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リアクション
自由都市プレッシオ、最南端の区画。
最も激しい戦いが繰り広げられている大通り。
「……見つけたぞ」
特別警備部隊の一人、桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)は走りながらそう呟いた。
彼が見つめる先は一点。
この区画で大通りの先にあり、二番目に戦闘に適した場所――錆びた遊具が並ぶ、大きな広場だ。
「邪魔だ!」
煉は吼え、進路を塞ぐ構成員に拳を振るった。
常人離れした怪力に殴り飛ばされ、構成員の頭部がぐにゃりと変形し、弾き飛ぶ。
「…………!」
煉の存在に気づき、広場の周りに居た構成員達がいっせいに振り向く。
「見つけたぞ!」
「ぶっ殺せ!!」
数人の構成員が武器を抜き、煉に突撃を開始。
しかし、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)によって、彼らは止められた。
「煉さん、ここは任せて!」
エリスは《混沌の盾》で彼らの攻撃を防ぎ、後退する。
入れ替わるように、エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が彼らに近づき、<パイロキネシス>で炎を発現。
「仕方ねぇな。雑魚はあたしらで抑えておくから安心して戦ってきな」
エヴァは手の内の炎で、目前の構成員達を焼き払う。
その隙に、煉はパートナーの二人の脇を通り、広場の中央へと突き進む。
「すまん。任せた」
「ああ、任されたぜ」
「煉さん、無理はしないでね」
走っていく煉の背中にそう声をかけ、二人は背中を合わせて構成員達と相対する。
構成員達は広場へ行った煉には見向きもせず、その二人を囲み始めた。
「こんだけ引きつけりゃあ大丈夫か。んじゃ、一暴れといこうか」
エヴァはにししと好戦的な笑みを浮かべ、両手の内に炎を発現。
「あなたと同じ意見なのは心底嫌だけど……まぁ、仕方ないか」
エリスは憎まれ口を叩き、《薔薇の細剣》を抜き取った。
返り血により薔薇色に染まった鮮やかな切っ先を、囲む構成員達に向ける。
「さぁ、相手をしてもらうわよ」
――――――――――
煉は広場の中央にたどり着き、目的の人物を見据えた。
《悲姫ロート》を地面に突き刺し、傍らに佇むのは赤毛の少女。
「おまえが、ルベル・エクスハティオか」
ルベルは反射的に、炎より一層と赤い瞳を鋭く細める。
「特別警備部隊――ベリタスの仇。やっと、来たわね」
押し殺した声だが、不思議なほどよく通る声だった。
煉は《無銘》の柄に手を添えながら、こう言った。
「ベリタスの仇ね。
どんなヤツでも死ねば悲しむ人くらいはいる、か」
挑発的な物言い。
ルベルはぎりっと歯を噛み、眼前の敵を睨んで、言った。
「なによ、それ……」
ルベルの胸の中が忘れかけていた激情で埋め尽くされる。
年端のいかない自分が親に売られ、奴隷商人に連れ回されたときに抱いた感情――殺意が、その時にも増してルベルの心を支配していた。
「どんなヤツでも死ねば、ですって?
ベリタスは敵には容赦なかったけど、ずば抜けて好戦的だったけど、仲間には誰よりも優しい奴だったわ」
地面に刺さった《悲姫ロート》の刃が、溢れんばかりの炎を噴き出す。
コンクリートが溶け、次々と亀裂を走らせながら割れていく。瓦礫は炎に呑まれ、ドロドロの液体と化す。
「……殺してやる」
炎よりも赤い瞳が、煉を睨む。
「アンタだけは絶対、この手で息の根を止めてやるわ!」
彼は、うっすらと赤く片目を変色させた。
「ああ、決着をつけよう」
その言葉を皮切りに、二人の戦いは始まった。
ルベルは真紅の槍を引き抜き、煉に襲いかかった。間合いを詰め、高速の一閃を放つ。
煉は《無銘》を抜き取り、《流星のアンクレット》で加速させた斬撃を放った。灼熱の炎を纏った槍の刃に、漆黒の刃が真っ向から衝突する。
だが、ルベルのほうが放った一閃のほうが完全に威力が勝っていた。砕かれたコンクリートと共に、煉が吹き飛ばされる。
「アンタ達が、アタシから仲間を奪ったのよ……」
ルベルは弾かれた槍を大きく振りかぶる。
刹那、周囲の温度が一度、二度、上昇した。空気が歪んで、槍の刃に熱が集まり、灼熱の火球を形成する。
広場に、炎が酸素を吸い込む凶悪な音が響く。
「アンタ達が、アタシから大切なモノを奪ったのよ!」
ルベルは、煉に火球を叩きつけた。
大気を震わす轟音。
彼に接触すると、風船が破裂するように、辺り一面へ炎を撒き散らした。
熱波と閃光と黒煙が吹き荒れる。古びた遊具が溶け、ガムのように地面へこびり付いた。
炎と地獄の中、煉は口の中に溜まった血液を、地面に吐き捨てる。
「……君の、ベリタスへの想いは分かった。
だがな、俺は俺の信念を貫かせてもらう。退く気も加減する気もない」
ルベルは何も言わず、もう一度灼熱の火球を放った。
煉は<アブソリュート・ゼロ>を発動。大気中の水分を瞬間的に凍らせ、氷の壁を作った。
二人の間で大爆発が起こる。
爆風を浴びながら、煉は問いかけた。
「仲間の為の戦い、似ているのかな俺達は。だからこそ俺が譲れないのも解るだろう?
俺も仲間を守るためならこの手を血で染めることを厭わない。退かないのなら倒すだけだ」
ルベルが奥歯を噛み締める音が、煉の耳まで届いた。
「……ふざけるなッ」
彼を睨む真紅の瞳には憎悪の炎。声には拒絶の意思が含まれていた。
「アンタとアタシが似ているワケなんかない。一緒にしないで……!」
ルベルが《悲姫ロート》を両手で構えなおす。
対する煉は腰を深く落とし、示現流蜻蛉の構えをとった。
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