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リアクション
第6章 輪廻3
人々が、次々を脱出し、祈姫はまだ残っていた。
一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)はカン陀多 酸塊(かんだた・すぐり)とともに糸を垂らした。
「祈姫さん、この糸を握ってください。鉄生さんはこの端をゆっくりとたどってください、決して離さないでくださいね」
ぎこちない手で、糸の端を掴む葦原 鉄生(あしはら・てっしょう)。
「強く揺らしてはいけません。糸は切れます。あなたたちをつなぐのはたった一本の糸であることを忘れないで」
「おとう……さま……」
崩れゆく世界の中で、父と娘は初めて目を合わせた。
「別の世界のもう一人の僕は、どんな父親だった?」
「今のおとうさまと同じ目をしてました。私を生きながらえさせるため……ご自身は葦原の民とともに果てました。桜の花びらとなって私を包み、過去へと送り込んだのです。同じ歴史を繰り返さないように、と」
「そう……シャンバラ国と女王復活の日まで、葦原の神子を守り次世代へと継承させる。僕は、葦原藩主としての命をまっとうしたんだね」
鉄生の視界は涙でかすんでいた。
「だめな父親でなくて良かった」
「はい、おとうさまは立派な方です」
「……もう少しだ。おいで、あと少し。これからは二人で一緒に暮らそう」
「……」
鉄生は手を伸ばす
祈姫は微笑む。
あともうひと伸ばしすれば、互いの手を握れたはずだ。
だが、届かなかった。
祈姫が寸前で糸を、持っていた手を放したからだ。
「なぜ……!!!」
「私にはわかっていました。月の輪を閉じるのが私の役目……私の意味」
祈姫の姿は吸い込まれ、急速に遠のいていく。
彼女は最後の力を振り絞って、筆を動かした。
輪が小さくなる。
言葉が桜の花びらに乗って聞こえてきた。
「おとうさまの子に生まれてきてよかった……ありがとう」
そして、月の輪は閉じられた。
{center}卍卍卍{/center}
どこからともなく声が聞こえる。
優しく、すべてを包み込むような声だ。
鬼子母帝……そして葦原の戦神子は、このままマホロバを見守り続ける存在となりましょう。
もう、二度とあわられることはないかもしれません。
でも、祈りつづけましょう。
いつもあなた方のそばにいます。
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