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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「ミオ、なんか静かになった気がしない? それに空を飛んでる龍族と鉄族の姿が見えなくなったわ」
「そうですね……ここでの戦いは終わったのかもしれません。戦力的に鉄族の方がかなり有利だったようですし、龍族は被害が拡大する前に撤退したのではないでしょうか」

 戦場から負傷者を野戦病院へ送り届けるのを何度か繰り返して、次に訪れた戦場は双方の種族の姿が消え、一部に戦いの痕跡を残すばかりになっていた。龍族も奮闘したが、鉄族の戦力は二つの本拠地を始め、契約者のイコンも数機確認出来た時点で圧倒的ですらあった。
「ケガして倒れてたのも、龍族が殆どだったわね。鉄族はケガしてないか、ケガしてもその二つの本拠地のどっちかに戻れた、ってことなのかな」
「確信はないですが、そのように考えられますね。
 ……カヤノさん、どうします? デュプリケーターの姿も見えないようですし、私達は一旦ここを引き上げますか?」
 美央が今後の行動を、カヤノに尋ねる。出現すると思われていたデュプリケーターは、今の所現れていない。あまりにも戦いが早く終わってしまったからなのか、もう一方の戦場に集中させているのか、原因は分からなかった。
「うーん、そうね。最後にもう一回見て回ってかない? それでケガしてる人が居なかったら、戻りましょ」
 カヤノが方針を決め、美央もそれに従い、二人は人の消えた戦場を進む。先程までは空を見上げる度、戦闘機と龍が光線や炎を飛ばし合っている様が見られたが、今はまるでその光景が夢であったかのような静けさであった。
「そうそう、ごめんねミオ。「女王はどーんと構えてればいい」って言ったのに、結局連れ出すようなことしちゃって」
「いえ、気にしてませんよ。それに正直、女王らしくどーんと構えてる事ってなかなか難しいんですよ?」
「そういえばそうね、ミオがエリザベートみたいに立派な椅子にふんぞり返って座って「お前パン買ってこいですぅ」なんて言うの、想像出来ないわ」
「エリザベートさんでもそんな事言わないと思いますけど……。
 でも私は、王国の皆さんを信じてます。あっ、投げやりな訳じゃないですよ。ほら、私って普段から槍は投げて使わないでしょう? ……投げたこともありますけど。……いや、結構投げてる気も……」
 段々尻すぼみになっていく美央を見、カヤノがぷっ、と吹き出す。
「ミオ、何言ってるの?」
「わ、笑わないでくださいっ。とにかく、そんな事はいいんです」
 強引に話を打ち切って、美央がちらちら、と視線を彷徨わせつつ口を開く。
「カヤノさん言いました、私の傍に居て、って。だから、私はカヤノさんの傍に居ます。
 物理的な意味じゃなくても、約束とかじゃなくても、その、久々に会えたんですから……ね?」
 白い肌をほんのりと赤く染めて、最後はちゃんとカヤノの方を見て言う美央に、カヤノはぎゅっ、と胸を掴まれたような感覚を覚える。
「……ミオ、しばらく会わない間に、かわいくなった」
「ちょ、えっと、そんなド直球ストレート投げ込まなくてもいいと思うんです!
 そういうことですから! 二度は言いませんから!」
 プイッ、とそっぽを向く美央、直後耳にカヤノの言葉が届く。
「ありがと、ミオ。ミオが傍に居てくれて、あたい嬉しいよ」
「だから、やめてくださいよ、そんな真っ直ぐな言葉……」
 絶対、自分を知る人には見せられない顔をしているな、美央はそう思う。

 それからしばらく戦場を見回っていた所、美央へ連絡が入る。
『よー久し振り。元気してたか?』
「その声は、ウルさんですね? お久しぶりです」
 端末から聞こえてくるウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)の声に、自然と美央が笑顔を浮かべる。
『積もる話はまた後でするとして……そっちにレイナが行かなかったか? 美央に挨拶ついでに手伝いに行こうって言ったのに、どっか行っちまってさ。少し用事を済ませてからって言ってたけど、それにしちゃ遅いなって思ってさ』
「レイナさんですか。いえ、私は見ていませんが……。ちょっと待ってもらえますか」
 美央がカヤノにお願いする前に、カヤノがセリシアにレイナが来ていないかを確認する。少しして首を横に振るカヤノに頷き、ウルフィオナへ声を飛ばす。
「野戦病院の方にも来ていないそうです。私達の方では確認出来ませんね、ごめんなさい」
『ああ、美央が謝るこたないさ。……そっか……なーんか、嫌な予感がするな……』
「嫌な予感……もしかして、レイナさんが襲われたとかですか?」
『んー、それはあんまり心配してないんだ。……悪ぃ、この事は話せる時に話すわ。
 あたしはレイナを探してくるから。じゃあな!』
 言って、ウルフィオナが通信を切る。
「何がどうなってるの?」
「……レイナさんが一人でどこかに行ってしまったようです。それとは別のことをウルさんは気にしていたようですけど……」
「もう、また一人で無茶してるんじゃないでしょうね! ミオ、探しに行くわよ」
「あ、ちょっと、待ってくださいカヤノさんっ」
 飛んでいったカヤノを追って、美央も後に続く。


