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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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古の白龍と鉄の黒龍 第2話『染まる色は白か、黒か』

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『ポッシヴィ』

「うーんと、この前の調査で『うさみん星』『ポッシヴィ』2つの街が見つかったね。そこには生き残りの種族が居るって話も聞いたよ」
「そうじゃな。では、わらわたちはどちらへ向かう? どちらも位置は判明しておるぞ」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)ミア・マハ(みあ・まは)が、天秤世界の地図を見つつ目的地を定める。
「ボクとしては『うさみん星』に行ってみたいんだけどね。でもここは中立区域、デュプリケーターが襲ってくるかもしれないよね」
「デュプリケーターか。……どうも奴ら、パラミタで見る種族に姿が似とらんか? わらわはそれを気にしておったのじゃが」
 目撃された情報を見ていたミアは、デュプリケーターとして現れる人型のそれが、パラミタに存在する種族と姿が似ていることを指摘する。
「どこまで似てるのかな。技まで同じのが使えるのかな」
「だとしたらこの世界は、パラミタに纏わる世界なのかも知れんのう。……まぁ元々、イルミンスールと関係があるからこうして来とるわけじゃが。
 デュプリケーターの重要人物と思われる少女がミーミルに似ているのも気になるしの」
 その他、いくつか気になることを並べはするが、とりあえず今は生き残りの種族を訪問するのが先だ。
「どちらか、と言われると難しいが、わらわは『ポッシヴィ』かのう。ここは場所だけ分かっておって、それ以上の情報がない。
 うさみん星の方も似たり寄ったりじゃが、こちらの方が契約者の拠点に近い。近所付き合いというわけではないが、近場の者を先に知っておく方が後々安心ではなかろうか」
「うーん、それもそうか。じゃあ、ポッシヴィへ行こう」
 ……そして二人は、地図に従い『ポッシヴィ』へと向かう――。


●ポッシヴィ

 契約者の発見した街、ポッシヴィ。龍族の本拠地『昇龍の頂』と契約者の拠点の中間付近にあるその街は、見るからに寂れてまるで廃墟のようになっていた。
 龍族の本拠地にこれだけ近いにもかかわらず存在していられたのはある意味、相手にされていなかったからというのが正しいのかもしれない。

「……なんか、寂しい街だね」
「そうじゃのう。誰も彼も生きる意欲を失っておるように見える」
 『ポッシヴィ』に到着したレキとミアは、街の様子に自然と無口になる。まるで今日明日にでも消えてなくなってしまいそうな雰囲気を漂わせていた。
「おや……お前たちも契約者かい?」
 と、二人の前にアコーディオンのような楽器を手にした老齢の男性が現れる。ジョセフと名乗った彼とレキ、ミアが互いに自己紹介をした後、レキは質問をしてみる。
「おじいさんたちは、いつここに来たの?」
「いつじゃったかのう……。わしらの世界で言えばフォルテ15じゃったか。それ以外は忘れてしもうたわい」
 ジョセフが言うには、ここの時間の進みは元居た世界とは異なるのだという。故に前の世界で『いつ』来たかは分かっても、それが『いつ』の事なのかが分からないようだ。さらに言えば、彼らは年月日を使っていない。これは『うさみん星』でも同じ事が言えた。
「戦っていた相手は、どんな種族だった?」
「奴らはわしらの天敵じゃった。わしらは楽器を奏でるのを得意としておる。じゃが奴らは楽器を使わずに音楽を生み出しおった」
 彼らは『ミュージン族』と言い、生まれた時から必ず一つ以上の楽器を奏でることが出来るのだという。そのせいか、当時世界の大多数者であった人間族からは迫害されていたが、彼らは演奏で人間族をある意味駆逐していった。人間族の音楽が消え去り、彼らだけの音楽になろうとしていた頃、彼らはこの世界に送られてきたのだという。そして出会ったのが『ヴォカロ族』と名乗った者たちで、何と彼らは楽器を使わずに音楽を生み出すことが出来たのだという。ミュージン族はヴォカロ族の音楽を超えることが出来ず、音楽を作ることが出来なくなってしまったのだという。
「……なんか、想像していた戦いとは違うね」
「というか、天秤世界に送られた理由も他とは異なるの。それも戦いといえば戦いなのかも知れぬが」
 最後にレキは、『羽持つ我ら』の事について何か知らないか尋ねるが、ジョセフは知らないと答える。
「何かこの世界について分かりそうかな」
「まだまだじゃな……わらわたちだけでは情報が足りぬが、他の者も色々調べている。そちらも確認しておく必要があろうな」
 レキとミアは今回知った情報をまとめて、色々と教えてくれたジョセフにありがとう、と礼を言う。
「なんのなんの。最近来客があって、街の者も少しずつじゃが、明るくなっておる。楽器を演奏する楽しさが蘇ってきたようじゃ。
 どうじゃ、わしの演奏を聞いていかんか。これでも若い頃はブイブイ言わせとったんじゃ」
 地球では死語になっていそうな言葉を口にして、ジョセフがアコーディオンのような楽器を演奏し始める。その演奏は確かに、聞く者を引き付けるものを持っていた。


