校長室
海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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★ ★ ★ 「セラフィート、発進するぞ」 出番を待っていた桐ヶ谷煉がフリングホルニのカタパルトで言った。相変わらず、サブパイロット席は無理矢理エリス・クロフォードがエヴァ・ヴォルテールの上に乗っているのでぎゅうぎゅう詰めだ。 セラフィートが赤い六枚のエナジーウイングを展開して、フィールドカタパルトから射出される。 「敵は無視する!」 閃崎静麻のツインウイングが敵イコンを引きつけている横を、セラフィートが一気に飛び抜けていった。 「突入口……、エリス、ちょっと邪魔」 「邪魔じゃないもん」 膝の上のエリス・クロフォードをちょっと脇に追いやって、エヴァ・ヴォルテールがセンサーを確認した。 「突入口、敵艦左舷中央」 「突っ込むぞ!」 エヴァ・ヴォルテールが指示したポイント――如月和馬が開けた穴を確認すると、桐ヶ谷煉は一直線にその中へ飛び込んだ。 「敵歩兵」 外部モニターを見て、エヴァ・ヴォルテールが叫ぶ。 「ヴァターラ?」 迫ってくる自立兵器を見て、桐ヶ谷煉がつぶやいた。ただの機晶姫かロボットかもしれないが、デザイン的にはギフトであるアヴァターラに近い。大きさは、ほぼ人間大だ。 見れば、格納庫の奥の方で、如月和馬とイカロスも戦っている。 「よし、二人は降りろ」 桐ヶ谷煉が、セラフィートからエヴァ・ヴォルテールとエリス・クロフォードを下ろした。コックピットハッチから飛び出した二人が、即座に通路の方へと駆け込んでいく。目指すのは機関部だ。 だが、エヴァ・ヴォルテールとエリス・クロフォードは陽動だ。桐ヶ谷煉の本命はブリッジの指揮官である。 敵の目がエヴァ・ヴォルテールたちにむいた隙に、桐ヶ谷煉はセラフィートから飛び出していった。 ★ ★ ★ 「合図、来た、来た、来たぜー!」 パワードスーツ輸送車両を運転していた猫井又吉が運転席で叫んだ。サルガタナス・ドルドフェリオンから、テレパシーで『今が、ちゃーあんすぅ!』と連絡が来たのだ。 「さあ、ぶっ飛ばすぜえぃ」 文字通り、猫井又吉が仏斗羽素でパワードスーツ輸送車を急加速した。絶対無敵要塞『かぐや』の外壁を、まるで重力など無視したかのように走って上っていく。やがて頂点に達すると、そのままの勢いで飛び越えた。 煙幕の中に、スキッドブラッドの甲板が迫る。 「おりゃあ、邪魔するぜ!」 エナジーバーストで車体をつつむと、そのまま甲板を突き破ってイコンデッキへと突入した。 「着いたぜ!」 その言葉と共に、トラックのコンテナを開放する。 「よっしゃあ、所場代として、すべて破壊するぜ! あ、パンツは除くがなあ」 荷台に仁王立ちになった国頭武尊が、腰だめに構えたイレイザーキャノンを乱射した。 もう、所構わず破壊してすっきりとする。 「お前たちは、ここを守るのよ」 トラックに積んできたクリスタルゴーレムとストーンゴーレムと機械化ヒュドラたちにシーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が命じた。 迫りくる敵に、シーリル・ハーマンが毒虫の群れを放った。視界を奪われた敵の動きが一瞬鈍る。そこを、ストーンゴーレムが重い一撃で叩き潰した。飛び散る四肢のパーツを、機械化ヒュドラが噛み砕く。 「敵を車両に近づけさせるんじゃないよ!」 シーリル・ハーマンの命令に、使い魔たちが奮い立った。 「どんどん行くぜー」 パワードスーツ輸送車両に搭載したガトリングガンを撃ちながら、猫井又吉がゆっくりとイコンデッキを移動していった。それに合わせて、使い魔たちがパワードスーツ輸送車両を守りながら移動し、国頭武尊がイコン整備用の機器を容赦なく破壊していった。 ★ ★ ★ 『ブラックバードから入電です。敵艦上空に達しましたわ。どうぞ、降下してくださいませ』 ヒンデンブルク号のブリッジから、カミーユ・ゴールドがメフォスト・フィレスに告げた。 「どうぞ。やってくれなのだ」 メフォスト・フィレスが答えると、ヒンデンブルク号の格納庫のハッチがパカッと開いた。搭載されていた、イコプラ【ポータラカUFO】が降下する。 高高度に位置して敵の目を欺いていたヒンデンブルク号から、ハロウィーンカボチャが、ふわ、ぷか、ぴゅーっとあっちにひょろひょろ、こっちにひょろひょろ、ときたまワープしながら落ちてくる。本来はポータラカUFOとまったく同じデザインなのだが、現在はハロウィーンに合わせてカボチャのランタンに魔法使いの帽子という追加装甲がつけられている。いや、果たして装甲なのか段ボールなのかは遠目からは定かではないが。とりあえず、ハロウィーン用に仮装しておいた物をあわてて持ってきたので、もういいやという感じである。 その代わり、鬼頭翔とオリバー・ナイツの乗るパールヴァティー修羅モードがきっちりと敵を引きつけて護衛してくれていた。 「降下可能高度に達したのだよ。裁、出られるか?」 スキッドブラッド目指して降下しながら、メフォスト・フィレスが鳴神裁(物部九十九)に言った。 「いつでもどうぞ」 宝貝・補陀落如意羽衣に身を固めた鳴神裁(物部九十九)が身構える。 「降下、開始!」 メフォスト・フィレスが、ゴーサインを出した。 イコプラ【ポータラカUFO】が魔女帽子を脱ぐ。いや、パカッと帽子が蝶番で開いただけではあるが。 そこから、鳴神裁(物部九十九)が勢いよく外へと飛び出した。 眼下に、煙につつまれたスキッドブラッドが見える。 すでに内部では白兵戦が始まっており、対空放火はない。 「ごにゃ〜ぽ☆」 煙幕の中に突入した鳴神裁(物部九十九)が、ディメンションサイトでブリッジの真上に狙いを定めると、グラビティコントロールとポイントシフトを使って一気に降下した。 パワードスーツとドールゴールドの超人的肉体に守られながら、段差に強いところを見せて鳴神裁(物部九十九)がギロチンアームをブリッジの天井に突き立てる。 ガラガラと装甲が崩れ、鳴神裁(物部九十九)がブリッジの中に突入した。 「ごよーだよ!」 すぐに親玉を取り押さえようとするが、誰もいない。 そこへ、桐ヶ谷煉がやってきた。 「くそう、もらったマップが違ってるじゃねえか、手間取っちまったぜ……!!」 ぼやく桐ヶ谷煉と鳴神裁(物部九十九)の目が合う。 「お前が、敵の親玉か!!」 「見るからに悪役の人、親玉だよね!」 奇しくも、ほとんど同じ内容の台詞が、二人の口から飛び出す。 「違うのか……。いったい、ここの奴らはどこに行ったんだ!」 桐ヶ谷煉がそうつぶやいたとき、エヴァ・ヴォルテールから精神感応で連絡が入った。