらの影も霧散させる。
「く、くそぉ……」
 器用に武器を作る彼女だが、純粋なパワーで比べるとジャブラのほうが遥かに上、真向勝負するには決め手に欠ける。
「だったら!」
 今度は『フープ』を創造。
 無数のフープを手裏剣のように放つ……が、なんだか追い込まれての破れかぶれ感がなきにしもあらず。
「万策尽きたか」
 手刀でフープを次々叩き落としていく。
 ところが、ふと急に、強烈な手応えがジャブラを襲った。
「なに!?」
 九十九はニヤリといたずらな笑みを浮かべた。
 紛れ込んでいたのは格闘新体操用フープ。あえて油断を誘ったのも、この攻撃を確実に決めるため。
 気で作った貧弱なフープとは違い、対イコン用のフープは凄まじい速度で、ジャブラを後方に押し戻す。
「舞は人が自然の驚異に立ち向かうための祈祷……。武には先人達の想いが、その歴史が篭められてるんだ……!」
「なにを……」
「龍脈に頼る奴なんかに、自然の驚異に打ち勝ってきた人の歴史は負けないよ!」
 九十九の身体を闘気が覆った。
「そして必殺のぉ……双玉粉砕破と書いて、ファイナルレジェンドーッ!!
 駄目押しとばかりに抜山蓋世の飛び蹴りを放つ。
 そして、いーとみーはいつの間にか後方に回り込み、こっちはこっちで触腕を伸ばし、ジャブラのお菊を狙う。
 この土壇場おいてなんたる下ネタ拳法!
 違う、むしろ逆に「こんな状況だからこそ、まさかそんなところを狙うとは思うまい」と言う奇襲!
 しかし哀しいかな、同じ事を考える奴(総司)は既にいた。
 事前に急所攻撃の脅威を体験していたのが、ジャブラの急所攻撃への警戒を、異常なほどに高めていた。
「はっ!!」
 フープを空に向かって受け流し、彼はその場で飛び上がった。
「わぁ! わぁ! わぁーーーーーーーっ!!!」
「いーとーみーーーーっ!!」
 かち合った九十九といーとみーは、お互いの技の衝撃で吹っ飛んだ。