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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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ゴアドー島

 
 
「ゴアドー島が見えてきたぞ」
 エンライトメント――もとい、グレートとわのカナタちゃんのメインモニタにゴアドー島にあるゲートと港を映し出して、悠久ノカナタが緋桜ケイに言った。エンライトメントは、琴音ロボをベースとして、悠久ノカナタをモデルに改造したイコンである。
 パラミタ大陸の南西に位置するゴアドー島のそばには、直径100メートルを超える巨大なリング状の構造物が浮かんでいた。ニルヴァーナへと続くヴィムクティ回廊へと入るためのゲートだ。
 そのゲートに面したゴアドー島の突端には、輸送用の大型飛空艇などの基地となる空港が建設されていた。ここで、ニルヴァーナへと輸送する物資の積み卸しや、往還用の大型飛空艇のメンテナンスを行っている。
「いつ見てもでかいな」
「まあ、これのおかげで大型飛空艇やイコンが楽にニルヴァーナと行き来できるようになったからな。さすがに、機動要塞などの中には大きすぎてゲートを通らない物も存在するが」
 ゲートの巨大さを見てあらためて感嘆する緋桜ケイに、悠久ノカナタが説明した。膝の上に、何やらパンフレットがこっそりと載っているのは内緒である。
 ゲートは真円のリングとなっており、それ自体に官制室がある。いわば、機動要塞の一種のような物である。直径は100メートルを超えているが、安全上、通過できる物体の大きさは100メートルまでとされている。無理にぎりぎりの大きさの物体を通過させようとして、接触事故などを起こしては大変だからだ。
 もっとも、機動要塞でも、幅や高さが100メートルを超えなければ、理論的には全長が1000メートルでも、ゲートをくぐることはできることになる。
 ゲートをくぐった先のヴィムクティ回廊は直径が数キロメートルを超える亜空間トンネルのような世界となっており、一端ゲートを通ってしまった物であれば、併走したり、すれ違ったり、反転したり、回転することもできる。
 極端な話、変形したりしてサイズが大きくなっても問題は無い。もっとも、ニルヴァーナ側のゲートをくぐるときには、またそのゲートを通れる大きさでなければならないが。
 亜空間トンネルの長さは正確に計測することは不可能であるが、大型飛空艇で数時間の距離である。
 回廊の中は、安定化した空間からはみ出さないように、バリアでチューブ状に被われている。実際には、そのさらに外に別世界との時空境界面が存在しており、それを越えた場合、ナラカに堕ちるとされている。もっとも、実際にそれを越えた物はまだいないので、想像の域を出てはいない。だいたいにして、この境界を越えてしまった物は戻ってこられないとされているので、確認のしようがないのが実情であった。
 ゲートは開きっぱなしというものではなく、通常空間からは意図的に日に数度開放される。亜空間から出てくるときのタイミングに関しては、ほとんど自動で開かれたゲートから出てこられるようだ。内部での時間の流れが凍結しているのか、何かのセンサー的な機構が働いているのかは謎である。もともとがニルヴァーナのロストテクノロジーであるため、正確なコントロールはポータラカ人の専門技術者でなければ不可能であった。
「今のところ、おかしなところはないようだな」
 周囲の様子を確認して、緋桜ケイが言った。
 ゲートの開放にまではまだ時間があるのか、ゲート前で待機している大型飛空艇はいなかった。周囲には、警備のためのプラヴァー・ギャラクシーがいるだけである。
 その警備イコンが、接近してくるエンライトメントを港の方へと誘導した。保安上、許可をとらなければゲートに近づけないのは当然である。イコンなどは、通常は積み荷として大型飛空艇で運ばれる物となっている。
 空港では入出国の管理も行っているはずなので、緋桜ケイたちはその名簿を調べに行った。偽名を使っている可能性は高いとは言え、運び屋のシニストラ・ラウルスたちが手引きしているのであれば、それらしい人物が短期間に何度も往復している記録があるかもしれない。事実、彷徨える島のときは、浮遊島を移動させるための推進器の輸送のために何度も往復していたのだから。今回も運び屋の彼らが関与している可能性は高いと踏んでいた。
 管理局で事情を話すと、利用者のデータの確認は許可が下りた。エステル・シャンフロウの一件は、ニルヴァーナがらみと言うことで、こちらにも情報は回っていたようである。
「で、その逃亡者の顔写真とか言うのはあるのか?」
「なんだと、そなたがもらってきているのではないのか?」
 緋桜ケイの問いに、悠久ノカナタが驚いたように聞き返した。よく考えたら、ソルビトール・シャンフロウの容姿データをもらってはいない。
「シニストラたちを捜すしかないようだな」
 もともと手がかりはそれしかないからと、緋桜ケイたちはその先で情報を分析していった。だが、シニストラたちの形跡はいっこうに発見できなかった。
「まさか、完全に見当違いで、奴らは関与していなかったとか、ソルビトールはこちらへは来なかったというのか?」
 やっちまったかと、緋桜ケイが呻いた。いい線だとは思ったのだが……。
「諦めるのはまだ早いが、時間はかかりそうだな」
 悠久ノカナタも、困ったように言う。
 時間をかけた割りには成果も出ず、お邪魔している管理局の方は、次のゲート開放の準備であわただしくなり始めていた。だが、ちょっと様子がおかしい。
「どうしたのだ?」
「ゲートの官制室との連絡が取れない……」
 困惑したように、職員が悠久ノカナタに答えた。
「まさか。すぐに確認を。俺たちもゲートに行って構わないか?」
 職員と一緒であればということになり、緋桜ケイたちは中型の飛空艇に乗り込んで一緒にリングの官制室へとむかった。
 急いで管制室に入ると、中には縛られた職員たちがいた。
「いきなり眠らされて、気がついたら縛られていたんです」
「犯人は見たのか?」
 緋桜ケイの質問に、職員たちは肩をすくめるだけであった。だが、監視カメラに映像が残っていた。
 何やらフードつきローブで顔を隠した一団の男たちが、職員たちを眠らせた後に縛りあげている。その後、ゲートの制御コンソールを操作していた。何かのデータを盗んだようで、それをチップにセーブして持ち出している。その後、何ごともなかったかのように、定時のゲート開放処理を彼らが行っていた。そのときのゲートが無事閉じた後、男たちは姿を消している。ゲート開放が普通に行われたおかげで、異変に気づくのが遅くなったようだ。
「やられた。多分、すでにニルヴァーナに逃げられた後だ。やっぱり、アトラスの傷跡の方は陽動だったに違いない」
 悔しそうに、緋桜ケイが言った。
 