(……あら、まさか予想が外れるなんてね。てっきり戦闘の合間に出てくると思ったのだけれど。
 戦況が混沌とした中に出てくるつもりだったのかしら? ふふ、まったくもって目障りね)

 その頃、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は彼女のもう一つの人格、ノワールが現れていた。龍族と鉄族、それぞれが相手の勢力圏に侵攻する状況を面白がって出てきたものの、横から獲物をかっさらって行くであろうと思われたデュプリケーターが、未だ出てきてないことに不満気な様子だった。ここでの戦闘が割合短時間で決着がついてしまったことも影響しているようだったが、ノワールはその事が気に入らなかった。
(ただの木偶と思っていたのに、無駄に知恵なんて付けちゃって。……それとも束ねている少女がそこそこ切れ者なのかしら? 会ってみたいわね、一度は)
 こことは別の、龍族と鉄族が争っている場所に移動しようか、そんな事を思いかけた所でノワールは、物凄く暑苦しい気に思わず顔を歪める。
(何? この暑苦しくて不快な気は)
 それが後方から迫ってくるのを悟ったノワールが、岩陰に身を潜める。ほとなくしてやって来たのは、ルイ・フリード(るい・ふりーど)ノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)だった。
「ルイ、こっちなのである! こっちから仲間の救援を知らせる信号をキャッチしたのである!」
「やはり、動けなくなった者を狙ってきましたか。そんな事はさせません! ガジェットさん、急ぎますよ!」
 まるで熱波のごとく、二人がノワールに気付くことなく駆け抜けていく。十分に遠ざかったのを見届け、やっと岩陰から出たノワールがふむ、と口元に手を当て思案する。
(あの暑苦しい人の言う通りなら、この先にデュプリケーターが現れている。目的は動けなくなった龍族か鉄族の捕食、かしら。
 そうね……遊びがいがあるかどうか、確かめてみましょうか。どうでも良かったら暑苦しい人に任せちゃえばいいんだし。
 龍族と鉄族には関わらないでおきましょう……“あの子”はあくまで中立のつもりのようだし)
 今後の行動計画を立てたノワールが、笑みを残してルイとノールが駆けて行った道の後に続く。


 巨大生物の強靭な前足が、『リュミエール』へ振り下ろされる。両腕をかざした先に生じたエネルギーシールドで防ぐものの、少しずつ押し込まれていく。
『やっぱ1対2はきっついわー。エネルギーがもうギリギリやで』
 惹鐘の言葉通り、『リュミエール』の残存エネルギーは危険水準まで低下していた。防御性能に優れているとはいえ、エネルギーが枯渇すれば巨大生物に蹂躙されるのは必至と言えた。
(……せめて、この人が自力で脱出してくれたら……)
 フィサリスが背後の鉄族の様子を確認する、しかし再び動き出す気配はない。
『! アカン、二体目来るで!』
 惹鐘の警告に意識を引き戻される、上空を舞った巨大生物がこちらへ向かってくるのが見え、

「チェストォォォ!!」

 横っ腹に契約者とロボの蹴りを食らって吹っ飛ぶ。
「決まりましたね! これも天秤世界でずっと一緒に行動してきた成果です!」
「あんまり嬉しくないのであるよ! やるなら女の子とやりたかったのである!」
 HAHAHA、と笑うルイに、ノールが本心を隠さず反論する。確かに、ノールとほぼ同じ背丈(ノールは身長425センチ)の、側頭部に牛のような角を生やしたむさ苦しい男性とシンクロ、は嬉しいか嬉しくないかで答えれば、大抵の人は嬉しくないだろう。そっちのケがある人を除いては。
(冗談はさておいて……いくらルイでも巨大生物を3体相手にするのは、厳しいのであるよ。さっきのは不意を打てたから成功したのであって、もう一度は成功しない……ここは我輩が、全力防御で巨大生物の気を引き付けるのであるよ)
 素早く思考を巡らせ、ノールは全身に敵の攻撃を歪める膜を形成、さらに前方に絶対零度の氷で出来た盾を展開する。
(それに、我輩は見たのである。イコンの背後に居る鉄族……あれは女の子なのである。我輩のカンがそう告げているのである!)
 どう見ても戦闘機にしか見えない鉄族を、ノールは女の子だと思い込む。……これは後で真相が明らかになるが、実際女性である。ノールのカンは正しかったと言えよう。
「この鋼鉄のボディは、大切な誰かを護る為に存在しているのである!」
 ブースターを点火させ、ノールは奮闘するルイへの攻撃が集中しないよう、巨大生物とルイとの間に割り込んで攻撃を受け止めたり、中距離からフュージョンガンを放ってダメージを与え、自身へ向かってくるように振る舞う。