「ここが『ポッシヴィ』か。……彼らはとても人の姿に似ているが、彼らは『人間』なのだろうか?」
 同じく『ポッシヴィ』を訪れたコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が、ポッシヴィの住民たちを見て疑問を抱く。コアはこの天秤世界で龍族と鉄族がいつまでも争い合っているのは、彼らの間に『人間』が居ないからだ、と考えていた。人間は時に彼ら同士で傷つけあい、また他の種族と争う事もあるが、同時に許しあい分かり合おうとする心と、その為の大いなる勇気・力と愛を持っているのだと。
「人の格好をしていても人じゃない、はパラミタで散々見てきてるからね。でも「あなたは人間ですか? 人間じゃないですか?」って聞くのも変だよね〜」
 コアの肩の上でラブ・リトル(らぶ・りとる)が言う。人、亜人、機械その他諸々が混在するパラミタで『人間』はどれか、という話になると難しいが、契約者は少なくとも人間であろう。……元の地球人から見ればもう彼らは人間ではなくなってしまっているのかもしれない点は、否定しにくいが。それほどに『人間』という括りは、都合によって広くも狭くも取られるものなのかもしれない。
「彼らが人間かどうかは、彼らがここに来る前の境遇を知ればある程度推測は付くはずよ。まずは街の人に話を聞いてみましょう」
 高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)のアドバイスに従い、コアは街を歩く人に朗らかな挨拶とフレンドリーな笑顔(コア基準)で話しかける。
「私は蒼空学園のハーティオンという者だ。はじめまして」
「う、うわあっ!!」
 ……見事に、街の人には驚かれてしまった。コアの体格を思えば無理もない反応である。
「あんたねー、それでなくてもデカい体でしかも鉄族っぽい見た目なんだから威圧しちゃダメっしょー。
 あたしのやり方を見てなさいっ。……やっほー♪ あたしラブ。ヨロシクね? このデカイのはでっかいけど無害だから、そんなビビらないでいいわよ〜」
「あ、あぁ……そうか、君たちは契約者か。既に何人かが話をして、何でも『歌でこの世界の戦いを終わらせる』って言って、契約者の持ってきた船で出て行ったよ。
 あいつら、生き生きとしてたな。俺も次は参加したいぜ」
 住民の言葉に、ラブが早速食いつく。トップアイドルを夢見る彼女としては当然の結果だろう。
「あたしも歌には自信あるわよ! お近付きの印に一曲、プレゼントしちゃう!」
 そう言ってラブが、幸せの歌を披露する。最初はどこか気怠げだった住民が、ラブの歌に目に輝きを取り戻していく。
「おぉ、素晴らしい歌だ! 俺たちにないものを君たちは持っているようだ」
「ふふん♪ これくらいはねっ♪」
 誉められて得意気なラブ。どうやら彼らは楽器の演奏こそ一流だが、歌に関しては個人差があるらしかった。
「君たちは演奏に長けているようだが、その、変なことを聞くが、君たちは人間なのか?
 私は人間の無限の可能性を信じている。この戦いも、人間の力があれば必ず収めることが出来ると思っているのだ」

 ……コアがその質問をした瞬間、盛り上がりを見せていた空気がフッ、と冷たくなったような気がした。

「お、俺たちが人間だって!? ふざけるな!!
 俺たちは人間族に迫害されてきたんだ、そんなヤツと一緒にされても困るぞ!!」
「そうだそうだ!! 俺たちは人間族とは違う!!」
「……な……なん……だと……?」
 一斉に罵声が飛んでくる。その憎悪とも言うべき言葉を浴びて、コアは思考を停止してしまったように立ち尽くす。
「あぁ、皆、本当に失礼な質問をしてしまって済まない。これもあなたたちの事をよく知らず聞いてしまったこちらの不手際だ。
 この通り、無礼を謝る。その上であなた方について、私たちに教えてくれないだろうか」
 鈿女が頭を下げ、この場の沈静を図る。その甲斐あって騒動は徐々に収まり、そして幾人かが自分たちの身の上を語って聞かせてくれた。彼らは『ミュージン族』と言い、生まれた時から必ず一つ以上の楽器を奏でることが出来るのだという。そのせいか、当時世界の大多数者であった人間族からは迫害されていたが、彼らは演奏で人間族をある意味駆逐していった。人間族の音楽が消え去り、彼らだけの音楽になろうとしていた頃、彼らはこの世界に送られてきたのだという。そして出会ったのが『ヴォカロ族』と名乗った者たちで、何と彼らは楽器を使わずに音楽を生み出すことが出来たのだという。ミュージン族はヴォカロ族の音楽を超えることが出来ず、音楽を作ることが出来なくなってしまったのだという。
「そうか、ありがとう。また教えてほしいことがあったら話を聞かせてほしい」
 鈿女が礼を言って、街の住民と別れる。彼女も『富』の事について聞きたいことはあったが、それよりもまずはコアの事が気掛かりであった。
(ハーティオンの人間賛歌は、相当のものだからねぇ。そこに「人間族は滅ぶべき」なんて言われたらどう思うことか)
 とりあえずはコアの元へ戻り、話をするべきか。そう考え、鈿女は足を向ける。


