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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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「きゃー翠峰君ー♪」
「入って早々抱きつこうとしないでください。もう手遅れですが不審者と思われるでしょう」
 先日、デュプリケーターに襲われていた所を助け出された翠峰の部屋を訪れた退紅 海松(あらぞめ・みる)が飛びつこうとして、フェブルウス・アウグストゥス(ふぇぶるうす・あうぐすとぅす)に首根っこを掴まれる。
「あ、海松さん、フェブルウスさん、こんにちは」
「……フェブル、でいいですよ。長いでしょう。
 突然すみません、この人があなたにデュプリケーターの事を聞きたいと言うものですから」
 フェブルウスの向けた視線の先で、海松がいち早く回復して立ち上がり、声高らかに宣言する。
「そう、いたいけなショタの方々が平和に暮らせるよう、この退紅海松、全身全霊を賭してデュプリケーターを探させて頂きますわ!
 私は! ショタの味方!!
 鉄族とか龍族とか関係ありませんわ! 私は、ショタの味方なんですの! 皆さま判ってくださいまし!!」
 よよよと泣き崩れる海松、それを見て“翠峰”が何とも言えない顔で、フェブルウスに小声で尋ねる。
「……こういう人なんですか?」
「はい、本当に申し訳ないんですが、こういう人です」

 二人が同時に、ふぅ、と息を吐く。
「……あら? あらあら? もしかしてこ、これは、翠峰君×フェブル君!? それともフェブル君×翠峰君!?
 あぁ……ダメですわ、刺激が強すぎて私、心臓が止まってしまいそうですわ」
「……いっそ止めてしまってもいいんですよ? 話が進まないのでとっとと話してもらえませんかね」
 フェブルウスの視線が鋭く海松を貫くが、当の本人は特に気にしていない様子で“翠峰”に尋ねる。
「翠峰君はこの前、機体を食べられたと言ってましたわよね? 確か、羽の生えた少女に」
「はい……あっという間でした。食べるというよりはもう、飲み込む、って勢いで」
 その時のことを思い出したのか、“翠峰”が身体を抱えて小さくうずくまる。
「その羽の生えた少女は、何故本体である翠峰君ではなく、機体を食べたのでしょう?」
「あ、それについては説明するね。ボク達鉄族は『オーバルアゾニウム合金』こそが本体って言えるんだ。これを機体の形にした時からボク達は“生まれて”、成長・老化を辿るんだって」
「な、なんですって……? そんな、そんな事があっていいのでしょう!?」
 “翠峰”の説明を耳にした海松が、愕然として塞ぎ込む。あたふたとする“翠峰”に対し、フェブルウスは何故海松が塞ぎ込んだのかが分かったので放っておいた。
「翠峰君が成長してしまうなんて、ショタがショタでなくなってしまうではありませんか!」
「あ、そっちなんだ……。えっと、ボクはもうこのままだよ。“灼陽”と機体に一つずつ、『テトラフルポリキシ素材』で出来た素体があって、そっちに情報を映すことでこうやって動けるんだけど、機体にある方の素体に移ると、機体はなんて言うのかな、死んだ状態になるんだ。そもそも機体の方の素体に移るって事は、機体が何らかの原因で動けなくなっちゃう緊急事態だからね。そのまま機体が破壊されたらボクは死んじゃうから、せめてこの姿でも生き残れるように、なんだって」
「あ……そうでしたの。ごめんなさい、失礼な事を言ってしまいましたわね」
 海松が、自分の非礼を詫びる。横で見ていたフェブルウスが、こういう所があるから完全に見放せないんですよね、と心で口にしていた。
「つまりは、機体こそが力を持っている、というわけですのね?
 そしてもし、例えばここにイコンを持ってきたとして、やはり羽の生えた少女はイコンを食べる、というわけですのね」
「確証はありませんが、そうなる可能性は高いですね」
 フェブルウスが答えると、海松はまたも愕然とする。今度は理由が分からないフェブルウスがきょとんとしていると、海松が口を開く。
「……まずいのではありません? 鉄族がもし、機体を納めている格納庫を狙われでもすれば、それこそ全滅ですわ」
「……うかつに機体から離れるな、というわけですか。……あれ、あなたは鉄族の立場なんですか?」
 海松が鉄族の話題をしたことにフェブルウスが尋ねれば、海松は『どちらかの味方にならなければいけない場合』と前置きした上で、鉄族に付く旨を話す。
「翠峰君がショタで、噂では灼陽君もショタなのでしょう? 鉄族に付かない理由がございませんわ!」
「……あー、そうでした、そうでしたよ。
 でも、そうと分かった所で伝えようがありませんね。話では契約者は方針としてデュプリケーターの無力化を主とし、専用の要塞で『ポイント32』『龍の眼』へ行く事になってるみたいですけど」
 フェブルウスの言葉に、“翠峰”がピクリ、と反応する。
「あの……こんな事言っていいのかどうか分かりませんけど。多分『ポイント64』のみんなも、『龍の眼』の攻撃に参加すると思うんです。
 デュプリケーターによる被害が起きる前に、今の事を皆さんに伝えてあげられませんか?」
 “翠峰”が上目遣いで海松を見つめる、フェブルウスがあ、これは落ちたな、と思う通り、海松が目を輝かせて“翠峰”の手を取る。
「翠峰君の言う事を聞かないわけがありませんわ! ……あ、あの、アムドゥスキアス様に反対されたらちょっとごめんなさいかもしれませんけれど、あぁ、でも翠峰君の望みを断ることが私に出来るでしょうか、いいえ出来ません!」
「……長くなると思うのであの人は放っておきましょう。魔神の皆さんはそろそろ出発するはずです、お伺いを立ててみましょう」
「ありがとうございます!」
 一人で一喜一憂する海松を置いて、フェブルウスは“翠峰”を連れアムドゥスキアスの下へ向かう――。