 
パラミタ内海

 
 
「戦果としては、マスドライバーのガイドを一部破壊、敵機動要塞を三基大破、その他にも少なからずダメージは与えられた。イコンの被害も少なくはないだろう。予定通りとは行かないが、それなりの成果はあったと考えようではないか。これで、パラミタに残存する艦艇は、シャンバラもエリュシオンも、こちらに対する警戒は無視できまい」
 V機関のブリッジで、スキッドブラッドの艦長が少し苦々しい顔で戦果を確認した。ソルビトール・シャンフロウを利用して整えた戦力が大半だったとはいえ、損害は予想以上だった。もっとも、それだけの戦力を投入しなければ、シャンバラのより多くの戦力を引きずり出せなかったであろうが。
 今頃は、ソルビトール・シャンフロウはニルヴァーナへ潜入できているはずである。また、そうでなければ困る。こちらの動きと連動して、あちらでも動いてもらわなければ困るのだ。これだけの戦力を費やした穴埋めはしてもらう。
「ナグルファルとのコンタクト地点です」
 座標を確認して、部下が艦長に告げた。
「遮蔽解除。通常空間に復帰後固定。ナグルファルに帰投する!」
 
    ★    ★    ★
 
「海はよ〜、大漁だよ〜♪」
 白熊号の操縦席の窓から片腕を外に出しながら、雪国ベアがパラミタ内海を目指していた。
 いかにも調査に行ったと見えては、どこで敵が見ていて警戒するかもしれないので、あくまでも趣味で釣りに行くゆる族という感じでむかっている。
 少し離れた場所では、ソア・ウェンボリスがピクニックという感じで箒に乗ってパラミタ内海へむかっているはずだ。
 イルミンスール魔法学校で仕入れた情報から割り出した不審船の予測進路には、微かに大型飛空艇が森の木々をかすめるようにして飛んでいった形跡がある。だが、そうだと思って調べなければ分からないほどのわずかな痕跡だ。明日には、もう見分けがつかなくなってしまうだろう。
 目撃者も、似たような物だった。気配は感じた者はいても、実際に目撃した者は少なかったし、まさかそれがエリュシオンからの逃亡者の艦だと思った者はいなかった。
 結局、ほとんど何も分からないままにソア・ウェンボリスと雪国ベアはパラミタ内海に到着してしまった。そこでまたしばらく聞き込みをするものの、何かを目撃した者はいない。
「当てが外れちゃったのかしら」
 波打ち際をソア・ウェンボリスが歩いていると、突然波が足許をさらった。
 ちょっと転びかけて、あわてて沖を見る。
嫌な感じがします……」
 なぜか霧が発生している沖合に、何か邪悪なものを感じた。目を凝らしてみると、何か島のような物があり、そこへ突然現れた光る物体がゆっくりと降りていくのが朧に見えた。
「ポータラカUFO?」
 その異質な感じに、ソア・ウェンボリスが思わずつぶやいた。
 光学迷彩を使って、空飛ぶ箒で近づこうと思ったが、いきなり突風が吹いてきて大波が押し寄せてきた。その風が霧を吹き払う。
 そこには、何もなかった。
 携帯が鳴る。
『御主人、今の見たか!?』
 雪国ベアだ。彼も同じ物を目撃したのなら、あれは幻ではなく、現実にあった物体だ。
「とにかく、このことを報告しましょう」
 ソア・ウェンボリスが、イルミンスール魔法学校を通じて、緋桜ケイとエステル・シャンフロウに、今の出来事を報告した。