(……ここは位置的に、『昇龍の頂』『龍の耳』『龍の眼』の中心辺りに位置している。
 もし龍の眼か龍の耳、どちらかが鉄族に取られるようなことがあれば、攻め込まれる可能性が高いが……)

 街を歩きながら、イグナはこの街、『ポッシヴィ』の状況に思いを馳せる。最悪、『ポッシヴィ』を取ってから『昇龍の頂』へ、と鉄族が考えてもおかしくない位置にあった。
(この街も、戦禍に見舞われるのであれば……護らねばならぬ)
 この街の住民は、楽器を奏でる力以外の戦う力を持たない。こと戦争という武力に塗れた世界では、ひとたび襲われれば瞬く間に滅んでしまいかねない。『弱き者は護らねばならぬ』と口にするイグナの『護るべき対象』は、決して近遠やパートナーたちだけではない。
「イグナさん、お待たせいたしました」
 住民から話を聞いていたアルティアが戻ってくる。
「何か有用な話は聞けたか?」
「はい、住民さんの過去については伺えました。でも、この世界については皆さんも御存知でないそうです」
 言って、アルティアが少し残念そうな顔をする。
「……アルティアのせいではないだろう」
 ぽふ、とアルティアの頭に手を載せ、イグナが労いの言葉をかける。
「……そうですね。まだ、始まったばかりですものね。ありがとうございます、イグナさん」
 笑顔を取り戻したアルティアに頷き、イグナが心に誓いを立てる。
(そう、私の護るべきものは……)


(鉄族に『I2セイバー』の設計図を流し、龍族にマルクスを派遣して技術を提供した。その結果、オレ達に対する敵対行為の禁止を約束させた。
 『ポッシヴィ』の住民も、オレ達の話を聞いてくれ、こうして協力してくれた。あいつらの演奏はオレでも分かる、心に響く。
 ……なのに、何故誰も耳を傾けようとしない! どうして戦いは終わらないんだ!!)

 バスターズフラッグの甲板上で、日比谷 皐月(ひびや・さつき)が表情にこそ出さないものの、憤りを心の中で滾らせる。
 彼の目的は、『ツェツィーリアが存分に歌えるように『安全』を買った上で、戦場でゲリラライブを行う』だった。その為にマルクスの力も借り、龍族と鉄族に取引を持ちかけ、双方に『自分たちに対する敵対行為の禁止』を約束させた。実際その約束は守られ、彼らは戦場にありながら一発の弾も浴びていない。
 ……だが、どれほどツェツィーリア・マイマクテリオン(つぇつぃーりあ・まいまくてりおん)(身体は雨宮 七日(あめみや・なのか)のもの)が歌っても、どれほどポッシヴィの住民が演奏をしても、戦場で彼らの音楽を聞き、戦いを止めようとする者は居なかった。……いや、聞いていた者は居たかもしれない。だが戦いを止めるには至らなかった。2つの戦いはそれぞれ鉄族が『龍の眼』を取り、龍族が『ポイント32』を取る結果に終わった。その流れを、変えることは出来なかった。
「ごめんなさい……ボクが、ボクの力が足りなかったから……」
 ツェツィーリアが目から涙を零し、自らの力の無さを嘆く。……否、ツェツィーリアの力が無いわけではない。『戦う』という力があまりに強すぎるだけのことなのだ。
「…………」
 かけるべき言葉が分からず、皐月は泣きじゃくるツェツィーリアを胸に抱く。胸から伝わるツェツィーリアの悲しみを感じつつ、皐月は静かに心に火を燃やす。


――「ボク達『BANDS of BOUNDS』は」
    「生きとし生けるすべての為に――」


      「歌を」


『見上げれば、星。空に光る』
『見下ろせば、土。緑茂る――』
――


 ライブの光景を思い出し、その歌は“本物”であることを再確認する。
(……オレたちは決して、英雄になれないかもしれない。
 それでも見せてやるさ、『英雄になれない人間の戦い方』ってやつをさ)