 話自体は、あっさりと進んだ。一つアムドゥスキアスからのお願いとして、契約者の今していることを話した上で、もし鉄族が『龍の眼』を取った場合、本土への急な侵攻を控えてもらうよう頼んで欲しいと伝えられた海松は、「アムドゥスキアス様の為にこの退紅海松、馬車馬のように働かせて頂きますわー♪」と小躍りしていた。
 二人と“翠峰”は『ICN0004248#フラクトゥール}』へ乗り、『龍の眼』を巡る攻防に決着がついた頃を見計らって、『龍の眼』へ向かう――。

「……“翠峰”? まさか、“翠峰”なの?」
 機体を降り、部隊を指揮している鉄族の者へ会いに行こうとした所で、“翠峰”を呼ぶ声に振り返る。そこには仲間の鉄族に付き添われて立つ少女の姿があった。
「おねえちゃん!?」
「あぁ、“翠峰”!!」
 “翠峰”が少女の下へ駆け寄り、少女が“翠峰”を抱きかかえる。仲間も「おぉ、よく戻ったな」と彼を出迎える。
「どうやら、彼のお姉さんが居たようですね。感動の再会、というやつですか」
「……はぁ、これでショタでしたら完璧でしたのに」
「……あなた本当にブレませんね。いっそ尊敬しますよ」

 “雷峰”と名乗った少女の案内で、一行は『龍の眼』の一時的な司令官に就いている部隊長、“三峰”と会う。
「“雷峰”だけでなく“翠峰”まで帰ってくるとは、私は契約者に感謝をしなければいけないな」
 聞けば、別の契約者がやはりデュプリケーター化した巨大生物に襲われそうになった“雷鋒”を助けたのだという。
「それもやはり、“雷鋒”さんの機体を狙っていたのでしょうか」
「そうか……デュプリケーターという生物は、そのような特徴があったのか」
「デュプリケーターというか、それを束ねている少女が居るそうなんですが、彼女が鉄族の機体を狙う可能性がある、というのです」
 一行の説明を、“三峰”は真剣な表情で聞き入れる。
「分かった。我々は一部隊であるが故、“灼陽”様がこれから即、『昇龍の頂』を落とせと言うのであれば、従う他ない。
 だがその限りでなければ、我々は独断で侵攻を進めるのを待つ事にする。デュプリケーターという危険な存在を放置する事は、我々鉄族の存亡に関わるやもしれないからね」
 最後に、“翠峰”を助けてくれてありがとう、と礼を言う“三峰”であった。