リアクション
◇ ◇ ◇ キリアナは、協力者達と打ち合わせた場所に、紫月唯斗や封印の巫女白花、鹿島 ヒロユキ(かじま・ひろゆき)らと共に待機していた。 ヒロユキは、本当はこの大捕り物劇は、『何もなかった』ということで、見なかったことにしようと思っていたのだが、ミツエまで出てきて話が大きくなってきたので、どうなることかとやって来たのだ。 最もミツエに関しては、名前しか知らないような別世界の人間なのだが、不測の事態に備えて、パートナーと共に、キリアナの側に付いている。 「こういう時って得てして、予想もしてなかったような事態になるんだよな」 だが、武闘大会のキリアナを観戦していて、何となくキリアナを気に入った。 助けて恩を売っておくのも悪くないよなと思ったのだ。 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)と、パートナーの精霊、イオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)は、キリアナの待機する場所を捜し当てた。 とりあえず、孫権がドミトリエ側についているのだから、ミツエの方は任せていいだろう。 当座の心配事は、アンデッド恐竜だ。 荒野はヴァイシャリーにも近いのだ。アンデッド恐竜などを暴れさすわけにはいかなかった。 その為に、キリアナの協力を得ようと考えたのである。 祥子達を見て、護衛の唯斗が身構えたが、キリアナは首を傾げて、 「用やろか」 と訊ねた。 敵意が無いのを察したらしい。 「ええ。取引に来たの。 状況は、何処まで知っているのかしら。アンデッド恐竜の出現については?」 「先程聞きました」 「なら話が早いわ。 キリアナ、ちょっとあのゾンビ恐竜を始末するのを手伝って欲しいんだけど。 ミツエ相手じゃなければ、いいんでしょ?」 キリアナは答えず、じっと祥子を見ている。 「アレの狙いはあなたと同じなんじゃない? 目的は違うみたいだけど。 今の内に潰しておいた方が得策だと思うの」 「……確かに、そうですね」 キリアナは頷いた。 だが、話に乗ろうとしているようには見えない。祥子は更に言った。 「今回というか、アレに対してのみ、ということで共同戦線張らない? ほっといたら、ユグドラシルの中にまで追いかけてきかねないわよ」 「そら困りますね」 キリアナは苦笑する。 「それに……あなた、セルウスの使命を知ってて追いかけてるんじゃないの?」 「……知りまへんよ」 キリアナは答えた。 「エリュシオンに戻られる途中、セルウスさんに便宜を図る行為を取られましたでしょう?」 イオテスが言った。 クトニウスを、自らの手元に残さずに、落ちたセルウスと同じ場所へ落とした。 その場に居たのは二人だけだが、イオテスは御託宣により、その事実を知ったのだ。 「それは、キリアナの優しさなんじゃないのか?」 唯斗が言って、キリアナは肩を竦めた。 「……あれは、気の迷いどす」 そして改めて、祥子に言う。 「セルウスはんの使命は、知りません。 でも、何となく、予測はしてます。言えまへんけど」 「何故?」 「確実な話やないからどす」 キリアナは苦笑した。 「……でも、その予測が当たってるなら、あのアンデッド恐竜を倒すのは、うちやなくて、あの子やあなた達であるべきやないかな、と、思ってます」 「あたし達もなの?」 「あなたは、あの子の味方でしょう。うちは違います」 「……」 祥子は、キリアナとの会話から、状況を読み取る。 つまりはそれが、セルウスの宿命ということなのか? 「でも、混戦になってきたようですね。もう、相手が無茶苦茶になってます」 皆さん、無事だとええのやけど。 協力者達を案じるキリアナに、唯斗が言う。 「皆そんなヤワじゃないだろ」 そうですね、とキリアナは頷いた。 はっ、とキリアナが身を翻した。唯斗も遅れて、それに気付く。 「気配がなかったぜ……!?」 「ヒロユキさんっ」 魔鎧のウィンディ・ベルリッツ(うぃんでぃ・べるりっつ)が、パートナーのヒロユキを呼び、自らを装着させる。 