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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第3回/全3回)

リアクション


【1】


 信者を乗せた船は大神殿に向かって出航した。
 波ひとつない水路に船の作る波紋が静かに刻まれた。

 ”さぁ今日は祝福の日 共に祝おう この時を”
 ”神の愛でしこの町に 輝かしい朝がやってきた”
 ”祈ろう 我等が愛する神に 祈ろう 永久なる繁栄を”

 甲板では教団の聖歌隊が歌い。信者たちを祝福している。
 教団のローブを被ったたくさんの人たちの中に、アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)の姿があった。
 アイリだけじゃない。特務隊、レジスタンス、それからこの時代に来た契約者(コントラクター)も紛れ込んでいた。
「……この作戦、絶対に成功させてみせます」
 遠く天に届く大神殿を見上げた。

 グランツミレニアムの地下深く、ほとんど海に浸かってるようなガレキの世界に、超兵器”グランガクイン”はあった。
 海京が沈んで20年、ずっとこの超兵器を守ってきた大文字博士と、そして日本の救國軍、特務隊『朝焼』とミレニアムのレジスタンスが手を組み、グランツ教への反攻作戦、そして時空を超えて災厄を振りまく怪物を止める作戦が進行していた。
 グランガクイン内部にあるイコンドックでは、イコンの最終調整が行われていた。
 整備の陣頭指揮は、天御柱学院の整備教官を務める長谷川 真琴(はせがわ・まこと)。彼女は事前にそれぞれのパイロットから集めたオーダーをを元に整備をしていた。
 格闘性能、射撃性能、策敵機能、装甲、速度、パイロットが望む部分に照明を当て機体性能を引き出す。それが彼女の整備としての仕事だ。
「……バイパーゼロの照準調整はしっかり確認して下さい。射撃武装がメインの機体ですから少しのズレも命取りになります。それから魂剛は運動性能を重視して下さい。こちらは格闘戦主体の機体です、激しい動きにもついていけるように各連結部はしっかり留めること」
「了解!」
 手際よくプランを立て、特務隊のスタッフとともに調整を行う。
「にゃにゃ〜にゃ〜(ドクロボタンは押さないようにね〜)」
「ドクロボタン……? ああっ!?」
 ちび あさにゃん(ちび・あさにゃん)アンジェラス・エクス・マキナ(あんじぇらす・えくすまきな)も、整備を手伝っていた。
「な、なんなのこの悪趣味なスイッチは! いつの間にゾフィエルに……」
「にゃー……(わかんない。気が付いたら全部の機体についてた)」
 喋れないちびあさはそう言って、ハンドベルト筆箱で書いたメモを見せた。
「一体どこの誰が……」
 そんな2人の頭の上で、スイッチの仕掛け人である笠置 生駒(かさぎ・いこま)は、ふんふーんと鼻歌を歌いながら機体を磨いていた。
「……まぁいいわ。押さなきゃ安全でしょう」
 アンジェはそう言って、ゾフィエルをに手を触れた。これからパートナーがこの機体に乗って戦いに出る。
「……もう何も言わないわ。でもこの時代で死ぬなんてバカな真似だけはしないでね。彼女たちを頼んだわよ、ゾフィエル」

「……整備は進んでいますか?」
 そこに出撃を控えたヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が来た。
「ええ、順調ですよ。出撃予定時刻は16時でしたね。それまでには仕上げてみせます」
 真琴はファイルをめくり、真司のゴスホークのオーダー表に目を通した。
「基本は格闘性能に重きを置くかたちですね。主力がプラズマライフルの内臓型ブレードになりますから……こちらの出力を3%上げましょう。それから装甲も。最低限残して軽量化したほうがいいかもしれませんね。少しでも接近戦での運動性を上げないと……」
「なんとかなりそうか?」
「なんとかしてみせるのが整備の仕事です」
 真琴は微笑んだ。
「今回は23年ぶりに手を入れた機体ばかりです。何が元で事故が起こるかわかりません。機体トラブルが作戦の妨げになるのは整備士として最大の恥です」
 そう言ってスタッフに呼びかけた。
「細心の注意で各部の確認と調整をお願いします。そして、最高の状態で機体をパイロットに渡しましょう」
「おおーーーーーーーっ!!」
 真琴は小さく頷いた。
「さぁ事態は一刻を争います。整備の完了を急ぎましょう」

 その頃、グランガクイン司令部では。
 オペレーターとして司令部に入った荒井 雅香(あらい・もとか)は、自前のノートパソコンをオペレーションデスクに繋いで、各所から入ってくる報告の処理に努めていた。
 司令部には大文字博士と太公望、大神殿にはサマーブルーとアイリが潜入しているのだ。
(……前にもこんな……)
 その内に、雅香の中に眠っていた記憶が戻ってきた。
(そう。前にもこの司令部にいたわ。私がオペレーターで、勇作さんが司令官で……)
 海京転覆を目論む教団と戦ったあの日。セクシー★アラサーに変身したり、風紀委員の鈴木をアイアンクローで黙らせたり、博士のフリフリドレス&ニーソ姿を目の当たりにしたり……それはつい数日前のことだったがとても懐かしく思えた。
「待っててね、勇作さん。必ず帰るわ」
 各部署、イコン隊との通信をチェック、モニターに作戦計画と決行までの時間を出し、グランガクインの進行方向の地形情報を徹底的に洗い出した。
 それから、グランガクイン内の仲間からこちらに合流していない仲間の連絡先を教えてもらい、共闘するすべての人と密に連絡を行えるよう調整を行った。

「……大文字博士」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)は博士に声をかけた。
 グランガクインの最終チェックをしていた彼は、少し顔を上げて彼女を見返した。
「なんだね?」
「最後のご挨拶に来ました」
「何だ、最後だなんて……」
 怪訝な表情の博士に、イーリャは手の甲を見せた。
「勝っても負けても、もうこの時空に留まる時間はありません」
「そうか……そうだったな」
「大文字博士、それから同志(タヴァーリシ)太公望」
 近くにいた太公望はこちらを見た。
「この一週間ありがとうございました。ゆっくりお別れする時間がないのが残念です。願わくば笑顔でお別れ出来ることを」
「……こちらこそ。君達のおかげでグランガクインを眠りから覚ますことが出来た。礼を言う」
「それに教団に立ち向かう機会も得られたよ。あんたら彼方からのお客さんには感謝してもしきれない。向こうに戻っても元気でな」
「……はい」
 イーリャは記録メディアを博士に渡した。
「これは?」
「私が関わったイコンの記録です。もし生き残れたら、どうか未来に伝えてください。この世界でイコンは廃れゆく技術ですが……関わった多くの人のことが忘れられないように……一人の技術者としてお願いします」
「……わかった。約束しよう」
 だが、と博士は言った。
「けれどこれを失われた技術の記録にする気はないぞ。戦争が終わり、パラミタとの国交が戻った時、再びイコンが必要とされる日が来る。その時は、この記録から新しいイコンの歴史が始まるのだ」
「……そうなるよう遠い時空の果てで願っています」
 イーリャは振り返り、ヴァディーシャ・アカーシ(う゛ぁでぃーしゃ・あかーし)の肩を叩いた。
「グランガクインをお願いね」
「ママ……」
「もし何かあったら、あなただけでも生き延びて。あなたならきっとロストにも耐えられるって信じてるから」
 ヴァディーシャは小さく頷いた。
 彼女はオペレーターとしてここに残り、作戦のサポートを行う。そしてイーリャはイコンで戦場に出る。
「……それじゃ真琴さんたちを手伝ってくるわ」