ゆらりと、地面にうずくまるボロ布から立ち上がったのは、ローブの男だった。 あの時の、とキリアナは呟く。 屍龍を駆って襲撃した男と、同一の者、に、見えた。ナッシングだ。 その足元には、黒い穴。それが大きく広がって行く。 「……? あなた、空っぽやね。中身はどうしたの」 身構えながら、キリアナが怪訝そうに眉をひそめた。 ゆら、と、ナッシングは首を傾げる。 答えずに、大きな首狩り鎌を、ゆっくりと構えた。 「先手必勝っ!」 それを見て、低く頭を下げながら、唯斗が走り込む。 穴はいっそう広がって、腐った恐竜が押し出されて来る。 「今なら、まだ……!」 白花が、神子の波動を放って恐竜を封じようとした。 「なるほど、押し戻すってわけね!」 祥子とイオテスも、それを援護する。 二人の上からの攻撃に、恐竜は押し戻され、白花によって穴が塞がれた。その次の瞬間。 「後ろですわ!」 イオテスが、白花に向かって悲鳴を上げた。 白花ははっと振り返る、間もなく。 その体に、ナッシングの鎌が貫いた。 「白花はん!」 キリアナが駆け寄る。倒れる白花を抱きとめた。 気配はなく、いつ動いたのかも解らなかった。 ナッシングは、唯斗の攻撃を受けていたはずだった。 それなのに、ゆらりと動いたその鎌の先にいたのは、白花だったのだ。 「っ……てめえ! よくもやりやがったな!」 キリアナは、溢れる怒りに、ぎっ、とナッシングを睨みつける。 白花を寝かせ、ナッシングに向かって走り出しながら剣を抜いた。 「纏え、浄化の聖炎!」 ばっ、と払うように刀身を撫でる。 剣から、白い炎が噴き出た。 ナッシングは、ふいっと後ろに下がる。 地面がボコボコと盛り上がり、人や獣、果ては異形の化け物の、ゾンビやスケルトン、アンデッド達が次々に這い出て来た。 「邪魔だァ!」 襲撃して来るゾンビ達を、キリアナは次々斬り払う。 「ヒロユキ、援護しないと! でも、範囲攻撃だと巻き込んじゃうっ……?」 パートナーの吸血鬼、ホミカ・ペルセナキア(ほみか・ぺるせなきあ)がまごつく。 「それ以前に、通常の攻撃ではアンデッドには通用しないし! キリアナを助け出して下がった方が……」 突進するキリアナに、ゾンビ達の攻撃が集中している。数が多すぎる。 ヒロユキが駆け出そうとしたが、 「待て」 と唯斗が留めた。 「下手に近づくな。彼女の攻撃に巻き込まれるかも」 「えっ……?」 キリアナは、圧倒的な強さでゾンビ達を薙ぎ倒しているが、まるで見境がないように見えた。 「バーサークしてる……!」 キリアナは、ナッシングしか見ていない。声を掛けても、恐らく無駄だ。 せめて、キリアナに向かうゾンビ達の数が少しでも減るようにと、外側からゾンビ達を攻撃する。 唯斗はナッシングを狙おうとしたが、また逃げられるかもしれない、という思いから攻めあぐねた。 そんな唯斗達の援護にも目もくれず、キリアナはナッシングを目指す。 後退しながら、次々とゾンビ達を出現させていたナッシングだが、ついにキリアナの間合いの中に追いつかれた。 キリアナは飛び込み、剣をナッシングに突き刺す。 “抜ける”ような感覚がした。何度も攻撃を受け、再び何処かに出現していた、あれだ。 「逃がすかっ!」 キリアナは叫ぶ。 「滅びやがれ!」 渾身の、その力に、ナッシングの体が燃え上がった。 空気を揺るがす、声無き叫喚と共に、その姿が燃え尽き、塵となって消える。 負荷がなくなり、キリアナは剣を下ろした。 累々と、屍が転がっている。 ゾンビは既に、その殆どがキリアナに倒されていた。 うろうろと彷徨うゾンビが多少は残っていたが、それらは、もはや脅威ではない。 「キリアナ!」 唯斗が走り寄り、キリアナはフラリと振り向いた。 「白花はんは……」 口調が戻っている。 「大丈夫だ」 イオテスが治療を施して、命には別状はないと知らせる。 よかった、と、キリアナは目を閉じた。 「……堪忍どす」 「え?」 「…………電池切れや」 くた、とキリアナは座り込む。 そのまま倒れて、意識を失った。 |
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